Sid.22 月日の経過と調査官の来訪
家裁に行ってから三か月も経過すると、調査官が自宅に訪れることに。
「来て何するんだ?」
「家の様子とか育てるに相応しい環境かどうか、暮らしぶりを見るんじゃないのか?」
これまでは三人家族だった。家自体は居室だけで六つあるけどな。のちのち乃愛の部屋も用意できるわけで。
一階にはリビング、ダイニングキッチン。和室と洋室ひとつずつ。風呂トイレ、洗面所兼脱衣室。他に納戸もある。二階には洋室が四部屋。俺の部屋がひとつ。父さんと母さんがそれぞれ一部屋ずつ。
乃愛が来た当初、部屋を分けた。母さんが乃愛と寝るためにだ。
今は俺と寝ることがほとんどだから、戻せばいいのに、そのままになってる。互いに気楽だと認識したそうだ。
「家自体も問題は無いだろう。あとは暮らしぶりを見られるのと、あれから三か月経過したってことで」
変化なんかも聞かれるんだろうと。
変化には環境、成長によるもの、気持ちなんかも含まれる。
「変化と言えば菅沢が」
「お前が父親で彼女が母親代わりだな」
それを見守る父さんと母さん。構図として申し分ないとか言ってるし。
四人でひとりの娘の世話をする。恵まれた環境だと思うと、自画自賛してる。
「どうせだから彼女も一緒に住めばなあ」
「無理だろ」
「まあ、大学卒業するまでは、好き勝手はできないだろうな」
宿泊程度は許されるにしても、同居となると話は別だろう。そこまで緩い家庭だとは思えないし。そんな倫理観の崩壊した家庭じゃ、調査官の心象が悪くなりそうだ。
世間一般の常識はあることが前提。結婚でもしていれば、当たり前だが同居もあるけど。
毎週末のように遊びに来る
その辺は俺もだけど、結局、予備校には通えてない。マジでこのまま受験を迎えそうだ。
落ちたら責任負えるのか?
「それはどうなんだ?」
「落ちないでしょ」
「落ちたら大家を引き継げばいい」
駄目だ。両親揃って期待して無さそうな。大学くらい出ておかないと、選択肢が狭まるなんて、ふたりとも理解してそうだがなあ。
なんで、こんなにも呑気なのか。
ただ、さすがにオンライン予備校は受講できてる。時間も限られた中で取り組んではいるけどな。対面受講じゃないから、不安になる要素もあるんだよ。
咲奈はGMARCHが最低ライン、とか言ってたし。俺がそれより劣ると気にするんじゃないのか?
二か月くらい前から、互いに名前呼びになった。咲奈は俺を蒼太君と呼ぶ。俺は呼び捨てだけどな。とは言え、両親を前にした時は苗字呼びをしてる。恥ずかしいんだよ。
それでも童貞卒業して以降、距離がうんと縮まった感じはする。
数日後、調査官が家に訪れた。
調査官ってひとり、かと思ったらふたりで来てるし。
家の中を見て回り現在の生活スタイルを聞かれ、先々乃愛の部屋になる予定の空き部屋も見せる。
乃愛が俺にべったりなのを見て「好かれてますね」と。仲の良さも見て取れて、兄妹としても上手く行きそうだとか。何より「温かみを存分に感じ取れますね」と感心してたな。
家族が揃って乃愛を受け入れる体制になっている。それを見て取れたそうだ。
伊達に三年以上も一緒に居たわけじゃない。
前回、家裁で質問した内容と似たような質問、をされていたようで。その後の変化なんかも聞かれてた。
うちに来る前に代理人の家庭も訪問してるらしい。あまりにも無責任で呆れ返ったとか。腹立たしさも覚えるほどに。実親は今も行方不明だし。この家で引き取らなければ、確実に施設に居たであろう。それがこの家で温かく迎え入れられている。結果、子どもが愛されて育っているのは、大変好ましいと言われた。
「この調子でしたら、確実に養子縁組は成立しますよ」
だそうだ。
乃愛にも何やら聞いていたが「ぱぱだいすき」と、満面の笑みで答えられて、穏やかな笑みを浮かべる調査官だった。ただな「ぱぱ」は父さんじゃなく、俺なんだよな。気付いたのかどうかは知らんけど。
三か月後くらいにまた来るそうだ。その時点で問題が無ければ監護期間終了となり、文書による通知が来るそうだ。
一時間ほどで家をあとにする調査官だった。
三人揃って胸を撫で下ろす感じだ。
父さんが安堵のため息を吐くと、笑顔になって「とりあえず好印象だったな」と。
「蒼太が乃愛ちゃんを大切にしてきてこそでしょ」
「まあ、今回は蒼太の奮闘あってのことだな」
任せて正解だったと。よくここまで懐かせたものだと感心しきり。
押し付けておいて感心されてもな。こっちは大変だったんだし、今も股間をまさぐられそうで、気を抜けない状況なんだが。
今夜もまた乃愛と一緒に風呂だ。いよいよヤバい。開き直って握らせてもいい、なんて、面倒になると思うんだが。変態に目覚めても困るからな。
握らせるのは咲奈だけでいい。あれはいいな。
でもあれか、女子は男子を握るものかもしれない。年齢関係なく。咲奈も楽しそうだし、本能にすり込まれた行動かも。
夕飯の時に乃愛が「ぱぱにたべさせてあげる」とか言い出すし。「はい、あーん」とか言って。面白がって父さんも母さんも、食べさせてもらえとか。面白がりやがって。
その役目は本来俺が乃愛にするはずだろうに。まだ時々零してるんだから。
食後は勉強しつつ、乃愛の相手もする。
我ながら器用なことをしてるな。
「ぱぱ、なにしてるのぉ?」
「勉強だ」
「べんきょう? のあがおしえてあげる」
「そうか。でも大丈夫だ」
邪魔してるだけになるんだよ。大学受験の勉強なんて、乃愛には不可能だからな。もし、できたりしたら大天才だ。あの親から天才が生まれる確率は、今後一億年以内に月と地球が衝突する確率より低いだろ。
つまりあり得ない。
それでも人並みに知識や教養は身に付くはず。要は教え方や育ち方の問題だ。
「ぱぱ、おふろはいるじかんだよ」
「もうそんな時間か」
「さっさと入って来なさい。ついでに握られてくるといいから」
「それは無い」
母さんは何を考えて握らせたがるんだか。アホだろ。
変態が育ちかねないぞ。
「ちんちー!」
「ちんちじゃねえ」
物欲しそうに見つめてるし。見るだけはいい。だが触るのは無しだ。
「これはな、咲奈のものだからな」
「おねえちゃんの?」
なんで咲奈はお姉ちゃんで俺はパパなのか。結局、あれから仲良しになっても、咲奈をママと呼ぶことは無い。仕込む時期が遅かったってことかも。
もっと早くに付き合っていれば、ママと呼ばれてたかもしれん。
「だから、こら」
ついに弄ばれた……。
時間の問題だと思ったが、考え事をしていて隙が生まれた。その隙を見事に突いて、俺の股間をさわさわ。何してやがる。
「ちんち」
「じゃねえ」
「ぱぱも、のあの、いいんだよ」
「無いんだよ」
どこで覚えてくるのか。過去に洗った記憶はしっかり残ってるからか。
まさか咲奈が教えてるとか無いよな。
「ぱぱのちんちあらう」
「洗わなくていい」
「あらうのー!」
駄々こねてんじゃないっての。
数分間の攻防の末、俺の股間は乃愛に洗われてる。鼻歌交じりで楽しそうだな、おい。気持ち良くて反応しそうだ。転がしやがって。
この程度なら最早已む無しだ。いくら断ってもきりが無い。
「のあのせなか、あらってぇ」
「はいよ」
途中で飽きたのか股間は放置され、乃愛の背中を流しバスタブに浸かる。
バスタブ内では乃愛を抱え、こっちを向いて抱き着いてるし。なんでこんなに甘えん坊になったのか。丸っきり凹凸の無い体ゆえ、無心で居られるのが救いだな。これが咲奈だったら股間が暴発しかねない。
思ったのだが、洗わせてみれば飽きるのも早い。一旦興味を満たせば、執着はしないのかも。だったらもっと早くても良かったかも。これで今後は無いだろうし。
風呂から上がり乃愛の髪を乾かす。すっかり馴染んだ日常。こんな時間もまた乃愛と過ごすことで、なんだか癒しに繋がってる。
数年前は可愛いと思うことも無かったのに。
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