Sid.4 幼女と一緒に公園で遊ぼう

「ぱぁぱ、ぶらんこぉ」

「パパじゃねえ」

「ぱぁぱはぱぁぱだよ」


 なぜ俺を父親と認識したのか。

 三歳児ともなると公園で遊ぶのも定番だ。乃愛の手を引き近所の公園まで散歩ついでに、連れてきたと言うより「行ってきなさい」と。強制的に散歩させられた。

 外の世界に触れるのも必要だからと。

 それは親の仕事だろ。俺じゃ無いはず。


「これぇ」


 指さす先にあるのはもちろん、定番遊具のブランコだな。よたよた歩きながら近寄り、ブランコに腰掛け押せと言ってるんだろう。

 ブランコ遊びの際の注意事項を嫌と言うほど聞かされた。

 後ろに立って背を押すだけだと、確実に落下して怪我をする。横に立ち背に手を当てて、転げ落ちないようサポートするとか。鎖はきちんと握らせて、手を離さないよう見ておくとか。

 二歳児なら抱っこして乗るのもあり。


「押すぞ。手は離すなよ」

「うん!」


 軽く押すと楽しそうにはしゃぐ。後ろは支えているが、前に転げ落ちないよう、常に身構えておく必要もあって面倒だ。

 周囲には子連れの母親が複数居て、こっちを見てるし。

 なんだよ、なんか文句あんのか? と思ってたら近寄ってきた。


「ずいぶん年の離れた妹?」


 声掛けてくるし。妹じゃねえし。ただの他人だし。


「預かってるだけです」

「そうなの? 若いのに偉いわねえ。高校生?」

「このちっこい奴が?」

「違うでしょ。あなた」


 怪訝そうな表情になってるけど、分かってて言ってるんだがな。いくらなんでも誰に対する問いか理解できないわけがない。

 高校生だと言うと、親戚の子か何かかと問われるし。いちいち詮索するなっての。なんでおばはん連中ってのは詮索好きなんだよ。

 年齢的には三十代前半くらいだろうか、どれもこれも冴えない面構えだ。


「ぱぁぱ、あれぇ」


 指さす先は滑り台だ。

 詮索好きなおばはん連中を置いて、乃愛の手を引き滑り台に向かう。

 階段を上ろうとする乃愛だが、なんか必死に足掻いてる感じだ。ほぼ四つ足状態で上る。当然だが後ろに控えておくのも忘れない。離れて見るなどあり得ないから。

 上から滑り降りる際には、滑り面の下で待機しておく。降りてきたら抱えられるように。


「きゃぁぁぁぁ」


 楽しそうだ。スカートが捲れてパンツ丸出しだが、そこは幼児だけあってエロさ皆無。高校生くらいなら視線が釘付けになってたな。公園に居るおばはんは、まあ論外だ。アレに欲情できるほどに達観してない。

 下で受け止めると、また階段に向かい滑り降りての繰り返し。

 何度か遊ぶと次は砂場に移動する。


「ぱぁぱ、おしろぉ」

「へいへい」

「ぱぁぱのちんち」


 じゃねえっての。なんでいきなり、股間を表現してるんだよ。

 それにしてもでかすぎだろ。幼児から見るとでかく見えるのか?

 俺が城ならぬ家らしき物を作ると、そこに穴を開けて「かいじゅぅがきたぁ」とか言って、ぶち壊すし。男子のやることだろ、それ。

 壁に穴を開けると、今度は指先だけ出して「ちんち」とか言ってるし。しかも上向き。いい加減、そこから離れた方がいい。変態と認識される。


 砂場遊びが終わると帰ることに。


「あら、もう帰るの?」


 おばはん、いちいちどうでもいいだろ。いつまでも遊んでいられるかっての。乃愛もすでに飽きてきてるし。俺もいい加減、おばはんの視線から逃れたいんだよ。

 こっち見てはコソコソ、乃愛を連れてるとコソコソ。なんでおばはんってのは、面と向かって言わないんだか。うぜえ。

 乃愛の手を引き公園をあとにする。


「ぱぁぱ、ねむぃ」

「もう少しだ、頑張れ」

「ねむぅい」


 あかんぞ、これは。座り込んで動かなくなった。

 已む無くおんぶしてやる、と言うと背中に手を回してくる。そのまま背負い家路を急ぐことに。

 そう言えば昼寝の時間だったし。


 家に着くと「手を洗わないと」と母さんに言われ、背負ったまま洗面所に。下ろして前に抱え手を洗わせるんだが、眠気が勝るのか手を洗えず船漕いでるし。

 仕方ない。腹に乗せて洗面台に押し付け、手を洗いリビングに。姿勢のせいか腰が痛くなりそうだ。

 ソファに転がし布団を用意し、寝かしつけると速攻で寝た。


「ちゃんと遊んであげたの?」

「疲れて寝てるんだから、充分遊んだってことだろ」

「ならいいけど、怪我とか注意してね」


 口酸っぱく言われてれば、どうしたって気を付ける。


「それにしても、すっかりパパが定着したみたいね」

「誰が俺をパパと吹き込んだ?」

「勝手に認識したんでしょ」

「そんなわけあるか。誰かが吹き込まなきゃ、パパなんて言うかっての」


 まあ分かってるけどな。母さんだよ。パパと呼べと。

 面白がってるんだろうけど、俺を父親と認識させてどうするんだよ。


「今は懐いてるけど、いずれ親離れするから」

「親じゃねえ」

「その時に寂しくなるからね」

「ならねえよ」


 厄介払いができて身軽になるだけだっての。自分の子どもでも無ければ、親戚の子でもないし。ただの他人の子だ。特別可愛いとかないんだから。

 母親なら母性もあるから、寂しくなるかもしれんけどな。


 さて、乃愛だが無事におむつは卒業してる。シモの世話が無くなって楽にはなった。だが、まだまだおねしょはあるからなあ。朝起きて地図を描いてると、布団を干すのも洗濯するのも俺の仕事になってる。なんでだよ! 母さんがやりゃいいのに、飯の支度以外何もしねえ。


「あのさあ、朝だけど」

「あんたの仕事」

「俺だって忙しいんだよ」

「平日は頼んで無いでしょ」


 問答無用は相変わらずだ。

 昼寝が済むと起こして、暫しまた乃愛の相手をする。


「絵本を読むといいぞ。勉強になるからな」

「やぁぁぁ。よんでぇ」


 この、クソガキ。読み聞かせなんてのは二歳児までで充分だ。いい加減、自力で文字を覚えろ。甘えてると将来落ち零れるぞ。母親と同じく。


「ぱぁぱがよんで」


 譲らんなあ。


「読んであげなさい」


 くそ。

 已む無く絵本を読み聞かせる。キッチンの方から演技が下手で、聞くに堪えないとか。余計なお世話だ。いちいち演技しながら読むわけじゃない。

 朗読と言っても感情なんて、込めていられるかっての。


「感情込めないと楽しめないでしょ」

「要らねえだろ」

「あんたに読み聞かせした時のこと、少しは思い出してごらん」


 結果、下手は下手なりに感情を入れて、読み聞かせる羽目に。だが、飽きるのが早いのか、俺の朗読が下手すぎるのか、気が散って落ち着かない乃愛が居る。


「ほんと下手」

「いいんだよ」

「好奇心も旺盛になってくるんだから、じっとしてられなくなるの」


 ちゃんと興味を引く話し方ができれば、それ自体も将来役に立つとか言ってるし。


「仕事に就いた時に役立つでしょ」


 聞かせる力、話す力があれば、いろいろなシーンで活躍できるのだと。

 無いとは言わないけど。


「勉強だけできても意味無いんだからね」


 高偏差値校の生徒なんて、頭でっかちなだけで、実践では使えないとか。勉強で高得点を得るテクニックだけ磨かれていて、それを活かす知恵が無いのが多いとも。

 へいへい。まあせいぜい俺もそう言われないよう、気を付けるってことで。


 夕飯のあとは恒例の風呂だ。

 そろそろ俺じゃなくて、母さんが一緒に入るか、ひとりでと思うんだけどなあ。


「ほれ、風呂に入るぞ」

「ちんちー」

「じゃねえっての」


 こいつの興味は俺の股間一択だ。

 服は自分で脱げるようになった。体も少しは洗える。頭は上手く洗えないから手伝ってやる。

 バスタブに浸かると俺の方を向いて、乗っかってくるし抱き着いてくる。暑いんだよ。ただでさえ湯に浸かってるんだから。子どもってのは体温が高い。実に暑苦しい。

 なんでこんなに懐かれたのか。


「だから手を出すなっての」

「ちんちさわるぅ」

「駄目だ」


 勢い付けて握ろうとするな。


「おい」


 幼児だと分かってても、刺激が来たらヤバいんだよ。反応したら目も当てられない。


「おっきしないの?」

「ねえぞ」


 変態幼児に弄ばれる俺って、マジ情けねえ。


「おいこら、接触禁止だ」

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