第5話
自動ピアノを聴けるなら文句は言わない、応募したツアーに当選した時はそう思いもしたものの、高い金を払ったせっかくの旅行で安っぽい友人の家を訪れたような夕食を囲むと、対価に合わないという不満がすこしだけ生まれた。塩焼きは大きくて美味しいが、それほど魚は好きでないからありがたみはなく、小骨を取り除くのが面倒だと思い出させると同時に、肉の方が欲しいと気づかされた。冷たい地酒もやけに辛口で重たく、悪酔いしそうな米の味わいは禿げかかったスーツ姿のサラリーマンがセンスなく大声で怒鳴るようで、あまり気分の良いアルコールではなかった。女の内心が無口と表情に出ているのを知っているせいか、中年女はテーブルの向かいで口数を減らして食事を進めていた。女は白米のない食卓にも不満があった。夕食というのはおかずとごはんが一緒に出てくるはずなのに、このツアーのディナーはデザートの代わりに味噌汁と白米が出されるらしい。ねっとりする地酒を飲んで漬け物に箸をのばすと、もっと客を考慮したサービスを考えるべきだと思われた。視線を上げると、中年女は口元に笑みさえ浮かべているような表情で、満足そうにおかずを食べている。何がそんなに嬉しいのか、人が喜んで食事しないことが楽しいか、女がそう考えていると中年女は、口に合わないかしら、と声をかけてきた。
仮眠直後のなまりが解けたのか、それとも栄養補給と酒の酔いか、何気ない配慮の言葉から会話の糸口はたやすくもつれあい、女同士の近づきやすさで言葉は無言よりも交わされるようになった。車中で話した表面上の挨拶と異なり、中年女の問いかけに寄り添って女は感情が先に言葉を話して、島に着くまでの面倒を話した。外国ならともかく、日本国内の島でどうして二回も船着き場を経由するのかわからない。境港から直線にこの島へ向かえばいいのに。中年女は同調しながら声を大きく文句を合わせて、小さい島だから航路がないと口にすると、女は、それでもおかしい、車も走る小さくない島だ、と言う。過疎化があるにしても移動時間は丸一日で、韓国に着く方がよほど早いし、二つ目の港なんて日本じゃないみたいだった、と言って地酒をぐっと飲み、刺身に箸を出して口に入れた。中年女は改めて実感するようにうなずき、だから本土とこの島の行き来はほとんどないと、まるで他人事のように呟いた。
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