第13話 悪夢

今回かなりエグいので話を分割します。かなりグロい描写があるので苦手な人は絶対飛ばして下さい。


主人公の気持ちがあまり描写されていないので近々更新します。

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____夢を見た



父と母が異形と戦っている夢。それは夢というにはあまりにも血生臭くて、つらくて、それでいて何処どこか懐かしい。


相反する感情と夢特有の浮遊感のせいでぼんやりとしか感じられない。

しかし荒い息遣いの音でピントが合っていた。


血だらけの父と母と一人の男が無数に転がる異形の死体の上に立っていた。嗚呼ああ、そうだ、祖父の家に両親の死を知らせにきた男だ。訪ねてきた時は目が死んでいたが、今はまだ目に光が残っている。


「僕はあっちの方を処理してきます。兄弟子も気をつけて。」


そう言うとどこかへ去ってしまった。そうか、この人は父のおとうと弟子でしか。夢の中だからかぼんやりと理解できた。

しばらく父と母が辺りを探るように回っている姿をただ見続けていたら、遠くから女性の叫び声と男の怒鳴り声が聞こえた。


すぐさま父と母が声の方向へ走っていく。瓦礫がれきの向こうに姿を現したのは二人の男女が尻もちをついて後ずさっている姿と、そこへゆらゆらと近づいて来る《暗鬼》だった。《暗鬼》はBクラス程度の強さであり、近接以外の攻撃手段が無く、知能も低いため集団で囲めば普通に倒せる。しかし近接戦ではBクラスの中では比類なき強さを持ち、正面から戦うのは白銀級でも手こずることがあった。


それが今は二体。一般人が抵抗できるはずも無く男女二人は必死の形相だった。

父は躊躇ちゅうちょすることなく"龍火指りゅうびし"を暗鬼にぶつける。

"龍火指"は炎で顕現された龍の爪を当てる技で暗鬼を一発で倒せる技ではないが、頭を破壊し再生を遅くすることで十二分に効果を発揮していた。


一体が戦闘不能になっている間に父の愛刀の半月刀でもう一体を横から切り付ける。一流の死縷々士も舌を巻くような見事な動きだった。


「どこか怪我はありませんか!?」


母はその間に二人に駆け寄り治療を始めようとしていた。女は無事だったが

男の方は左目が潰れていて血だらけだった。

母はすぐさま回復の妖術を使い、傷を治し始めた。


後ろで戦っている父を背に母は集中して治療に臨む。

___しかし妖術が途切れる。




やめろ、見るな。もう結末はわかるだろ、目を向けるな。



そんな心とは裏腹に、身体は頭を動かせず、瞬きも許されないほど硬直しており、

目をらせなどは出来なかった。



「え、なん…で…?」



母は疑問の声をあげていた。腹に刺さったナイフとそれを刺した女に。

女は母の横腹からナイフを抜くと母の首を掻き切った。母の身体がゆっくりと横に倒れる。女はすぐに立ち上がり父の元へ向かう。血だらけだった男も立ち上がり、どこからか包丁を取り出した。



暗鬼の腕と刀で鍔迫り合いをしていた父も、母の妖気が消えた事への異変に

気づき暗鬼を蹴り飛ばし、後ろを振り返った。しかしその目線は母の元から自身の胸元へと動く。その胸の中心には深々と包丁が刺さっていた。父の手から半月刀が落ちる。父が包丁を突き刺す腕に手を掛けるが、男は笑うように目を細めながら

心臓の感触を確かめるように包丁をさらに押し、父を崩れ落ちさせる。


包丁を引き抜くと母と同じように首を掻き切った。鮮血が男の顔にかかる。男はしゃがむと父の肩を押して仰向けに倒れさせる。そして顔を覗き込むと満足気に立ち上がり父の身体を足で転がすと女と去って行った。



蹴り飛ばされた暗鬼が立ち上がり、父にゆらゆらと近づき覆い被さった。

静かな東京の瓦礫の中に咀嚼音が響く。




ただ、母は息も絶え絶えになりながら首にかけていた御守りを握る。

それは初めて俺が母と一緒に護符を作った記念のものだった。


母は口から血を流してあごを血で染めながらなおも喋ろうとする。もう既に母の呼吸音には濁音が混ざり肺に血が溜まっているのを告げている。喋るのも激痛なはずなのに母は言の葉を紡ぐ。



「ま゛ご ど  あ゛り゛が どう゛「ゴプッ」    

                  つ゛よ゛ぐ い゛ぎ で  」



そう言うと血に塗れた唇で御守りに口付けをした。そこに暗鬼が覆い被さる。



そこに人はもう居なかった。








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