邂逅

「本当に、本当に凄かったわ」


街で助けてもらった事はあるけれど、あんな戦い方をするとは思わなかった。


「私も鍛えたら少しは戦えるかしら」

えいえいと素振りの真似をする。


その目は真剣であったが、こんな細腕でと思わず笑ってしまう。


「ミューズは戦わなくていい。俺が守るんだから」


時には命を奪わなくてはならない時もある。


ミューズには文官としての戦いがあるのだ、わざわざこのような血生臭い事を覚えさせたくはない。


「でも、守られてばかりはイヤだわ。いざという時は私だって少しは役に立ちたい」

役に立つと言われても

「こんなか弱い体でか?」


ひょいっと横抱きに抱えられ、思わず身を固くしてしまう。


「!」

「適材適所というものがある。ミューズは俺が守るから戦いの技は必要ない」

「うぅー。でもぉ…」

抱えられ足をジタバタさせている。


今日は妙に子どもっぽい。


「何故拘る?ミューズには兄上とレナン殿と行う政務があるのだから、武人の仕事を知る必要はないだろ」

「あなたの仕事だから少しでも知りたいの」


昨夜ティタンに言われてお互いの仕事を理解し、わかり合えればなと思った。


「深く知るのは難しいかもしれないけどティタンを支えられたらなって。キール様のようにはいかないだろうけど」

若干嫉妬の思いも伝えつつ、口にする。


知ろうと知る気持ちは嬉しい。


「それならば、護身術はどうだ?」

人を傷つける技ではなく、自分を守る技。

それであればこの先のもしもにも備えられるし、多少ならティタンでも教えられる。


「時間が取れるなら俺が教える。忙しいなら無理強いはしないが…」

「ティタンに教えてもらえるなんて嬉しいわ。早速先生に相談するね」


レナンが王妃教育をしている時にミューズは自習をしているので、その時間を回せればティタンといる時間も増やせそう。


「一緒にいられるなら、ぜひ頑張りたい」

むんっと握り拳を作り、やる気を見せる。

「ところで、重くはない…?そろそろおろして欲しいなぁって」


たくましい腕の中にいるのは嬉しいのだが、さすがに負担が大きいのではと心配になる。


それに顔がとても近いのだ、昨日の今日でやはり気まずい。


「俺にこうされるのはイヤか?」

嫌われたのじゃないかと心配で聞いてしまうが、そうではないと否定してくれる。


「重いだろうし、それにとても顔が近くて恥ずかしいの…それに匂いも」


鍛錬後の汗の匂い、その濃い香りに胸が高なってしまう。


「すまない、すぐ下ろす!」

汗臭いと言われたと、急いでミューズの身体を床に下ろした。

離れる前にとミューズの手がティタンの首に回されキスをされる。


「さっきはとてもカッコよかったわ。勝ってくれて嬉しい。あと私ティタンの匂い好きよ、とても安心するの」


願わくば使用したタオルも欲しいが、はしたないと思われそうでそこまで言えなかった。


「勝った甲斐が、あるな」

嬉しさで頬がニヤける。これから一緒にいる時間が増えるのも喜ばしい。


「今日はありがとね、見学すごく楽しかった!また後でね」


上目遣いで可愛く言われ、だらけた顔で鍛錬場に戻ってしまった。


唇についた薄紅色にも気づかれ、キールにめちゃくちゃからかわれてしまったそうだ。







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