第8話 《喰狼群》
「これで大方片付いたか……」
血まみれの狼の頭を片手に呟く。先程南東にクロ丸の影の応用技、《流歩》で進んだ。《流歩》は脚に影を纏い地面の影を媒介にして歩くことで高速かつ流動的に進めるようになった。しばらく進んだら、《喰狼群》の本群と思われる狼の群れと接敵、数は5000弱であった。
◇◆◇◆
俺は接敵した瞬間に、すぐさま2000強の狼を構築、顕現し、側面を囲うように展開した。《喰狼群》もすぐにこちらに気づき、一匹の遠吠えで5000弱の狼がこちらに牙を剥く。出会って数秒でゴリゴリの正面衝突。どこの中世の戦い方だよ。
数で圧倒される自軍は手こずるかと思いきや……どこの前線でも押している。
どうやらクロ丸に一度取り込まれたことで強化されたようだ。
一番先頭で狼を屠りながら全体を見る。味方の死体が少ないと思ったら目の前で自分の配下の狼が食いちぎられた。そのまま死ぬのかと思いきや、黒い水となって地面に溶け込んでいく。
(なるほど、殺されてもまた使えるのか。)
すぐにまた構築しようとしたができない。どうやら再構築までに
しかし味方の狼が殺した狼たちは自動的にに俺の配下となっていくのが魂のつながりで分かった。クロ丸の中にいる魂の数がどんどん増えていく。
俺は倒した狼達を即座に構築。前線に味方として復帰させることで時間が経てば経つほどこっちが優勢になってきた。相手は敵の数がどんどん増えることに驚き混乱している。散らばっていた敵の狼が集まり始めた。できれば早く仕留めたい。
俺は喰狼群を早く殲滅するため第二波目の攻撃を仕掛ける。
「おいで、《竜》」
俺の体から大量の黒い妖気が流れ出て頭上に集まっていく。そして《竜》は地面を震わす雄叫びと共に頭上に顕現した。喰狼群はその雄叫びにこちらに突撃する足が止まる。
《竜》は妖気を解放した時に出てきた一つ目のサメのような姿をした、どす黒い巨大な異形である。こいつも一応魂の繋がりがあるが、クロ丸経由ではなく俺に直接繋がっている。そのため、《竜》の感情が理解できた。
煮えたぎるような怒り
俺が感じていたあの怒り。
己を焼け焦がすような強烈な怒りと
しかし手持ちで一番突破力を持つ駒だ。この局面で使うのが最善。
右手を前に突き出し、群れに向かって
ただ《竜》は操ることが難しい。
敵の方へ行ってしまい戻ってこなかった。
(野放しにしといても良いものか……)
そんなことを考えながら敵の本拠地らしきところに近づく。
そこは敵の狼が渦巻いており、負傷した狼に守られた白い狼がこちらを睨んでいた。
たびたび襲いかかってくる狼を片手で屠りながら前進する。もう目と鼻の先まできた。手に《黒掌》を纏い一気に肉薄する。
白い狼が牙を向いている頃にはもう首が飛んでいた。ボスがいなくなったことで群れは混乱し、一気に瓦解。一方的な残党戦となった。
◇◆◇◆
場面は戻る。辺りには死骸はなく血の湖ができていた。ほぼほぼ残党は狩り終わったので戦果の確認をする。クロ丸が保有する異形の数はどうだろうか?
(4000弱しか増えてないだと?なんでだ?)
あの敵の数は優に5000は超えてたはずだ。しばらくして違和感に気づく。
(《竜》の妖気量が増えてる……成る程)
どうやら《竜》が喰った異形はクロ丸に取り込まれるのではなく、《竜》に妖気として還元らしい。
(《竜》が強くなっているのは切り札的意味ではうれしいが、これでは手駒が増えない。多用はできんな)
これからは手駒を増やす方針で行く。
「さてと……」
俺は前を向き、手駒化した4000弱の狼を目の前に構築する。全ての狼が俺に頭を垂れていた。なんか少しむず痒いが、それは置いといて一緒に出てきたポメラニアンに聞く。
「なあ異形って作れんのか?」
「神でも権能を使わないとできない所業だぞ。お前ごときができるか!!……と言いたいがお主なら出来るやもしれん。」
「一応出来るのか。ならこいつらを使ってやってみないとな。」
俺がそう言うとアヌビスが初めて動揺を
「まさか何千もの魂を一つにまとめるのか?そんなの聞いたことがない。拒否反応が出るに決まっている。それに神々の意に反することをしたら"神罰"が下るぞ。」
「知るかよ。こんな所に俺を送っといて助けない奴が神罰もクソもあるか。お前も追放されたくせになんでそっちの肩を持つんだよ。」
「これはギリシャ神だけではなく、エジプト神、北欧神、仏神、全ての神の問題なのだ。人間が神を超えるなどあってはならん。お主は全ての神を敵に回すつも「うるせえ」」
俺は少し声を低くする。
「基本無干渉な神共が何ほざいてんだよ。今更人間に力を超えられそうだから神罰を下そうとか幼稚か。黙って見てろ。」
少し感情的になってしまった。すぐに目の前に集中する。手駒の量も考えて3000体を黒い液体に変化させ一つにまとめる。3000体分の妖気と魂を圧縮するのはかなりきつい。クロ丸の補助が無ければすぐにでも爆発しそうだ。
圧縮する感覚は紙粘土をこねる感覚に近い。そうすると次第に圧縮されていく。
「クソッ……」
圧縮はできたが、ボコボコと音を立てていて、気を抜いたら破裂しそうだ。今はこの圧縮した黒い液体を自分の妖気で覆って溢れないようにしている状態だ。
俺はさらに妖気を流し、妖気の厚い
次第に泡も収まりソフトボールぐらいの大きさになった。最初は家一戸分ぐらいだったのでだいぶ圧縮できた。
(次の段階に進むか)
圧縮した後は形決めだ。異形3000体分に似合う姿にしようと思い、悩んでいると一人でに構築が始まった。
(え、なにこれ。俺が選ぶ権利無し?)
結構悩んで作ろうと思ったんだけど……。
少しガッカリしながら構築されていく姿を見る。人型のようだがなんか様子が違う。……なんだこれ。
構築されたのは狼…?最初は狼かと思ったが二足で立ってる。何故か執事っぽい服着てるし。燕尾服って言うんだっけ。
目の前の異形は、頭が灰色の狼だが体型は人間という不思議な姿で俗にいう
《人狼》に近かった。
《人狼》は一応元の世界にもいた。《送り狼》が進化したと言われていて、強さは他と一線を
しかし目の前の異形は明らかに《人狼》とは格が違っていて、気配も妖気量も尋常じゃない。それに服装もこの奈落には似合わない程整っている。
目の前の異形はゆっくりと目を開けると俺を見た。
そして胸に手を添え、ゆっくりと片膝をついた。
(え、え、これどういう状況?)
予想外の行動に俺は困惑する。目の前の異形は顔を下に向けたまま喋り始めた。
「我が
え、俺どうすればいいの?
心の中で困惑していると頭の中からアビヌスの声が聞こえた。後で聞いたが
《心話》という技らしい。
(名を与えるのだ。普通の式神なら名は要らんが、こう強大な力を持つものは儀式的に与えた名前で縛った方が良い。
そうすることでお主との繋がりが強くなる。むしろ名前を決めないとなにをしでかすか分からんぞ。)
(こいつを作るのに反対だったのにどうしてアドバイスをくれるんだ?)
こいつの真意がわからない。
(もう作ってしまった以上仕方がないであろう。こんな怪物を放り出すのはかなり危険だ。それに…お主がここに落ちてきてしまったのに無干渉の神に思うところが無いわけでもないのでな。)
…こいつも神として色々考えてんだな。そう思うとさっきの発言が急に恥ずかしくなった。
(その、、さっきはごめん。感情的になりすぎた。)
(もう一回行ってはくれぬか?)
(無理)
◇◆◇◆
一応関係は改善っていうことで……。
さっき姿を作れなかった分良い名前にしたい。アビヌス抜きで実質初めて喋る配下だから最古参に相応しい名前はないだろうか。
(ウルフ…違うな…執事…微妙…アッシュ…似合うかこれ?)
考えられるものを出して見るがどれも微妙だ。するとアビヌスが提案してきた。
(ウプアはどうだ?本来省略するのは無礼にあたるのだが、私が提案するのだから誰も文句は言うまい。)
ウプアとはエジプト神話の神、ウプウアウトを省略した名前だ。ウプウアルトはアヌビスのもう一つの名でもある。自分の名前を使わせるほど相当気に入っているらしい。
神で思い出した。ニホンオオカミの神"
俺は目の前の異形の肩を触りながら伝える。
「お前の名は『真神』そして『ウプア』だ。」
ウプアは顔を上げ恍惚とした表情で呟く。
「『真神』『ウプア』…なんて甘美で素晴らしい響きなんでしょう。謹んで拝命致します。」
呟きにしてはでかいな。
「では
そう言うと目にも止まらぬ速さで闇に消えていった。俺はなにもしていないのにクロ丸の中に魂がものすごい速さで増えていく。そして二分足らずで1000体の狼が新しく配下となり、ウプアが戻ってきた。
「我が主の手間を取らせずに私が排除してきました。」
尻尾あったら尻尾振ってそう。そう思うぐらい褒めて欲しいそうなのが魂の繋がりで伝わる。
「そうか、良くやった。これからも引き続き頼むぞ。」
そう言うと嬉しそうな気配を出しながらクロ丸の中に消えていった。なにもない時は式神化した異形は全部クロ丸の中で休んでいるらしい。
めんどくさいのが一体、いや一人増えた……。
あと百体をまとめて一匹の黒い狼作りました。名前は《
毛並みが綺麗で忠実に命令を聞いて可愛い…。異形軍団の癒し担当です。
あ、はい、もちろんモフりました……。
軍勢
約2200→約4100
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誤字脱字がありましたらコメントで教えてください。m(_ _)m
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