第15話 戦果 下



やはりな、″秘宝″とは俺が見た《あの石》で間違いない。

しかし俺が見たときよりもより黒く光輝いていて、今まで見たどの宝石よりも綺麗だと思った。

ウプアが″秘宝″と称したのも理解できる。

宝石に目を奪われたまま隣のアビヌスに問う。


「なあ、これはなんなんだ?こんな宝石″上″でも見たことがないぞ。」


答えが帰って来ないのでアヌビスを見ると尻尾を振っていた。



「なぜこれが此処ここに……、これはすごいぞ。これは宝石ではない。

いやそもそも自然に発生したものではない。

これはな……、

《鍛えし寡黙者》の失敗作だ。」


《鍛えし寡黙者》とはギリシャ神話のオリンポス十二神の一柱、ヘパイストスのことだ。その二つ名の通り黙々と武器や神器を鍛える稀有な神。

神々の集会にも出ず自身の工房でひたすらに鍛造を重ねる。そんな他とは隔絶した神だが、アヌビスに劣らぬ主神クラスらしい……。

以上がアビヌスから聞いた情報だ。


というのもヘパイストスはアヌビスがギリシャの神で唯一仲の良い神らしい。

ギリシャの神々はヘパイストスの容姿とその態度を嫌っていて滅多にヘパイストスの工房に訪れないらしい。

ゆえに自身の作成した作品と自身の『美』を理解する者が久しく居なかったそうだ。

そこに興味本意で訪れたアビヌスがヘパイストスの作品を絶賛したらしい。

そして意気投合してアビヌスは冥府を抜け出しては一緒に作品を作成した。


そんな話を、アヌビスは喜々として語った。ぶっちゃけどうでも良いが、

こんなに嬉しそうなアヌビスは初めてなので好きに喋らせておいた。


彼奴あやつは作品のことなると止まらなくてな。我が構想を練り、それをもとに彼奴が作るといった感じでな。例えば__」


話が脱線しかけているので戻す。


「それは置いといて……、『失敗作』とはどういうことだ?」


アヌビスは話を遮られて一瞬むっとしたが『失敗作』について説明してくれた。


「彼奴は良い出来栄できばえの物でも自身が気に入らなければ炉に放り込んでおったからな。勿体ないと思いながら見ておったのだが、この石には彼奴の気配を感じる。今まで炉に放り込まれた作品が溶けて固まったのだろう。」


なるほど……それならこれほどの妖気オーラまとっている理由も納得がいく。しかしこの奈落で宝石などは無用な物だ。ウプアやベラルト達はこの宝石の妖気から力を受け取っていたが、今はクロ丸が蓄えた妖気で強化されているので、たいした使い道はない。


アヌビスはそんな俺の考えを見透かしたように言う。


「仮にも神器だった代物だぞ。そのような使い方な訳なかろう。」


……だよな。あのアヌビスがそこまで考えていないはずがない。

俺は使い道が有ることを知り安堵しながらアビヌスに聞いた。


「で、どんな使い道があるんだ?」



「″神器″の作成だ。依代よりしろさえあれば神々の武器を再現することも可能だろう。予想していたよりも神気が多い、これはあの《深淵の神》さえも倒し得る物が作れるぞ!」


″神器″

神々の持つ最上の武器。

神は普通死なない、しかし神々を殺す方法が無いわけではない。

その代表的な例が神器で殺すことだ。実際、神々の争いでも神器が用いられる。(ポセイドンの槍やゼウスの雷霆など)


アヌビスは神の威厳も無く尻尾を振っている。まあ、それだけ興奮してるのだろう。俺はアヌビスに質問した。


「なあ、それはどんな形でも良いのか?刀とかでも。」


「まあ依代次第だな。お前の好きにしろ。」


えっ、良いのか?お前なら何か言うと思ったけど。


「使用者が上手く扱えなければ本末転倒だ。我が指図することではない。」


そこら辺もしっかり考えてるのね。じゃあ好きにさせてもらうけど。


俺はベラルト戦で使ったボロボロの刀を取り出し左手に持つ、そして自分の出せる最大限の妖気を刀に流し込み凝縮した。

《竜》の妖気も拝借して。


刀身は徐々に黒くなっていき、最後には暗黒物質のようになった。


「……綺麗だ……、今まで見たどんな物よりも……。」


「お主の感覚が理解し難い、その色のどこが良いのだ。」


俺が感嘆の声をあげるとアヌビスは汚物を見るような目を向けてきた。

……ほっとけ。


この後どうすれば良いのかは俺自身も分かってる。


俺は刀を″秘宝″にぶっ刺した。


白目を剥いて顎が外れかかっているアヌビスを横目に″秘宝″は変化していく。

先程まで金剛石ダイヤモンド並の固さだった秘宝が刀が刺さった直後に液体とり刀身に溶けていく。


刀身の中で俺の妖気と神気がぶつかり合い混ざり合い、適合した。


刀身は無意識に近づいてしまうほど妖しげに光をはなっていた。

死にいざなうように。

黒色なのにどこか透明感がある感じだ。

『これは神器の域を超越してる』、そう思わせるに足る業物わざものが生まれた。


これならタルタロスを殺せる。後はめいを付けるだけ。


俺は最初から考えていたものを付ける。


「そうだな……、銘は……『神無威カムイ』」


刀身に三文字が深く刻まれた。

『神を宿さぬ者の力』という言葉が。


世界最恐のやいばはその力に相応ふさわしい主を得た。



アヌビスは気絶した。




◇◆◇◆



数万の異形は残らずこうべを垂れる

屍の玉座に王は座る。挑戦者遊び相手を待ち望みながら。

やがて力の波動を感じた。もう時間切れだ。待ち飽きた。


王は唯一会話のできる側近に命令を下す。

「■■■■■《出陣》」

いつ以来だろうか、王が動くのは。



深淵からは逃れられない。闇はすぐそこまで来ている。

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