街に行こう

ミューズは今日は街の孤児院に顔を出すことにした。

少しながらのお菓子を焼き、皆で食べ、掃除をしたり小さい子の身の回りの世話などを行った。


「いつもありがとうございます、ミユさんが来ると本当に助かりますわ」

孤児院の院長先生がペコペコと頭を下げる。

ここはとても小さいところなので、あまり手伝いが来ることもなく、寄付金も少ない。

今のミューズに出来ることは限られているが、カレンが来ないようなところへ重点的に手伝いにきているのだ。


ミユというのは街に視察に来たときの偽名だ。


「絵本の読み聞かせなども好評でして。皆文字を覚えたいと意欲的になってくれてますわ」

「それは嬉しいですね、今度また良さそうな絵本があれば持ってきますわ」


この国の識字率は低くないものの、やはりこういうところまで浸透はしていない。

いずれは収入に関係なく、このような子達でも学校に通えるように整えていきたいと感じている。


「いつもすみません…私達には返せるものがなく」

「いえいえ、子ども達の健やかな未来のためですもの。お気になさらないで」


本はけして安いものではない。

小さい子たちもいるので本の損傷も激しい。それらを買い替えるよりも食料や身の回りのものに充てられる。


必要最低限には揃っているが、いずれ大人になり、働くときに文字も読めないのであれば就職することは困難だ。

ミューズはその部分を慮って教育に力を入れたいと考えている。


「他のご貴族様も立ち寄らないこのようなところに気を配って頂いて、本当に感謝しております」

院長先生の目には涙が浮かんでいた。



「今日もありがとね、ミユお姉ちゃん」

「ナッツのクッキーおいしかったよ!」

子ども達に見送られ、帰り支度をしていた。

「良かったわ、今度また何か持ってくるわね。何がいいかしら」

ニコニコと子ども達に挨拶をし、撫でていく。

「ふわふわパン!」

「キャンディー!」

「果物のケーキ!」

皆それぞれ食べたいものを言ってくる。


「こら!あまりワガママ言わないの」

院長先生の叱責に子ども達はミューズの後ろに隠れる。

「すみません、んもぅ皆ワガママで…」

「順番に用意しますので、大丈夫ですよ。全部は無理だから1つずつね」

よしよしと撫でながら目線を合わしていく。


「その代わり皆も院長先生を支えて、小さい子たちを見ていってね。約束よ」

「約束するよ!」

皆と約束の握手を交わし、ミューズは帰ろうとした。


しかし、にわかに通りが騒がしい気がする。

「何でしょう?何かあったようですね」



地響きと人の悲鳴、子ども達を興味津々で通りに出てくる。

「ダメよ、何があったかわからないから下がって!」

ミューズは子ども達を下がらせようとした。


「逃げろ!暴れ馬だ!」

注意の声に振り返る。叫び声が近くなって地響きがすぐそばまで近づいた。


「早く中へ!」

慌ててしまい、一番小さいツキが転んでしまう。

「ツキ、早く!」

ミューズが抱き起こすが、もはや暴れ馬は見える位置まで近づいていた。


(間に合わない!)

どう走ってもあちらより早く逃げることは出来そうにない。

とっさに防御魔法をかけ、ツキを抱いてその場に蹲る。


蹄がミューズに届く直前、何者かが手綱を掴んだ。

「うぉおおお!!」

野太い男の声がし、馬は後ろに引っ張られている。

蹄を下ろすことも出来ず、馬は後ろに倒れ込む。

尚も暴れようとする馬の手綱を握り、男は魔法を唱えたようだ。

馬はその場で崩折れるように倒れた。


暴れ馬が落ち着いたのを見て、ミューズはツキを院長先生に預けにいく。

途端に泣き出すツキを抱きしめ、院長先生は宥めようと中へと連れて行った。

「ありがとうございます、ミユ様。このご恩、何と言っていいのか…」

「いいのよ、ゆっくり休ませて上げて」


ミューズは助けてくれた男の元へいき、頭をさげた。

「助けて頂きありがとうございました、貴方様がいなかったら私達は無事ではすまなかったでしょう。このご恩忘れません」

深々と頭をさげ、ミューズは心からの感謝を述べた。

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