第2話
車はぽつぽつとする民家から離れて舗装されていない細い砂利道を走り、庭とも藪とも林ともいえる自然に囲まれた場所に建つ一軒家に到着した。今回のツアーの条件で細かい質問は許されていなかったから、詳しく知らされていなかった宿泊所について尋ねる機会を持てなかったにしても、最初から古民家に泊まるものだと思っていた。車内で中年女は、汚い場所だけど、とは言っていたが、明るくしゃきしゃきした物言いからもちろん控えめにしてのことだろうと考えていたとしても、予想していたよりも新しい家に泊まることになったと驚いた。宿としての造りではなく、小さな家族が住むための最低限の建築となっていて、リノベーションではない新築らしい雰囲気が周囲の自然に馴染まず浮いているようだった。金をかけての造作ではないどことなく間に合わせのような軽さの平凡で味気ない風情ではあったが、小汚い宿に泊まるよりもましだと女は思った。
家の中に入ると、中年女は慣れ親しんだ家に戻ったようにスリッパを履き、新しい客用を差し出し、ダイニングキッチンへと女を案内した。迎えに来る前に用事を済ませたらしく、食材の詰まっていそうな麻のトートバッグをテーブルに置いて、イスを引き、女を座らせ、きびきびと荷物を放ると、鍵と紙を持って真向かいに座った。快活で人当たりの良い顔は真面目になり、今回の“自動ピアノソロコンサート鑑賞ツアー”の説明を紙に書かれた内容に沿って始めた。面食らったわけではないが、いささか構えるように仕向ける語り口へ挑むように、ここに来る前からすでに知っていた内容を一語一句修正するように聞いて、女は中年女に目を向けていた。
二泊三日の今回のツアープランは、夕方に到着した今日は夕飯を食べて一日を終える。ピアノコンサートは明日の夜となり、それまでは宿泊所となっているこの家で完全待機となる。朝食、昼食、夕食すべてをこの家でとることになり、ピアノを聴き終えた翌朝にこの島を発つことになる。
自動ピアノの演奏を聴く他は何も予定を持たない今回のツアープランに関し、女はとうに疑問を持ちすぎて何も考えなくなっていたので、中年女からの説明に対して再び興味が戻って尋ねたくなったが、ツアーの契約条項の、“自動ピアノの演奏を聴く以外島での行動に自由はなく、その事についての質問は一切受けつけない、その点を了承しなければ鑑賞ツアーへの参加は認められない”と明記されていた文章が読まれて、黙ることにした。目的は自動ピアノを聴くことだから、抽選で選ばれ、他に誰一人参加の認められていない今回のチャンスをわざわざ逃すような真似はせず、成果を得るために余計な疑問は表に出さないことにした。中年女の説明は、ピアノ演奏以外の事に関心を持つな、と言うような目立って強い口調があり、やんわりと解説して触らせないよりは、むしろ粗を見せて突っ込んで来いと誘うような仕掛けがあった。しかし女は目を見て頷くだけで、下手な愛想笑いを少し漏らす程度に聞いていた。
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