決着①

リンドール王宮内に向かう一同はエリックを先頭に進んでいく。


一応援軍を出すという大義名分を負っている。

リオンは街の現状を聞き、急遽帰郷したということになってきた。


ミューズとレナンはまだフードで顔を隠しているが、久しぶりの大臣との対面に緊張していた。


二人ともあまり良い印象を持っておらず、むしろ苦手な部類だ。


狡猾で独善的。やたら声がデカく人を見下す態度は嫌悪しか持てない。


しかし血筋は間違いなく高位貴族のものであるため、代々官僚を務めていた。

口の上手さと狡賢い手腕でこの地位まで登りつめたのだ、ある意味才能がある。


今まで失脚するほどのボロも出ておらず、また有望なライバルも早めに蹴落としていたため並ぶものもいなくなっていた。


レナンのような気の弱い官僚はターゲットになり、手柄を奪われさらに増長していいたのだ。


謁見室にたどり着くと、何故かカレンとその母親もいる。


「エリック様!」


その声を聞いて珍しくエリックが動揺をし、鳥肌を立てる。


マオが以前ついた嘘八百がどんどんと昇華され、暴走したのだろう。

カレンが挨拶もなしに走り寄ってこようとした。


ズイッとティタンが割り込むように前に出て、挨拶をする。


「お初にお目にかかります。あなたはリンドール国のカレン殿とお見受けいたします。私はアドガルムより参りましたティタン=ウィズフォードと申します。

緊急時にて失礼ではございますが、先にそちらのラドン=サラエド殿にお話したい事がございます」


壁のようにそびえ立つティタンに気圧され

、カレンの足は止まった。


怒りで睨めつけるように見るが、避ける気もないティタンはその場で兄を守るため立ちはだかっている。


「カレン様、お下がりください」

名指しをされた大臣、ラドンが立ち上がる。


カレンが下がったのを見て、ティタンは後ろに控えた。


余程嫌悪しているのか、こっそりレナンの手を握っていたようだ。


改めてエリックが前に出る。

ラドンが一礼した。


「此度は援軍要請を受け入れて頂きありがとうございます。国王代理として御礼申し上げます。

今まで外壁の外ですら魔物などほとんど出ていなかったのですが、急激にその数を増やし外壁を破るまでになってしまい、我が国の騎士団では太刀打ち出来なくなっていました」


「そうか。今街には我が国が誇る騎士団が民を守るために死力を尽くしている。しかし、不思議だな。王宮にいる騎士団が多いように感じるが、街では殆ど見受けられなかった」

名ばかりの国王代理にエリックは敬語すら使わない。こちらにリオンもいるため、尚更尊大な態度だ。


王宮近くに来ると騎士団の姿は見えていたが、街の外壁近くにはいなかった。


そして王宮にはかなりの人数がいる。


王宮を守るためだとはわかるが、多すぎる。


「王宮には避難してきた領主達や意識を失った国王陛下もおります。厳重な警備が必要でして」

「ならば何故民を王宮に匿わないのだ?」

広場に結界石を設置している間も、避難してくる民は増えていた。


その中で話を聞くこともあったが、一般市民は王宮に避難出来ず、金のある貴族ばかりが匿われていると話があった。


謁見室に来る時に見たものは皆着ているものから貴族達だとわかっていた。


「助けたいのはやまやまですが、何ぶん場所がなくやむを得ずの事となりました」

「ふむ。しかし貴族達は護衛を雇っていたりするのだろう?戦えない一般市民を守るのが王宮の務めでは?

貴族の大半は魔術学校や騎士養成校に行くはずだ、そして民を守るのも貴族の、領主の務め。優先すべきは民であろう」

「しかし、民を受け入れると食糧もすぐ底をついてしまいます。皆が共倒れになってしまっては国が滅んでしまいます」


「うちの国はそんなに貧しいのか?」

ラドンの声を遮り、リオンがエリックの隣に出る。


「リオン様!」


まさか一緒だとは思わなかったのだろう。


エリックやティタンが目立つため、ラドンからは見えていなかったかもしれない。


「おかしいな。うちの国庫の備蓄はそんなに少なかったか?ここだけではなく、街の領主達のところにも備蓄させているはずだと記憶している。受け入れ出来ないはずがない」

王として知識を深めてきたリオンの言葉に大臣は反論していく。


「理想論です。書類上はそうかもしれませんが、実際にそんな事を守るものも少ないし、資金だってない」

「では、あなたと領主の怠慢だね。民を守るのが我々の務めだ、あなたは一体何をしてきた?」

「資金がないのに、来るか来ないかわからぬものの為に備蓄などの無駄を省いていたのです。国を離れていたリオン様にはおわかりにならないでしょうが」

ふっと侮蔑の言葉を述べ、開き直っている。


「姉様とレナン様がいた時は出来ていたと聞いているよ、ラドン殿は大変無能のようだ」


くすりと笑うリオンに大臣は顔を真っ赤にした。


「僕が何も知らず、何も聞かなかったと思うのかい?

罪を被せ姉様を追いやり、宰相であったレナン様を過労で追い詰め、その後散財の限りを尽くし、執務は怠り、民たちの不満を無視し、あげくのはてに大事な外壁の管理すら出来ず魔物を街に入れてしまった。魔物退治すら自国では出来ず隣国のアドガルムに援軍要請を出す。これは無能ではないのか?一体何をしていたのか本当に疑問だ」


「執務をした事もない若造が何を言う!」

大きな声で怒鳴りつけるラドンにリオンは冷ややかだ。


「確かに執務をしたことがない人に言われたくないよね。では、今から国王代理はこの僕だ」


リオンは控えていた騎士の方に向き直り、透き通る声で騎士たちに命令をした。


「リンドール国の騎士たちよ。今から僕の命令に付き従ってもらう。王宮内の守りは城門と国王の部屋、そして客室に若干名を残し、他のものは皆、街にいるアドガルム国の騎士と共に民の救出を命ずる。救出した民は王宮内に非難させよ。中庭、塔、離れも使い可能な限り受け入れをしてくれ」


騎士達の戸惑いを見て、リオンは懐からあるものを出す。


「国王の玉璽を持つ僕からの命だ。付き従ってくれるね?」

「そ、それをどこで?!」

「僕はこの国の王子だ。不思議じゃないだろ?騎士たちよ。行かないなら不敬罪だが?」


その言葉に慌てて騎士達は走っていく。何とか行ってくれたようだ。


中には街が、家族が心配な者もいただろう、声を掛け合い向かっていった。


この部屋に残る騎士も部屋の外に出させた。呼ぶまでけして入ってくるなと。


今から行うのは大臣達の断罪なのだから。


「偽物だ!それは私が隠していたはずだ!」


だが現にリオンが持っているのは作り的にもこの国の玉璽だ。


大事そうに仕舞い、再びエリックが語りかける。


「今日からはもう国王代理はおしまいだな。まぁ大臣としても終わりだが」


ティタンが持っている書類の束をラドンに渡す。


「これは…!」

「不正の証拠だ、同じものはリオンにも渡してある。それを廃棄したところで無駄だ」

経理に出した金額が実際には別なところへ横流しした金額と同じであったり、賄賂を受け取った業者、貴族との会話ややり取りが記載されている。


「それでなくともそちらの母娘のドレス代やらで随分ひっ迫していたようだが。一般人のドレスに国のお金を使った罪はラドン殿が償ってくれるのかな?」

「一般人ですって?」

カレンが眉を釣り上げ、声を張り上げる。


「私はこのリンドール国の王の血を引くものよ、王族の一人だわ!この青い目が何よりの証拠。義姉様のような半端なものじゃなく、生粋の王家の血だわ。そこのリオン様と同じ色だもの!」

引き合いに出されたリオンは顔を顰める。


「確かにリオン様は王位継承権があるけれど、私だって同じよ」

「そうだ。それに王家の宝剣と手紙も持っている。儂も見た、偽物ではない」

ラドンも自信たっぷりだ。


「今はお父様が目覚めてないからだけど、起きて証言さえされれば認めてくれるわ。あたしは間違いなくこの国の王女なのよ。

だからエリック様とも結婚出来るわ。

パーティの時はごめんなさい、エリック様の真意に気づかなくて。あんなにもあたしを愛してくれてるなんて思わなかったの。

あたしをイヤらしい目で見る男たちから守るために王宮へ帰してくれたのでしょう?でも安心して、あたしはエリック様一筋です!」


「何を言ってるのか、私にはわからないのだが」

顔を引き攣らせながら、エリックは後ずさる。


「私はもう婚約者がいる、君とは結婚しないししたくない」

「はぁ?!婚約者がいるなんて話聞いてないんですけど!」

烈火のごとく怒ったカレンを見て、レナンがそっとエリックの腕をとる。


「お久しぶりです、カレン様。私がエリック様の婚約者なので」


怯えるエリックの腕をぎゅっと掴み、フードを外す。


「あんた誰よ、あたし知らないわよ」

「ご存知のはずですよ、お忘れですか?元宰相のレナンです」



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