Sista sidan 幼女は我が家で養女になる

 学校から帰ると母さんが興奮気味で「来たよ、来たの」と、紙切れをひらひらさせて俺に見せてきてる。


「何? やたら興奮してるみたいだけど」

「これ、見なさいよ」


 これじゃねえ。ひらひらさせてたら、見えるものも見えないだろ。興奮しすぎだっての。

 まあでも、このはしゃぎ具合から通知が来たんだろう。

 とりあえず、少し落ち着いてもらい封筒ごと受け取った。

 その封筒は特別送達で父さんと母さんに、各々一通ずつ来ていたようだ。なんで?

 何が書かれてるのか、まずは開いて見てみると。


「主文?」

「判決が下った際に最初に言う言葉でしょ」

「判決じゃ無いだろ」

「でも、裁判所だからでしょ」


 まあなんでもいいや。

 でだ。


 未成年者を申立人らの特別養子とする。


「これって」

「そう。長かったわぁ」


 そうか。やっと決まったんだ。

 続く文言も一応読んでみる。


 事務連絡と記載があり、その下にちょろっと文章が並ぶ。


 あなた方から申立てのあった特別養子縁組の申立ては、同封の審判書謄本記載のとおり認容されました。あなた方申立人が審判書謄本を受け取ってから二週間の間、不服の申立てがなければ、この審判は確定しますので、確定から十日以内に、市役所で特別養子縁組の届出をして下さい。この届出をする際には、本日送付した審判書謄本のほかに、裁判所が発行する確定証明書が必要です。


 つきましては、同封の申請書に必要事項を記載し、収入印紙百五十円分を添付の上、同封の封筒にて当職までご返送下さい。この審判が確定次第、確定証明書を郵送します。


「乃愛が家族になった」

「そう。嬉しいでしょ?」

「そりゃもちろん」

「なんか喜びが足りない」


 そんなことはない。

 乃愛のことを真剣に考えれば考えるほど、早く家族に迎え入れたかった。

 あの、クソみたいな母親とか、その両親なんかと縁を切って欲しかった。愛情の欠片も無い人として、出来損ないのような連中。

 子どもの親権を持たないと、何かあった際にこっちが不利になる。

 でも、これで親権を得て家族になれば、二度とあの家族と向き合う必要は無い。


「父さんと母さんにとって、娘になった。俺にとっては本当の妹になった」

「嬉しい?」

「嬉しい。これで乃愛も幸せになれるかもしれないし」

「幸せにするの」


 だよな。


「あとさ。これ見ると確定まで二週間って」

「二週間は考える時間を与えるんでしょ」

「でも、気持ちは固まってるわけで」

「一応、そう言う決まりだから、待たないと」


 面倒な。

 即座に確定でも問題無いだろ。俺も母さんも、待ち望んでた結果なんだし。

 父さんも同じ気持ちだろうから、誰も不服申し立てなんて、するはずもない。


「実際に決まってみると、不安になって不服申し立てもあるんでしょ」

「なんか、それって」

「実子じゃないから、決まってみると本当に愛せるかどうか。これが最後の機会になるの」


 二週間で腹を括り迎え入れる準備をする。

 中には決まった途端に心変わりをする人も居るのだろうと。やっぱり他人の子を迎え入れるのは無理、なんて無責任とも取れる人も。

 決まるまでは問題無く受け入れられると高を括って、結局無理、なんてのもあるだろうって。


「審判仰ぐのって大人だよな」

「それでも。他人の子どもを受け入れるってことは、それだけ覚悟が居るってこと」


 犬や猫のように、単に可愛いと言うだけじゃ済まない。もちろん犬猫とて可愛いだけじゃ、無責任な飼い主にしかならない。

 それが人、ともなれば責任の重さが桁違い。大変な労力を要するから、ペットと同列には考えられないわけだ。

 ちゃんと学校に通わせて、希望すれば大学も。実の子と同じように接しなければならない。一般的な人だと他人の子どもに、愛情を注げるわけもない。所詮は他人だ。実子であっても不要だとして捨てたり、虐待死させる奴も多いのだから。


「だからね、考える時間」

「そうか」

「うちはね、あんたのお陰で素直に受け入れできるけど」


 人によっては、土壇場になって覆ることもある。


「最初預かる時はね、ものすごい不安もあったんだからね」

「まあ、他人だし」

「違うの。あんたが乃愛ちゃんを愛せるかどうか」

「大切に思うし愛しいぞ」


 それは今だからで、預かった当初は丸っきり、愛情が無かったでしょと。

 確かに今思えば邪魔者でしか無かった。ただのクソガキ。なのに妙に懐いてきて邪魔だったし、漏らすし泣き喚くし股間を触ろうとするし。

 とんだお荷物なんて思ってた時期もあった。


「でも今はマジで乃愛の居ない生活は考えられない」

「賭けだったからね」

「これも成長って奴か?」


 ちゃんと人を愛せる子に育ったのが嬉しいそうだ。父さんも母さんも、これまでの育て方が誤っていたんじゃないかと、そう思うこともあったそうだ。

 それでも希望は持っていたらしい。俺に対して愛情を注いできた、そう信じてたそうだ。


「何にしても、これから大変だろ?」

「あんたを育てて大変だなんて、今さら思わないから」


 むしろ楽しみでしかないそうだ。

 俺にも妹として楽しみながら接して行けばいいと。年の離れた妹だから、なおさら可愛いでしょ、だってさ。

 そりゃなあ。可愛いからこそ、大切に思うわけで。憎らしかったら、ぶん殴ったかもしれん。


 乃愛の帰宅時間になり、送迎バスまで迎え位に行くと。


「ぱぱぁ!」

「お迎え来てるねえ」

「おかえり、乃愛」


 嬉しそうに抱き着いてくる乃愛が居て、微笑ましい笑顔で見る先生が居て。


「あ、報告が」

「なにかな?」

「決まりました。養子縁組」


 目を見開いて驚いた感じだったけど「おめでとう! やっと妹になったんだね」と祝福された。


「じゃあ、明日からは横倉乃愛ちゃん?」

「いえ。それは二週間後から」

「別に、決まったんだったら、呼ぶのも名札も替えていいでしょ」


 まあ、いいんだろうけど。裁判所の決定は覆らないし。こっちが文句言わない限り。

 乃愛と手を繋ぎ送迎バスを見送ると家に入る。

 その後、夜になると父さんも帰宅し、お祝いをやろうとか言ってるし。


「乃愛が正式に家族になった記念パーティーだ」

「ケーキとか用意しないと」

「盛大に祝って、そうだな。乃愛にはいろいろプレゼントも考えよう」

「乃愛ちゃん。なんか欲しいものある?」


 ふたりのテンションの高さに乃愛がびっくりしてるぞ。


「ぱぱ。ふたりがへん」

「変なのは今に始まったことじゃない」

「誰が変だっての。ちゃんと乃愛ちゃんに説明しておきなさい」

「そうだぞ。家族なんだからな」


 おい。ふたりとも親と認識されてないぞ。パパは俺だし、じいじとばあば、だろ。

 これで咲奈がママとかだったら、その方がしっくりくるのか?


 この日の夕飯はいつもより、手の込んだものになってた。


「また改めてお祝いするけど、今日はとりあえずね」

「二度も三度も必要か?」

「あのね、あんた嬉しくないの?」

「嬉しいに決まってる」


 だからこそ、何度でもお祝いしたい気分なんだそうだ。俺は一回やれば充分だと思うけどな。乃愛も意味不明だろうに。誕生日祝いとかなら、まだ理解もするだろうけど。養子縁組の話なんてしても、理解しきれないだろうし。

 まあいいか。浮かれていられる間は、こんなんでも。


 週末になると咲奈も巻き込んで、乃愛専用の家具やプレゼントを買うことに。


「良かったね。なんかあたしも嬉しい」

「長かったからなあ」

「正式にお兄さんなんだ」

「咲奈はお姉さんだけどな」


 ただ、やっぱり俺を呼ぶ乃愛は「パパ」なんだよ。

 父さんはじいじ。母さんはばあば。アホだろ。妙な呼び方を定着させやがって。孫じゃ無く娘だぞ。


 乃愛を見る咲奈だけど、その目は自分の子どもが欲しいとか、思ってそうだよな。


「子ども欲しいのか?」

「え? うん。蒼太君とあたしの子ども」


 期待はしてるそうだ。

 そのための夫婦の共同作業は、思いっきり励むんだよ、とかじゃねえ。

 まあそれはそれでいいんだけど。


「あとね」

「なんだ?」

「高校卒業したら一緒に住んでいいって」


 うちが迷惑でなければ、の条件付き。

 迷惑、じゃないよな。


      ―― Finis ――


 これで「幼女俺パパ」は終わりとなります。

 レビューを入れてくださった方には厚くお礼を申し上げます。また毎回の応援をしてくださった方にもお礼申し上げます。

 最後までお付き合い頂いた方にもお礼を。

 ありがとうございました。

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