幸せな日々
「うぅー疲れました」
「お疲れ様でした、少しハードでしたね」
ダンスの練習をしていた二人は休憩となりへたり込んだ。
来年の結婚式やデビュタントに向けて練習しているのだが、ミューズはともかくブランクの長いレナンには荷が重い。
もともと身体を動かすのが得意じゃないのもあり、ついてくだけで精一杯だ。
「レナン様もう少し体力をつけていきましょう、朝晩に軽めの運動やストレッチするだけでも違いますわ」
先生は優しく労ってくれている。
レナンが真面目に取り組んでいるからこそ厳しさはいらないと思ってるのだ。
「うう、ありがとうございます。私、先生にこの御恩を返せるよう一生懸命頑張ります」
「私ではなく、エリック様へどうぞ伝えて下さい。先程からお目見えになってますよ」
レッスン室の端っこにいつの間にか二人は立っていた。
じーっと二人は自分の婚約者のダンス姿を見つめていたのだ。
「やべぇかわいい。俺たちの妻サイコー」
「早く式をあげて一緒になりたいですね」
「国王になるのだから俺が先だよな」
「婚約したのは俺が先です、なので式も俺です」
「普通兄が先だろ?」
「だめです。譲りません」
外交用のキリッとした顔でぼそりと男兄弟らしい会話を交わしていた。
「合同は駄目だろうか?」
「なるほど」
一回で終わるし、ケンカにはならなそうだ。前例はないが、提案してみるのもいいかもしれない。
リオンのデビュタントもあるし、来年までには全て終わらせておくつもりなのだ。復興で忙しい時に何度も招待するのは大変だろう。
「父上に相談してみる。一回で済ませる分しっかりとしたタイムスケジュールと演出を考えよう。招待客はほぼ似たようなものだから引き出物を豪華にして…」
などと、早速案をいくつか出していく。
こういう回転の速さと柔軟さが羨ましい。
時折3人の会話についていけず、凹んでいるのだが、後からミューズが丁寧に教えてくれるのだ。
もっと真面目に座学に取り組めばよかったなと反省している。
そんな話を昨夜ミューズにすると、
「ティタン様はそのままでいいのですよ。私ティタン様の逞しい身体も大好きですから」
今までの努力の賜物であろうと優しく触れられる。
ミューズの細い指で撫でられると変な気分になる。
女性にそうやって触られたこともないので、気恥ずかしさもあるのだ。
「来てたなら言ってくださいよ、恥ずかしいです」
失敗ばかりのステップを見られただろうかと頬を染め、うつむいてしまった。レナンは特にダンスに自信がないのだ。
「いや、キレイだったよ。早く君の手を取り一緒にダンスを踊りたい」
自然な動作でレナンの手を取る。
「何なら今からでも」
「も、もう少し、待ってください。すぐに上達してみせますので」
あわあわと震えだすレナンは手を握られ動くことも出来なそうだ。
頭から蒸気が出そうなほど赤くなっている。
「ミューズもとてもきれいだった。妖精のように軽やかで優雅で。しばらくぶりとは思えなかったよ」
「お母様に徹底して教えられたの。先生に教わっている内に段々と思い出してきたわ。ティタンはダンスは?」
騎士となったティタンはダンスお踊る機会が減ったのではと思い、聞いてみる。
「最後に踊ったのはいつだったか、正直覚えていないなぁ」
そもそも女性と踊ったことがあっただろうか?デビュタントの時は従姉弟に頼んだが身長差もあり、やりづらかった。
ミューズはティタンの手を引き、ダンスに誘う。
「良かったら私と一緒に踊って」
身長差がネックになりそうなので試しにどのようになるのかを確認したかったのだ。
ティタンはもちろん二つ返事で了承する。
「君の誘いならもちろん」
そのやり取りに羨ましそうにしているエリックはちらりとレナンを見る。
「いやいや無理です。足ふんじゃいます」
「それぐらい全然いい。踊ってくれればそれでいい」
強引にレナンを立たせると二組の恋人が演奏に合わせてくるくると踊りだす。
背が高く手足も長いレナンとのダンスは見栄えがいい。
まだまだぎこちないが、エリックのリードのおかげでサマになっていた。
緊張と恥ずかしさで顔を赤くするレナンを愛しげに見ながら上手に合わせている。
「とても上手だよ」
「エリック様のおかげです」
ミューズとティタンは身長差があるため、エリック達とまた違うダンスに見える。
クルクルとまるで浮いてるかのように軽やかだ。
ドレスの裾がふわりと靡き、華やかだ。
「こんなダンスは初めてだな。ミューズのステップは凄い」
「ティタン様が支えてくれてるからですよ、とても楽しいです」
恋人達のダンスはとてもキレイで楽しそうだった。
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