異形使いの俺は影で主人公を眺める
YODAY
奈落から這い上がる死
第1話 暗転
今日午後一時半頃、新潟県新潟市のSKYビルで"
「またかよ…」
ここんとここんなニュースばっかだ。
2年前、突如異形が現れ世界は混乱した。特に一番最初に出現した東京では1000体以上の
そこに現れたのが正体不明の異能集団"死縷々士"だ。彼らのおかげで首都は取り戻された。しかし被害は凄まじく、5万人以上の死者、ケガ人を入れたら数十万人を超えた。
日本政府はこれを受け、死縷々士を国家機関に格上げし、この異形災害を"東京百鬼夜行"とよび令和最大の事件として今でもその恐ろしさを象徴している。
そんなことを考えながらニュースをスマホで見てると、うしろから
「うっすえっすあっすおっす!
という奇妙な掛け声と共に教室に入ってきた悪友に顔をしかめる。
「朝からうるさいなお前。」
と俺が呟くと、
「挨拶こそ生活の礎だろ!何も言わないより十倍良い!」
とズレた返事が返ってきた。
こいつは中学1年の頃から変わらない親友、
成績は県の中でも進学校のこの学校に入って来れるレベルなのでそんなに頭は悪くない。4年も一緒のクラスなおかげで疲れることも多いが気のいい奴だ。
「何だ、朝からそんなニュース見てんのか。気が滅入るぞ、そんなの見るよりこれ見ろ!」
勇樹が俺のスマホをぶん取り何やら検索して俺に見せてきた。
「死縷々士と"大入道"の戦い!すげえよな〜、自分の何十倍もある異形と戦って勝つんだぜ!かっけよな〜、給料も良いみたいだし、人気者になれるし俺も挑戦してみよっかな〜」
前言撤回、こいつはアホだ。異形と戦うってことは死ぬ可能性もあるし、一生の傷を負うことも多い。
命を懸けて戦ってんだから給料が普通より高いのは当たり前だ。そうじゃなければ誰もなりたくないだろう。誰が命懸けて安月給欲しいんだ。
それに死縷々士はほぼ才能だ。努力でどう頑張ろうとも素質のあるやつの方が強い、これは師範の言っていたことだが全くその通りだ。頑張っても越えられない壁があるし、『天才は努力家に勝てない』なんてありえない。努力家とはそれ以外に特筆したものがない人に言うものだ。死縷々士だって才能がある奴と才能のない奴だってある。"アイツ"だってそうだ。
俺が勇樹が言ったことに不満をもっていると教室に"アイツ"が入ってきた。
「みんなおはよう!」
「おは〜」「元気いいな〜」「おはようございます、
"アイツ"、
「カズマッ!昨日せっかくあんたの家に行ったのにいなかったじゃない!どこ行ってたの!」
俺の元幼馴染の
「別にあんたに関係ないじゃん。そんなことよりカズマくん、駅前のパフェ屋さんに連れてってくれてありがと♡」
俺の元許嫁、
「何よあんた、私が昨日誘おうとしてたのに邪魔したわね!」
「リコちゃんが遅いのが悪いんですー。」
2人が睨み合っていると和馬がオドオドしながら
「喧嘩はダメだよ…」と2人の仲裁に入った。
「ふんっ」
「わかったよ♡」
と2人が喧嘩を止める。ここまでがいつものやりとりだ。
「勇樹、お前はあれに混ざらなくて良いのか?」
俺が尋ねると勇樹がスマホから顔を上げて呆れたように
「またその話かよ、俺はあんなの無理無理。見てるだけで歯全部溶けそうなのに、近づいたらアメーバみたいになっちまう。お前と一緒にだべってんのが一番気が楽だわ」
と言った。他にも見ているだけで近づかない奴らもいるし勇樹と同じ考えなんだろう。
ちなみに俺は和馬が嫌いだ。俺が「努力しても天才には勝てない」と思うようになったのはこいつと戦ってからだ。
アイツらがいちゃついてるのを尻目に俺は授業を真面目に受け、いつもと変わらず帰路に着いた。
___「ただいま。お父さん。お母さん。」
俺はアパートに着くと仏壇の父と母に手を合わせた。父と母が死んだのは死縷々士だったからだ。
父と母は強く、仲間からも尊敬され人望もあった。俺はそんな両親を誇りに思い自分も両親のようになれるよう鍛錬も積んだ。その頃は許嫁もいて、幼馴染もいて幸せだった。しかし父と母は死んだ。因縁の敵の異形にやられたわけでもない。
東京百鬼夜行で助けた人に後ろから刺されて死んだ。その知らせを祖父母の家で聞き、祖母は泣き叫び、祖父は膝から崩れ落ち、俺は玄関で呆然と突っ立ていた。
父と母が理念としていた"弱者救済"は間違っていたのか。なぜ父と母は助けた者に殺されなければならなかったのか。
頭の中で父と母が日々俺に言い聞かせてくれた言葉が渦巻く。
"この力は人を助け幸せにするために使いなさい"
"後悔する前に人を助けなさい"
刺された時、父は間違っていたのだろうか。母は後悔していたのだろうか。刺した人はそのまま異形に殺されたらしい。
やり場のない怒りを胸に抱きながらそれでも俺は父と母を信じ、鍛錬を続けた。
しかし父と母が死んでから一年後、"アイツ"に出会った。俺は並ならぬ努力をし、同年代に追随を許さないほど成長した。それでも慢心はせずに戦ったはずだ。なのに負けた。妖術を半年学んだだけのアイツに、術すら使えず自分の得意だった妖気の操作だけでボコボコにされた。
その時に幼馴染と許嫁には愛想を尽かされていたと思う。15年間鍛錬し続けた奴が、半年前に妖術を知ったばかりの奴に負けたのだから当然だろう。
その後、俺は父と母が死んでから俺を育ててくれた祖父母の家を出た。祖母は「まこちゃんまでいなくなったら私はどうすればいいの!」と泣いたが、祖父は黙って頷き父と母が稼いだお金と殉職した時の特別手当をくれた。おかげで生活には困っていない。
俺はテーブルに荷物を置き、木刀を持ってアパート裏の空き地に行った。学校から帰ってきてから空いた時間鍛錬をするというのが日課になっていた。流石に亡き両親から受け継いだ体を無駄にするのだけは怖かった。
2時間弱鍛錬をしてから、そろそろいいだろうというところで終わりにした。
「腹減ったな…」
一人暮らしを始めてからはほぼ買い弁だ。自炊はカップ麺がギリギリ入るかどうかだ。日も暮れ始めていたので木刀を家に置きコンビニに向かった。五月の夕方にしては結構暗かった。
___コンビニからの帰り道、なぜか回り道をしたくなり、公園に寄った。
そこで俺は見た。
真っ黒で光沢すらないダークマターみたいな穴があった。大きさはマンホールぐらいの大きさで微動だにしない。俺は自然湧きしてきた異形かと思い体に妖気を満たしながら近づく。自然湧きした異形は大体雑魚なので俺はさっさと消そうと思っていた。
しかし近づいても逃げる素振りもしない。本当ならすぐに消すべきだったが、俺は好奇心で穴の中を覗いてしまった。
そこには見惚れるような黒い輝きを放つ石と
目があった。
「あ、ああ…」
俺はその目を見た瞬間動けなくなってしまい、穴から無数の手が伸びてきて俺を引きずりこんだ。
最後に手の合間から見えたのは、七時を指し鐘を鳴らす公園の時計だった。
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