終の住処

あっという間に婚約が進み、問題はミューズの住むところだ。


このまま返すには今の生活はひどすぎる。

かと言っていきなり同棲は準備も整っていない。


「さすがに一度も返さないわけにはいかないな。準備と挨拶で一週間としてミューズ殿についてきてくれる使用人などの声掛けをしてほしい。住む場所は少し手狭だがティタンの邸宅でいいだろう。ゆくゆくはどこかの領地をと思っている。足りない人手はこちらで補填する」


あとはリンドール国の人間だ。


「口煩い外野は支度金を用意するとして黙らせよう、婚家が用意するものをこちらが用意するとな。ただし受取人は国王とさせてもらう。契約書内にこっそり忍ばせておけばそちらの宰相殿も聡い方なので同意も得られるだろう」


つまり払う算段はあるが、国王が目覚めない限りは払うつもりがないとの約定だ。大臣は面倒な政務を宰相に委ねており分厚くて分かりづらい契約書をを作れば気づかないだろう。


「国内の情勢も傾いている中、支度金をこちらが用意するともなればあちらも食いつくはずだ。王族同士の結婚は多額の金が動いて経済への影響も大きい」

そしてミューズをこちらに引き込むのは容易であろう。


「もとよりミューズ殿の悪評で残念な事に民達の関心は低い。これを逆手に取ると、詳しい事情を知らない民からは反対意見は出ないはずだ。

王位継承権のあるリオンがいれば民からも異論は出ないはずだし散財する王女としての評判を利用しよう」

「でも、私がいなくなれば国の政務が滞ってしまいます」

「いっそ現状を見せつけてやったらどうだ?ミューズ殿が居なくなり、宰相殿が過労で倒れた後、大臣たちがどう動くのかも見ものだろうし」


宰相殿の身体も心配だとエリックは呟く。良くこの5年間耐え忍んだものだ。


「将来的にもリンドールに必要な方だ。こちらから静養地を準備すると伝えてくれ。そこに居れば大臣たちからの余計な手出しをさせないと約束する。今まで頑張ったのだから、これを機に休んで貰ったほうがいい」

ずっと支えてくれた宰相だ。確かに休んで貰いたい。


「こちらの密偵を常に王国に潜ませておくので何かあればすぐ連絡する。心配しなくていいぞ」

視線をミューズからティタンへと移す。


「今の意見を聞いてどうだ?他に何かにあるか?」

「…一週間は長い。せめて3日にしてくれ」

ミューズの隣に座り、手を握ったまま、それだけを伝える。


「だそうだ。ミューズ殿頼んだぞ」


弟のわがままを婚約者に押し付け、次期国王候補達が細かい話しを進め始める。

「…善処します」

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