決着② ※残酷描写あり

「あのビクビクしてた宰相?嘘よ。だって宰相は男だったじゃない、ガリガリのよれよれでいつもオドオドしてたし」

「そうですね、ラドン様にたっぷり仕事を課せられ、あなた方母娘のドレス代や茶会代、豪華な調度品の無理な請求のせいで心労が溜まり、ガリガリのぼろぼろになってました」


男と思われてたとはショックだが。


「過労で倒れてしまい、命からがらこちらのエリック様に助けて頂いたのです。あぁおかげさまで今度アドガルムの王妃になれるんですけどね」

ふふんと自慢げにエリックにすり寄るとエリックも愛おしげにレナンの髪を撫でる。


仲睦まじい恋人同士にしか見えない。


「何言ってるのよ、エリック様は私に愛の証としてこんなに立派な装飾品を贈ってくれたのよ!」

「あぁそれ偽物です。まぁ王族を騙った偽の王女にはお似合いだと思いますよ」

クスクスと笑う。


「きちんとよく見てください、継ぎ目があるでしょ?そんなのも見抜けないなんて、本当に愚かですわね」

カレンは身につけていた宝石を見返し、わなわなと震えだす。


「アドガルムの次期国王があなたなんかを選ぶわけないのですから」




「レナン、貴様過労と偽り執務を放棄したな。国を見捨てた貴様は重罪だ!」

ラドンは拳をわなわなと震わせている。


隣にエリックがいなかったら殴りかかっていたかもしれない。


「過労で倒れましたよ。シュナイ医師が助けてくれなかったらあのまま死んでたかもしれない。エリック様がアドガルムへ連れ出してくれなかったらラドン様にこき使われて死んでました。私死にたくなかったので」

生きてて感謝です。と手を合わせる。


「退職届も持ってきましたが、ラドン様読みますか?」

「受け取るわけがないだろ、今すぐこちらに来て執務を行え!貴様はそれしか役に立たないのだから!」


レナンなど自分の言うとおりに執務を行えばいいのだ。

それに今やこんなにキレイになったのだ。

野暮ったい姿ではなく、今のままなら同じ部屋で執務をしても良いだろう。


「今ならまだ許してやる、執務室へ行け」

下卑た目を向けられ、エリックがレナンを隠すように守る。 


「では退職届はリオン様に渡します、お願いします」

「受け取りました、今までありがとうございます」

国王代理に無事に受理され、レナンははれて自由の身だ。


「さて退職届と婚約発表も無事に終わりました。次はそちらのジュリア殿にお聞きしたい」


今度エリックが視線を移した先はカレンの母親だった。


「国王陛下から賜った宝剣と手紙を見せて頂きたい。本物のかどうかを確かめたい」

「異国人であるあなたに見せても本物かどうかわからないでしょう。それがわかるのはこちらにいるラドン様か陛下だけです」

「確かに私にはわからない。しかし他にも詳しい方がこちらに」

ミューズは促され、フードを外す。


「これはこれはミューズ様、あなたもいらしてたのですね」

扇で口元を隠すが、忌々しい表情をしている。ジュリアは美しい顔を醜く歪めていた。


「そちらで可愛がってもらっているようですね、随分キレイになったこと。何も知らない方々を騙して大金と贅沢を手に入れたのでしょう?

支度金もこちらの国に払われると誓約書に書いてあるのですよ。それなのに届かないだなんて、あなたが渡したくないと駄々をこねているのでしょう。金に意地汚い女ですからね」

ふんと吐き捨てるように言い切る。


「そちらのティタン様も第二王子とはいえ、王位を継ぐことはないと聞きました。リンドールの王妃は無理でもアドガルムならなれると考えたのでしょう?

浅はかですね。ティタン様も女性に対して疎いと聞きました。なのでミューズのような性悪女に引っかかるのです。お可哀想に」


「可哀想、俺が?」

矛先が自分に向き、びっくりしている。


「えぇえぇ、ティタン様も被害者でしょう。知っていますか?金遣いの荒い、男にだらしないその女を。度々王宮を抜け出し街にて男漁りをしていたのです。街に行けば証人もいっぱいおりますよ」

面と向かって言われる罵詈雑言にミューズは耐えていた。


反論も挟むひまもなく喋られきゅっと唇を噛むミューズを見る。

あまりにもぺらぺらとミューズを落とし込む言葉を吐かれ、我慢の限界が来た。


「ふむ」

ティタンはミューズの頭を撫でて、とりあえず大剣に手をかけた。


剣を抜いたティタンにジュリアが怯えている。


「ひっ?!」

「俺のミューズをけなすのは許せないし、そのように侮蔑するのは俺が侮蔑されたのと同じだ。婚約者なのだからな。アドガルムに対する宣戦布告と見なす」


言葉でやり込める事はティタンには出来そうになかった。

なので、実力行使に切り替える。


自分にあるのは武力だし、この場で止めるものも止められるものもいないはずだ。


「そんなつもりは…」

「ミューズがそんな事するはずがない。俺はお忍びで街に行く彼女と会った。献身的に孤児院や病院をまわっていたよ」


ミユである女性を探してた時に様々な証言が出てきた。


「誰からも見向きされない、王宮からの補助もおりないような小さな孤児院や病院の手伝いをしていたんだ。貴様らみたいな見栄を張りたいだけの偽りと違う」

大剣を目の前に突きつける。


「ミューズに詫びろ、そしてさっさと宝剣と手紙を出せ」


「悪かったわ…」

本心じゃない声音だが、聞こえたのでよしとしよう。


出してきた宝剣と手紙はルドが受け取り、危険がないかを確認してミューズに渡される。

リオンも一緒に証拠の品を見た。


「これ、本物ですね。宝剣も手紙も」

ジュリアとラドンの表情が戻る。


「見たことがない宝剣ですが、このデザインと刻印…間違いないと思います」

「手紙に押されてる印も王家のものだ。差出人はないが、確実に王家の人間が書いたものですね」


「やっぱりカレンは王家の一員だわ!」

「儂の見立ては正しかった!カレンも王家の一員になるのだ、後見人は儂だ!」


ミューズとリオンの言葉に勢いを取り戻す。


「では私エリック様と結ばれる事が出来るのね。王族同士だもの、そんな宰相よりは相応しいわ、なんだったら側室くらい許してあげる」

「絶対に嫌だ、俺はレナンがいい。それにカレン殿、君は王族ではないのだよ。詳しい説明は国王陛下に任せる」


の言葉に誰もがあり得ない事だと思ったが…。




「陛下!」

皆がひざまずき、エリックも礼をする。


リンドール国王陛下であるディエスはニコラの肩を借りてゆっくりと歩いてきた。

長年寝たきりだったので足元が覚束ない。

シュナイとマオも後ろからついてきている。


ルドが気を利かせ、国王の元へ椅子を用意した。 


「皆、面をあげてくれ。今までの事をこちらのニコラ殿とマオ殿から聞いた。わしが眠っている間に様々な事が起きたのだな…

ミューズ、レナン、国を支えてくれてありがとう。リオンも、幼いのに寂しい思いをさせてしまった。不甲斐ない父を許してくれ」


「勿体なき御言葉!ありがとうございます」

「父上が目覚めてくれただけで嬉しいです!」

子どもたちの目は喜びに満ち溢れ、涙が浮かんでいる。


「エリック殿よ、此度は多大なる尽力大いに感謝する。国とレナンを救ってくれてありがとう。

ティタン殿よ、悪評に傷つく娘を信じてくれてありがとう。とても気のつくいい子なのだ。末永く幸せにしてほしい」


「我が妻の故郷故、力を貸すのは当然です」

「命にかえましてもご息女をお守り致します。一緒に幸せになります」

エリックとティタンは改めて決意表明をした。


「陛下、こちらを」

ルドが先程の品をディエスに渡す。まじまじと見つめ、ため息ついた。


「確かに本物じゃな、懐かしい代物だ」

ジュリアに向き直り、視線を送った。


ジュリアも信じられないと言った表情で見つめ返している。


「あなたは陛下じゃないですわ、誰ですの!」

ヒステリックな声がこだました。




慌てたのはラドンだ。


「どういう事だ、お前は確かに陛下からもらったと」

「確かに陛下から貰ったのよ。青い瞳をもつ方が愛を囁いてくれて、この宝剣と手紙を寄越してくれた。でもこの男じゃない!」

髪を振り乱し、戸惑っている。


「カレンと言ったか…」

自分と同じ青い目をもつ少女に声をかける。


「お父様…?」

「残念ながら、わしは君の父ではない。カレン殿の父親はわしの弟じゃ」




「わしの弟であるザレフは遊び人であった。優秀であったが女遊びが好きで娼館などに好んで通っていた、子どもさえ作らなければと先代の王も放っておいたのだ。

ある時真実の愛を見つけたと話していてが、その時に話していた女性がジュリア殿じゃろう」

深い溜息をつく。


「足繁く通い、様々なプレゼントをしたはず。ドレス、宝石、靴、食べ物、そして住むところまで」

心当たりがあるのだろう、ジュリアの表情が歪む。


「どこから財源があったか知っているか?国の資金からだ。バレたあいつは王家から名前を抹消され、国から追放された。この手紙は盗まれた宝剣と共に最後に渡された贈り物だったろう」

久しぶりの見た弟の字に懐かしさを覚える。


「金が無くなってもそなたの心を繋ぎ止めて置きたかったのだろう。何が『もうすぐ王になる、しばらく会えないが必ず迎えに行く。待っててくれ』じゃ。勝手に玉璽を使いおって…!今となって形見が戻ってきてもなぁ、あのときに反省していたらまだ違った道があったのに」

涙をこらえるよう目につぶった。


「ザレフは王家から追放され、とうの昔に死んでいる。王族の血は引こうとも、それは絶たれた血じゃ。カレン殿は王族にはなれない」




「嘘だっ!!」

最終宣告を受け、床をだんだん叩きながら叫んでいる。


「うそだうそだうそだ!あたしは王族なんだ、この目が証拠だ!母様だって、小さい頃からずっとあたしに本当は王族だって言ってたんだ!」

今まで積み重ねてきたものが崩れ、カレンは取り乱している。


「あんな半端者が王族で、あたしが違うなんて、ありえない!」

ミューズを睨みつける。


強欲で色欲で気に食わない女。


「ラドン様もあたしが王家の血を引いている、いつか王女になれるって言いましたよね?!」

「儂はジュリアにそう言われたからお前達をこの王宮に連れてきたのだ!まさか追放されたものの血筋とは…!この役立たず!」

「まぁ!娼館であなたが言ったのですよ!この証拠でばっちりだ、王宮へ行けば贅の限りが尽くせると。あなたが唆す事さえなければこんな事になってなかったのに!娘と幸せに暮らせたのに!」

「散々金を使ってなんて言い草だ!母娘揃って金に無頓着でどんどんと使い込みやがって、今までのぶんを返してもらうぞ!」


ラドンにも見捨てられ、縋るようにエリックを見つめた。


「エリック様、お助けください!どうかあたしを見捨てないでください、何でもしますから!」

「もうおやめなさいカレン、淑女たるもの潔く罪を認めるのです」


たまらずミューズは諌めた。


王族としての縁はなくても、血縁は血縁だ。

それに嫌われていたが数年の付き合いがある。


「過ちを認めてカレン!」

「うるさいんだよっ!テメエに言われたくないんだよ!」


格下に見ていたミューズに諭され、怒りのまま突っ込んでくる。


ティタンが庇うように立ち、腕を振るって吹き飛ばした!


「がっ、はぁっ…!」

「カレン!」

ジュリアが叫ぶがあまりの事に動けない。


男性で、そして騎士として鍛えているティタンの力だ。

ただの女性が無事で済むはずがない。


口からは血が出て涙と鼻水でその顔は汚れている。


ドスドスと足音を立て、カレンに近づくとその髪を掴み、顔を上げさせる。


「ひっ、ひぐっ」

「何度も言わせるな。ミューズを傷つける者はただじゃおかない。刑が執行される前に死にたいか?」


大剣に手をかけ、スッと上に構える。


「どっちみち助かる事はないんだ。あの世で詫びろ」

「待って!だめ、ティタン!!」

懸命に走り、震える手でティタンの腕にしがみつく!


「やめて、私は大丈夫だから!」

「ダメだ、俺が許せない」

「やだ!そんなティタンは見たくないの!」


人を殺す、それも目の前でなんて。綺麗事だが見たくはない。


「お願い…」

「……」


ティタンがカレンから手を話すと、ゴツっと音がして地面に顔がぶつかった。


痛みにのたうち回っていたが、だんだん静かになる。


「ティタンごめんなさい…私のために怒ってくれたのに」

ほろほろと泣いてしまったミューズを擦り、カレンから離れさせる。


今ミューズに見せることはないなと考えを改める。

汚物は然るべき場所で処理するべきだなと思った。


慈しむようにミューズの体を支え、距離をあけた。

物語で見た王女を守る騎士として完璧なエスコートだ。

「あたしは、この国の、王女なのに、」


なぜ真っ当に評価されないのか。なぜミューズばかり大事にされるのか。


「青い目は、王族の証なのに、」


なぜあいつだけ愛されるのか納得がいかない。


「半端者のミューズ…あんたなんか、大嫌いだ…!」


まだ言うかとさすがにティタンが剣を振るおうとした時に、ディエスの横にいたニコラが弱々しく出てきた。


「あのぅ…さすがにティタン様がお手を汚されることはないです。ミューズ様が悲しみますので」


カレンの側に近づいていく。


「何よあんた…気安く寄らないで!」

ひっ!とニコラが体を強ばらせた。


「あまり怒らないでください、僕は気弱なので、びっくりすると手元が狂います」

おどおどとエリックとティタンに視線を送る。


「エリック様、ティタン様、大事な奥様の目をお塞ぎください。少々荒っぽくしますゆえ」


素早く二人は婚約者を抱きしめた。


今から起こることが見えないように、優しく腕に力をこめる。目と耳を閉じろと囁く。


「さて、ちょっと静かにしてくださいね」

ニコラはカレンに魔法をかけ、言葉を出せないようにする。


そしてスッと短剣でカレンの両目を切り裂いた。


「いやぁーーーー!」

ジュリアの絶叫が響き渡った。


あちらを忘れてました、と改めてジュリアの声を魔法で奪う。


「な、何が…?」


ただならぬ雰囲気にミューズは震えが止まらない。

縋る手がティタンの体に回される。

何が起きたのか恐怖で後ろを振り返ることも出来ない。優しく抱きしめ、背中を擦る。


「見てはダメだ」

エリックも同じくレナンをぎゅうっと強く抱きしめた。


今の絶叫で体が目に見えて震えだした。

レナンの腕もエリックに回され指先が白くなるほど力が込められていた。


「この二人はこの先の話にいらないですね、ルドさんライカさん手伝ってください。二人を地下牢に入れてきましょう」


痛みでのたうち回るカレンを蹴り一つで大人しくさせる。


駆け寄ってきたジュリアも両足を折って気絶させ、ルドとライカに担がせた。


「地下牢には僕が案内します。僕は何でも知ってますから」


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