Sid.8 幼女じゃない彼女ができた

 路上で再会した、と言うか偶然会っただけだし、元より眼中に無かった女子。

 なのに付き合うことになった。まあ、それはいい。さっさと童貞卒業したかったし。母さん曰く、体形は好みのはずだとか。性格にしても優しい子だろうと。

 見ただけで分かるのか、って話しだが。そこは人生経験の差だとか。


 なんであれ楽しみができた、そう前向きに考えよう。

 幼児相手にしてて青春を謳歌し損ねてたからな。

 夕方になると帰るようで「SNSやってるの?」と聞かれた。


「やってない」

「なんで?」

「面倒だから」

「じゃあ、スマホのメールアドレスとか」


 とりあえず連絡を取れるように、メアドや電話番号を教えておく。


「SNS、どれでもいいからやればいいのに」

「あれは人を束縛する。だからやらない」

「使い方次第だと思うけど」

「使い方以前に、振り回されてるアホには事欠かないだろ」


 相手の都合なんてお構いなしだ。どうでもいい、くだらないことに終始して勉強の邪魔にさえなる。言語も短縮され過ぎて、日本語能力も衰えるだけだ。

 少しでも難しい単語を発しようものなら、理解が及ばず面倒臭い奴扱いだし。面倒なのは言語を理解する能力のない、エテ公の如き連中だっての。

 言語と知能の発達は密接に結びついてるんだよ。


「一度は使ったことあるんだ」

「ある。その上で結論を得て不要と判断した」

「じゃあ、仕方ないのかな」


 玄関先で見送ろうとしたら母さんに「途中まで送ってあげなさい」だとさ。

 近所なんだから、ここで充分だろうに。


「じゃあ、途中の公園まで」

「なんか、ごめんね」

「いい。母さんが煩すぎるだけだ」

「ぱぱぁ、いっしょにいくぅ」


 足元に絡み付く乃愛が居て、それを見た菅沢が「じゃあ一緒に行こうか」とか言ってるし。

 已む無く乃愛の手を引き、菅沢と並んで家をあとにする。


「好かれてるね」

「理由が分からん」

「ぱぱだいすき」

「ちょっと嫉妬しそう」


 幼児相手に嫉妬してどうする。恋愛対象になんてなり得ないんだから。

 あと最低でも十二年は必要だろ。それでもまだ十六歳。俺はその頃には二十九歳だぞ。年の差が開き過ぎてて恋だの愛だの、意識できない状態だろうよ。

 もう少し年齢差があったら、まさに親子になるところだった。


 公園の前まで来ると笑顔で手を振る菅沢だ。こっちも一応手を振っておく。


「ばいばぁい」

「あ、嬉しいな」

「喜んでどうする」

「懐いてくれてなかったから」


 乃愛も手を振って見送ったようだ。

 後ろ姿を見送り、尻のでかさに気付いたが、家に戻る。左右によく振れていて、かなりのサイズ感がありそうな。太ってるかどうかは、まだ分からんけど。母さんは太って無いとみている。

 童貞卒業の際に見ることはできるだろう。


 その後、晩飯を食って乃愛を膝に抱えながら、と言うか勝手に乗っかってきやがった。猫かっての。

 乃愛と一緒にテレビを見ていると、父さんが帰宅したようだ。


「すっかり懐かれてるな」

「なんでか知らんけどな」

「いつまで預かってるんだ?」

「母さんは高校までとか言ってた」


 母さんもリビングに来ると、父さんと話しをしているようだ。

 他人の子どもを預かるにしても、本来は一時的なものだったはず。それがここまで長期になると、さすがに親としてどうなのかってことらしい。

 その辺は池原さんを交えて、一度きちんと話し合うことに。


「まだ夜の仕事をしてるのか」

「してるみたい」

「預かるのは週に二日だよな?」

「それがね、すっかり三日とか四日」


 そう。最近では引き取りに来なくなってる。平日の朝、うちから幼稚園のバスに乗せ、帰宅後もうちで引き取る日が多い。

 ストレスを抱えて子どもに当たるようになると、子どもの成長に問題が生じる。その辺も考慮して預かっているわけだが。さすがに預けすぎとなってる。


「明日にでも話し合った方がいい」


 放置してるに等しいからと。

 池原さんと会う機会も無いから、どう思ってるのか知らんけど、すでに乃愛が邪魔かもしれない。俺にはそう見える。


「愛情が無いんじゃないのか?」


 父さんも母さんも、その可能性は考えていたらしい。


「どうするんだ?」

「池原さんの両親か親戚に引き取ってもらう」

「でも、そもそも引き取る話も出て来ないでしょ」


 娘を見れば親のレベルも知れる。

 つまり、放任。引き取る気も無ければ、おそらく乃愛に対しての愛情も無い。

 引き取るなら元の旦那がどうであれ、さっさと引き取ってるはずだと。


「もしそうだとしたら」

「施設に預けるか」

「可哀想でしょ」

「それは分かるけどなあ」


 乃愛を施設に預けるのか。

 見ると、あどけない表情で俺を見つめてくる。で、にこにこしてるし。

 理解はしてないな。自分の境遇を知るのはまだ無理だろう。親に愛されず、このまま施設行きってのはあれだ、俺でも哀れに想う。

 親戚や両親も引き取る気が無いと、マジで施設行きか。


 中座して乃愛を風呂に入れる。


「話し合うのか?」

「じゃないと無責任すぎるからな」


 他に男を作って遊び惚けてる可能性もありそうな。若いってことは、子どもより自分優先になりそうだし。親としての自覚も無く子どもができればな。

 乃愛の手を引き風呂場へ行くと、自分で服を脱いで、キャッキャ言いながら風呂に。

 で、やっぱり恒例の「ちんちー」とか言って、掴もうとするし。


「これは大人用だ。乃愛が大人になったら、好きなだけ握らせてやる」

「ちんち、だめなの?」

「駄目だ。子どもにはまだ早い」


 バスタブに浸かると背中を預ける乃愛。抱きかかえて百数えさせるのも定番だ。


「百数えたら上がっていいからな」

「いーち、にーい、さーん、よーん……」


 幼児と密着。

 ペドやロリには堪らんシチュだろうなあ。ただ熱い。十代の俺も体温は高い方だと思うが、それに輪をかけて幼児の体温は高い。そのせいでのぼせそうだ。

 このシチュでのぼせるわけじゃない。幼児趣味は無いからな。

 風呂から上がると体を拭いてやり、パジャマを着せて行く。


「こら、暴れるな。パンツ穿けないだろ」

「ちんち」


 掠ってるんだよ。こっちの手が塞がってるのをいいことに、触ろうとするから腰を引く態勢だし。

 近いうちに掴まれそうだ。油断大敵だな。

 どんだけ好きなんだよ。股間。


「ぱぱとねるぅ」


 最近ではこんなケースも増えてきた。けどな、おねしょされるから、一緒に寝ることは無い。無いのだが、時々駄々こねまくって一緒に寝ることも。

 朝が悲惨なんだよ。

 俺がおねしょしたみたいになってるし。だが、さすがに無いぞ。この年で漏らすなんて。


 この日も結局、俺のベッドで寝る乃愛だし、母さんも父さんも何も言わん。言わないどころか乃愛の背中を押す発言ばっかりだ。


「一緒に寝ればいいだろ」

「如何わしいことしないんでしょ? だったら好かれてるんだし」


 いつもは母さんと寝てるのに、騒ぐと俺のベッドが標準だし。


「ほれ、寝るぞ」

「ぱぱもおねんねぇ」


 絵本を読んでくれとせがまれ、子守唄代わりに読み聞かせると、少しして寝息を立ててる乃愛が居る。

 幸せそうな表情で寝やがって。


 翌朝、湿ってんだよ、俺のベッド。

 これさえ無ければ、まだいいんだが。

 乃愛の着替えを済ませ、シーツを外して洗濯機へ。マットレスに染み込んだ奴は、布団乾燥機で乾かしておく。乾燥が済んだら念入りにファブっておく。ションベン臭いからな。

 ついでに俺のパジャマも被害を被ってる。湿って気持ち悪いんだよ。


「おねしょ禁止だ」

「?」


 無意識の行為だから言っても理解しないか。

 母さんに言って寝る時はおむつを付けさせるとか。


「ってのはどうなんだ?」

「おむつ離れできなくなるから駄目」


 速攻で却下されるし。

 俺も小学生低学年までは、散々おねしょ三昧だったとか言われてもな。覚えて無いわけじゃ無いけど。

 小学生低学年まで、これに付き合わされるのかよ。勘弁してくれ。


 朝飯を済ませ幼稚園のお迎えは、母さんにお任せして俺は学校へ。

 

 夕方帰宅すると靴が。

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