Sid.12 幼女に馴染むのは大変だ

 今後は伝えるべきことは、きちんと言葉にして伝える。として付き合うことになった。


「少し歩こうよ」

「なんで?」

「だって、のあちゃん居ると」


 俺が取られて話もできないってか。まあ、どうしたってそうなるよなあ。相手は幼児だし、手も掛かるわけだし。

 仕方ない。母さんがしばらく面倒見るって、そう言ってたなら少しは甘えよう。


「この辺を歩くだけでいいのか?」

「あんまり時間取れないでしょ」


 代わりに手を繋いで歩きたいな、とか言ってる。

 手を差し出すと、乃愛より大きな手、だけど女子だから俺より小さく細い。指を絡めるように繋いで歩き出す。

 手のひらの感触は柔らかい。乃愛はもっと柔いんだよな。壊れそうな程に。


「あのね、中学の時」

「中学の話?」

「ずっと見てたの。気付かなかったでしょ」

「ストーカー?」


 違うと。

 気になる人を目で追うのは当然だとか。


「三年に進級する時ね、クラス変わるから告白しようって」

「告白されてないぞ」

「勇気出なかった。急に言っても断られたらどうしようって」


 気持ちを胸に仕舞い込み、そのまま卒業まで行ってしまい、後悔してたらしい。

 クラス会や同窓会で会えたら、次は告白しようなんて考えていたら。


「ぜんぜん出席しなかったから、そこでも告白できなくて」

「行く気無かったからな」

「この前、偶然出会って、もうドキドキしてたんだよ」


 今度こそ、こうして機会が巡ってきた。ならばと思ったら子どもが居て、かなり驚いたようだ。

 妹が居るとは聞いたことが無かった。ひとりっ子のはずが、幼い子と一緒に居て思わず人さらい、とか思ったらしい。


「ねえぞ」

「うん。違うのは分かったけど」


 事情を知って家に押し掛けて、やっと告白と思ったら。


「横倉君のお母さんが先に言っちゃって」

「母さんは空気読まないからな」

「ううん。あたしだと、あの場で口にできなかった」


 だから助かったらしい。

 やっと念願叶ったと思って、次の約束をして家に行くと、乃愛にかまける俺が居て嫉妬していたとか。


「でも、服のお陰で見てくれてたから、少しはとか思ったのに」


 言い方が悪かったと気付いた時には後の祭り。

 見て欲しい、けど感想も言って欲しい、そう言えば良かったのに。


「口にできなくて」

「他人の考えなんて分からんからな」

「これで本当の意味でスタートラインに立てたのかなって」


 適当な場所で引き返し家に向かうと。


「エッチしたいとか思う?」


 期待してないわけじゃない。付き合うとなれば、当然頭の中はそれで染まるわけで。あとは、いつなら手を出せるのか、とか、どのタイミングで切り出せばいいのかとか。

 おかしなタイミングや、まだその気が無いのに迫れば、スケベ野郎とかで別れかねない。そんな考えもあって容易に口にできない、ってのが俺。男子全員がそうじゃないだろうけど、そんな奴は多いと思う。


「まあ、そっちにその気があれば」

「お互い高校三年生だもんね。そう言うの意識するよね」

「無理に迫る気は無いぞ」

「違うの。あたしもいいと思うから」


 お互い、その気になったらサインを出そうとか言ってるし。俺が気付けない、乃愛で精いっぱいなら、自分からそう言うサインを出すそうだ。

 俺がいつでも受け入れるならの条件付き。


「男はいつでもいいと思う」

「今でも?」

「今って、外でするのか?」

「違うよ。家に帰ってからとか」


 そりゃねえ。服の中身に興味あるし。


「菅沢が良ければ。でもうちはいつも母さん居るぞ」

「じゃあ、あたしの家」


 そうか、お呼ばれするのか。それはそれで楽しみだけどな。


「サインって?」

「そうだなあ。少し下着が見える感じで座った時とか」


 パンツ見せるってか?


「その着てる服の胸元下げて、中が見えるとかは?」

「あ、そう言うのが好みなんだ」

「いや、なんか分かりやすいから」


 じゃあ、そうする、だそうだ。エロい。実にエロい。

 ただ、そうなると乃愛が居ると無理。基本、俺の在宅中はほぼ乃愛の世話。今回みたいにひとりで外出なんて、早々できない状況。


「だけど?」

「お母さんに言えば、大丈夫だと思うよ」


 そこまで拘束しないのではと。俺にも彼女との時間は必要だと、その程度には気を遣ってくれるはずだと。そうじゃなきゃ、今回みたいにふたりで話し合えと、外に放り出したりしないだろうって。

 まあ、その辺は母さんに期待しよう。気を利かせるかどうか知らんけど。


 家に戻ると母さんと遊ぶ乃愛が居て、俺の顔を見た途端に「ぱぱぁ!」とか言って、懐いて絡み付いてくるんだよ。

 纏わり付いて邪魔になるけど、それが可愛いと思えるんだよな。


「あんた、すっかりパパだね」

「そう仕向けたのは母さんだ」


 それと、一緒に戻ってきたってことは、ちゃんと互いに確認できたのだろうって。


「あのさ、たまには」

「やっとできた彼女でしょ。時々は時間作ってあげるから」


 少しは青春を楽しみなさいだってよ。

 ついでに目を弓なりにして口元緩ませながら「したい盛りだしねえ」とかじゃねえっての。

 全部見透かされてるみたいで、なんか嫌だ。

 リビングで乃愛に馴染むべく、奮闘する菅沢が居るけど、まあ当分無理だろうな。


「なかなか手ごわい」

「だろうよ。俺が育てたんだからな」

「人見知り?」

「多少はあると思う」


 元より俺の言うことは聞くけど、母さんが相手でも難しくなってる。当然だが、あまり接点のない父さんだと相手にすらされない。

 そこに新たな顔ぶれとして菅沢が絡んでも、当分は無視されることも多いだろうな。


「ただ、俺と仲良し、ってのを示せば心を開くかもな」

「そうなの?」

「俺を慕ってるってことは、俺と親しい存在ってのは重要だろ」


 母さんが相手できるのも、俺の親だし会話することも多いからだ。父さんはあまり会話が無い。だから外様。


「なんか、すっかり子育て得意だよね」

「何年もやってれば、自然に身に着くんだろうな」

「あたしも頑張ろう」


 時々はエッチもいいよ、とか言ってるし。その時はちゃんと誘うからと。

 菅沢ってスケベなのか? それとも読まれてる?

 まあ何にしても付き合うことになったし、いよいよ童貞卒業も近いとみていいのかも。

 後生大事にするもんじゃないし。


 さて、乃愛の遊び相手にならないと。

 昔遊んでいた積み木を使って遊ぶことに。


「懐かしいね」

「菅沢も積み木で遊んだ?」

「遊んだことあるよ」


 乃愛の前に段ボール箱から出して用意すると「おしろつくる」とか言ってるし。

 砂場で作った家はものの見事に破壊されたけどな。同じように破壊して「ちんち」とか言わないことを願おう。

 積んだり崩したりする乃愛だが、指一本分の隙間を開けて柱二本。屋根も付けて門のようなものを作ってる。


「それはなんだ?」

「ぱぱ」


 なんか、次の一手が見えた。


「違うだろ」

「ぱぱの」

「ねえ、それひとの体?」

「違うと思いたい」


 でだ、やっぱりやりやがった。


「ぱぱのちんち」


 そう言いながら上向きに指を突き出し逸らしてるし。やめろ、それだといつも反応してるみたいじゃないか。


「無いよね?」

「なにがだ?」

「のあちゃん見て、その、あれ」

「ねえぞ」


 何度かあるけど。さすがに口外はできない。


「お風呂一緒に入ってるんだよね」

「それもなんでか俺の仕事になってる」

「あたしが今度一緒にとか」

「それはあれか、うちに泊まるのか?」


 顔が真っ赤になってるぞ。風呂に入るってことは、お泊まりとまでは想像しなかったか。

 ただ、軽く頷いて見せてるし。いいのかよ。親は何とも言わないのか?


「頼めるなら、そろそろ俺以外がいいとは思ってた」

「だよね。女の子だし」

「そうなんだよ。母さんはアホだから、いつまでも俺と一緒に入れようとするし」

「アホじゃないからね。乃愛ちゃんが嫌がらない間は、一緒の方がいいでしょ」


 いずれ男と一緒なんて嫌がる。その時に寂しい思いをするとか言ってる。それは父親の心境だろ。俺は父親じゃないし。

 股間に興味を抱きすぎるから別がいいんだよ。

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