コロナ禍も気づけば今年の12月で3年目になる。つまり、学校生活のほとんどをソーシャルディスタンスを保ちながら過ごしてきた世代がいる。学生に限らず大変な苦労をしてきた人はたくさんいるが、人生の中で一番輝かしくあるべき3年間をマスクで遮られた若い方々の無念は計り知れない。
10月という、夏も終わり秋へと差し掛かる時期に土の中から出て来て独りぼっちで鳴く蝉が、そんな学生たちと重なる。成すべきことを成せず、理想は理想のままで終わってしまう。そんな現実に虚しさを抱いただろう。だけど裏を返せば、そんな時代を過ごした彼らにしか見えない景色もきっとあった。
繊細な情景描写と高い文章力が、土の中で生きて来た彼らの胸の内を丁寧に綴ってくれている。最後の一文までじっくりと味わいたい、そんな作品でした。
季節は秋から冬へ進む。ゆっくりと、着実に。
自分がいかに恵まれた時代にいたのか。
某感染症はこうも十代の輝かしい日々をいとも簡単に奪ったのか。
誰が悪いでもない、それでも誰かの所為にしなければ辛い、そんな世の中で。
【蝉】は、主人公を一歩踏み出させるための、象徴だったのではないかと思います。
停滞するうだる夏の暑さが見せた【一匹の蝉】。
その蝉との邂逅はきっと、主人公に伝えたかったのではないだろうか。
「たとえ今が辛い時でも、自分のように、今を後悔のないように生きようよ」と。
他の誰にもできないことを成し遂げた【一匹の蝉】に、その心意気に、感動しました。
前を向きたい方、必見の作品です。
ぜひお手に取って読んでみてください。
レビューを書くために読んだ私はしばらくの間、言葉を奪われました。
なにこれ、すごい。読みやすいすごい。テーマもしっかりしてる。夏から秋に変わる描写がこんなにも文学的でいて嫌味なく表現できるものなの。すごい。秋だけじゃないすごいところが多すぎてまとまらない。
こんな状態になりました。書き手の皆さんはは絶対に読むべきです。
上手くまとめて表現できないので最初に言います。完成度がものすごく高いです。
今を捉える作者の観察力、精選された言葉と文章の運び方が合わさって、感性鋭く、今を生きる高校生の生活が描かれています。これだけでもすごい。
けれど、凄いところはまだまだあります。季節外れに地中から出てきてしまった蝉を軸にして生まれてきた意味を考える。孤独な蝉にも意味があった。この蝉が物語によく馴染み、難しいはずのテーマを身近なものとして捉えられるようにしてくれてきます。そう。説教くささが無く、自分のこととしてストンとテーマの解が腑に落ちます。
今の私が言語化できるこの作品の素晴らしさはこれだけです。しかし、これは作品が凄い理由の数%でしかないです。まだまだ技術が隠されています。
どうか書き手の皆さん、読み手の皆さん、この作品の素晴らしさを紐解き、言語化してください。
今の学生たちは、様々に制限のかかる中で何を思い生活しているのか。殊に、期待に胸膨らませて新たに進学した途端に学校が休みになった世代は、それこそ学校に行きづらくなってしまった人も多いと聞く。
そんなある種の孤独を10月の蝉に託して描き、そしてひとつの答えを提示しているように思える作品である。
仲間はいない、呼ぶべきメスもいない。この10月まで続く暑さによって地面から出てきてしまった孤独な蝉。これを愚かと思うのか、哀れに思うのか、それとも。
生まれたことを後悔せずに過ごせたかな。
誰もがそうであって欲しいとも思う。そんな風に思う作品でした。ぜひご一読ください。