目覚めたら

目覚めたら、どこかの部屋だった。


自室ではない、別宅でもない。

体はひどく疲れ、重たく感じる。




しばし天井を見上げ、お腹すいたなぁとぼんやりと思った。

大怪我をして、飛竜を倒したのは覚えている。


今は痛みもないので誰かが治癒してくれたのだろう。




意識がはっきりとしてきて、ミューズの事がよぎる。


「ミューズ…」


体を起こそうとしたその時、ようやく自分の傍に誰かがいるのに気づいた。


ミューズが椅子に座っており、コクリコクリと眠かけをしていた。

その顔には疲労が見てとれた。


「心配かけただろうなぁ…」

軋む体を奮い立たせ、体を起こした。


そっとミューズの顔を覗きこみ、優しく頬に触れた。


「ミューズ、おはよう」


ティタンの声に、ゆっくりと目を開けた。


「ティタン…」

ぽろぽろと大粒の涙が目からこぼれ落ちた。


「もう、だめかと思った、死んじゃうんじゃないかって、」

ひぐひぐと嗚咽混じりにティタンに抱きつく。


よほど心配をかけたのだろう、小柄な体がいつにも増して小さく感じられた。


「ミューズごめんな、怖い思いをさせて」

よしよしと頭を撫でて、体をぎゅっと抱きしめる。


「5日も、目を覚まさなくて…体の傷は治しても、全然、起きてくれなくて、お父様みたいに、なるんじゃないかって、心配したのよ」


そこにいるのに、体には触れられるのに、話すことが出来ない。




もう会えなくなるんじゃないかと、寂しくて怖かった。




「5日も?!あれから街はどうなった?守護神は?」

まずは水をすすめ、外にいるマオに皆を呼ぶよう伝えた。

ゆっくりと説明を始める




街はだいぶひどい状態になっているが、人への被害は少ない。


周辺諸国へも援助してもらえるよう書簡を出し、街の者へも動けるものには復興に協力してもらえるよう声をかけた。


しばらくは治安の悪化を防ぐため、アドガルムの騎士団が街を巡回するそうだ。


守護神キュアはティタンを癒やした後また街の防御を張るため塔へ戻った。


しばらく街の外にも魔物がいたが、街にまた防御壁が張られたのを確認し、散らばっていったそうだ。


今急いで壁の修理も進めている。


予算の心配はあるが、国王も目覚めリオンも戻ったのだ。

徐々にではあるが復興されていくはずだ。




「キールは?」

一緒に戦ったキールも心配だ。あちらもかなり重症だったろう。


「キール様も無事よ、ティタンよりも先に目を覚ましたわ。ただ、起きたらティタンをぶん殴るって言ってたの」

「あぁそれは覚悟しないとなぁ…」

二人で苦笑いをする。勝手な事をしっぱなしだったから申し訳ない。


「この、バカヤロー!」

部屋に来た途端、思いっきり殴られる。


利き手じゃないのは優しさだろうか?

ベッドからは転がり落ちたが。


「なぜ竜の口腔を狙った?!あそこへ飛ばしたのは逆鱗を狙えということだったのに」

あぁ忘れていた。


竜の喉元へは逆鱗という柔らかい部分がある。

硬い鱗に覆われた竜の唯一に近い弱点。


すっかり忘れていた。


逆さまになって思い出しているとエリックの笑みが見える。


「お前らしいうっかりだ。だが、生きてたからよかったものの次は気をつけろ。お前が死んだらミューズはどうなる。誰かに取られたいか?」

「絶対ダメだ、死霊になってでも戻ってくる」

身を起こし、ベッドに腰掛けた。


ミューズもエリックもレナンもキールもリオンもマオやニコラだっている。

 



「心配かけた、皆ありがとな」




ティタンはしばらく療養し、エリックとレナンはリンドールの復興に力を貸していた。


ミューズは一日一回塔に行き、キュアと話しをしていた。


街の人達も謝ってくれて、しかも空飛ぶミューズを目撃しているので「女神様」と呼ばれることもあるらしい。


ニコラとマオが集めた報告書のおかげで複数の貴族が断罪された。


惜しみなく地下牢を使い、その案内をニコラが喜んでしていたのが印象深い。


地下牢での不審死が相次いだが、何も語らない。


そんなニコラだが、あれからレナンに距離を置かれてしばし泣いていたとか。




そしてリオンはそばにいて支えてくれたマオにプロポーズをした。




「僕はまだ子どもであなたを守ることが出来ませんが、この国が落ち着き復興したらぜひ妻に迎えたい。返事は今じゃなくていいので考えておいてください」

「…考えておくです」


あのティタンが死にそうになったことで死生観が変わったそうだ。


受け入れるかどうかはこれからの手腕と有言実行にかかってるです、とぷいっとしていた。


誠実なリオンはこれからマオのためにより一層頑張るだろう。




キールは街に行き、修復作業など手伝っていた。


騎士団長代理を務めたり、かなりの街の人を助けていたから、街ではキャーキャー言われている。


貴族令嬢からもラブレターをもらったりしているが、

「俺には妻がいるから」

と断固として拒否を続けていたそうだ。

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