第14話 戦果 上



「お目覚めになりましたかあるじよ。お目覚め後に誠に申し訳ないのですが報告をさせて頂きます。」



目を覚ますと横にはウプアが跪いていた。律儀なことだ。

そしてウプアから目を離し、周りを見てみるが《タイタン族》は見る影もない程消え失せていた。どうやらあの騎士達が働いてくれたようだ。


それよりさっきまで見ていた夢を思い出せない、妙に既視感のある夢だった気がする。


…まあ然程さほど意味は無い夢だったのだろう。俺は夢に対しての思考を排除した。

俺は起き上がりウプアに目を向けた。


「戦果は?」


「《タイタン族》を完全に殲滅完了、"秘宝"の回収、そして新たに戦力になりそうな者を見つけました。」


?」


ウプアが指しているのは単純な兵員ではなくウプアや騎士団長のベルラトのような単体で戦況を変える力を持つ個体のことだ。

見た感じウプア程の妖気オーラを持っている奴は見当たらなかったが……。

《タイタン族》に紛れ込んでいる奴ならほぼほぼとされた神だと思うが。


まあ見て見ないと分からないか。"秘宝"は後回しにしよう。

少し考えてからウプアに命令した。


「俺はそいつの場所に向かう。お前は俺の元に"秘宝"を持ってきてくれ。」


「御意のままに。」


そう言うとウプアは下がっていった。


アビヌスはもうそっちに行ってるらしい。俺はクロ丸から《影狼》を呼び出し、背中に飛び乗ってそこに向かった。




◇◆◇◆



「……これは。」

目の前には全長5mはありそうな人型の異形がいた。


「おお、来たか。お主が寝ている間に興味深い物を見つけてな。

これがなんだか分かるか?」


アヌビスの位置を魂の繋がりで辿たどって進んだら、案の定そこには小さいポメラニアンがいた。見るからに嬉しそうだった。


アヌビスに近づきながら問う。


「何者だこいつ?ただの異形じゃなさそうだけど。」


「こいつは神の分身体だ。まあ現世や奈落などの別世界に行く時、神は必ず"化身"を用意する。化身は本来人間では無いとダメなのだが此奴に乗り移った神は手間を考えて一から構築したのであろう。」


「神の分身体を奈落に落としていいのか?」


「本当は破壊すべきなのだが、その神にはそうする時間もなかったのであろう。この奈落に来るぐらいだから余程の有事か。」


「成程……で、こいつはなんの神の化身なんだ?」


「お前もよく知っている神だ。何せ日本の神であるからな。《荒ぶる風雲児ふううんじ》、お主らの言う"須佐之男命すさのをのみこと"と言えば分かるだろう。」


俺はその名前を聞き、この異質な妖気の正体が分かり、咄嗟に一歩下がった。

"須佐之男命"は日本人なら誰でも分かるほど有名だ。姉の天照大御神アマテラスに暴虐の限りを尽くし天の国"高天原"を追放された神。また八岐大蛇ヤマタノオロチを倒すという英雄色の強い神でもある。

高天原を追放された今では黄泉の国を治めているので、奈落にも近しいようだ。


しかしアヌビスは好奇心を隠せないようで尻尾を振っている。


「見ろ、神の抜け殻ですらこれほどの"神気"を放出しているのは稀だ。これは良い配下となるぞ。これで《深淵の神》との戦いの手数が増える。」


「大丈夫か?こんなことして。後々面倒なことにしかならない気がするが……」


そう言いつつもクロ丸で須佐之男命の分身体を取り込む。


その瞬間身体の中で妖気が爆ぜる。


「ぐっ!?くそ……。」


神を取り込んだからか身体の中の妖気が不安定になっている。自我は無いのにそれでもなお抵抗しようとする。そのしぶとさだけには感服に値する。

だが俺ほどじゃない……。

クロ丸の中でその分身体の中に新しい無垢の魂を入れる。これは他の異形から生成したものだ。意外に時間がかかって面倒臭い。

須佐之男命としての身体に刻み込まれた記憶を消したので、抵抗を止めるかと思いきや、どうやら無垢の魂と合わさって異常反応が起きたらしい。


俺の妖気量は十倍以上となりいよいよ爆発しそうだ。

俺は咄嗟の思い付きで魂を四等分した。これはほぼ賭け___


すると妖気の暴走は収束し次第に痛みも引いていった。

アヌビスが俺の顔を覗き込む。


「どうだ?我の見る感じだと妖気内包量が十倍近く上がっておる。それに僅かに"神気"も感じる。お主は最早もはや人ではなく半神半人ヘーミテオスに近い組成だな。」


「ああ…確かにあり得ない程成長したが今度はマジで死ぬかと思ったぞ。少なくともまたやりたいとは思わん。」


「進歩に対価が無い訳なかろう。ほれ、早く出してみろ。」


人使い荒いよな普通に……。

そんな事を考えながら渋々クロ丸の中から引っ張り出す。


(あ、これ俺、魂分解しちまった。)


もしかしたら分解したせいでクソ雑魚異形が出来るかもしれん。

しかしそんな直前に止まるはずもなく異形が影からヌルリと出てきた。


___それも四体


それぞれ目と鼻が無く、先程倒したタイタン族にひどく似ている格好だった。

一体だけは他とは違う雰囲気だが。


四体はそれぞれ身体が別の特性があった。

一体目は身体が白色。体表は岩肌の様な感じであって、しかし全体の姿を見るとゴツい感じはしない。むしろしなやかだ。

見た目だけだとこいつが一番大人しそう……。


二体目は身体が緑の鱗で覆われていた。四体の中で一番打たれ強そうな感じだ。

それよりも……


(なあ、こいつってもしかして八岐大蛇ヤマタノオロチか?)


《心話》でアビヌスに聞くと予想通りの答えが返ってきた。


(ああ、姿は変わってはおるが紛れもなく八岐大蛇だ。これは思わぬ収穫だな。

使えるぞ、こいつは。)


妙に嬉しそうなアヌビスをほっといて三体目に目を移す。


そいつは身体が燃えていた。全身から赤い炎が立ち昇っていて、常に口から煙が出ている。熱気がここにも伝わって来るのを肌で感じた。

一番パワーがありそうだが残りの一体と見比べると見劣りする……いや残りの一体だけが別格だった。


他の三体はボンタンみたいなのを着ているが、こいつだけ何故か紳士みたいな格好をしている。そして顔は口以外包帯のような布で巻かれて隠されている。

一丁前に黒のシルクハットにマントを羽織っているのがムカつく。

そんな見た目とは裏腹に妖気の質は他の三体よりも群を抜いて良かった。恐らくウプアよりも強いであろう。


俺が観察をしていると一斉に白、緑、赤の異形がひざまずいた。黒の異形は腰を折るだけの礼だった。

白の異形が言葉を発する。



「我ら四人衆をお呼び頂き誠に感謝致します。我ら一同主君に忠義を捧げます。」



やはり忠誠を誓われるとどうしてもむず痒くなる。相手が真面目にやっていても恥ずかしいものは恥ずかしい。


そこはこれから慣れていくとして名前を何にするか決めなければ……といってももう決まっている。一目見た時この名前しかないと思った。



「今からお前達に名前を授ける。《ハク》、《リュー》、《フォン》、《裏札ジョーカー》だ。がたく受け取れ。」


「小生、ハクの名を有り難く頂戴致します。リューフォンは喋ることが出来ませぬが小生と同じく有り難く名を頂戴致します。」


どうやら元八岐大蛇の異形と炎の異形は喋ることができないらしい。まあ一人だけでも意思疎通ができればそれで良い。


「で、お前はどうなんだ、《裏札ジョーカー》?」


こいつは立ったまま包帯の間から見える口を大きく歪ませ笑みを浮かべていた。


「勿論有り難く頂戴致しますよ、マスター私奴わたくしめに自我をお与えくださった事は感謝しきれません。ただ……」


そこで言葉を切ると裏札は赤い口を見せながら続けた。


「貴方の配下として手足のように動くのは御免です。私は私に従い行動します。

余り戦力として期待せぬ様にお願いします。」


「おい、貴様。主君の前で図に乗るのも大概にしろ。身の程を弁えてからものを言え。」


裏札ジョーカーの不遜な態度にリューが反応する。しかし裏札ジョーカーは顔を少しも動かさずに返答した。


の分際で口出ししないでくれるかな。君ごときが僕に勝てると思ってるのならやめといた方が良いよ。」


「貴様……主く「構わん、好きにしろ。だがお前を創ったのは俺だ。お前は俺に何か見返りをくれるのか?」


リューの言葉を遮り言葉を投げ掛ける。こいつの力を使わないのは惜しい。


「ふむ……、ならばこうしましょう。私が《菩薩》を倒します。マスターはどうぞ"深淵の神"と戦いください。」



……悪くは無い。こいつの妖気量なら多分いけるだろう。四体の中で須佐之男命の力を最も色濃く受け継いでいるのだ。例え元は神だった《菩薩》でも倒せぬ道理はない。


「良いだろう、お前が一人で倒せ。期待してるぞ。」


「分かりましたよ。それではまた。」



そう言うと裏札ジョーカーは音も無く何処かへ行ってしまった。

まあ《菩薩》に戦力を割かなくて良い分作戦にも余裕ができた。これなら少しだけ時間ができる。


「良いのでしょうか?彼奴あやつを放置していても。」


ハクが俺に聞いてくる。こいつも裏札ジョーカーの自由さが心配なのだろう。


「大丈夫さ。強さに酔って勝手な真似をするような奴じゃないだろう。それに首輪を付けた猛犬は弱いからな。手綱は少し緩いくらいがちょうど良い。」


「主君の思案に感服致しました。差し出がましい発言をお許しください。」


裏札ジョーカーは強いが対処しきれないほどではない。


「咎めるほどのことではないよ。それよりハクリューを連れて裏札ジョーカーを監視してくれ。」


「御意」


そう言うと二体の異形は音もなく消えた。


フォンはまあ……クロ丸の中に保管しとこう。



__それじゃあそろそろお目当ての戦利品を拝むとするか。


ウプアに声をかける。


「ここに″秘宝″を持ってきてくれ。」


「承知致しました。」



ウプアがあれほど言う″秘宝″とはもしかしたら俺が見たかもしれない。

奈落に落ちる前に最後に見た俺を魅了した石。

そう思うと胸の中に胸騒ぎと期待が広がり、ウプアの帰還が待ち遠しくなった。




___________________________________



受験勉強と受験が立て込み更新に大きく時間が空いてしまいました。

本当に申し訳ございません。m(_ _)m

これからも少しずつ上げていくのでよろしくお願いいたします。






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