第11話

 天井を見つめていると何もなく、分けられない小鳥の声が外から多く聞こえるだけで、家の中からは物音がしなかった。中年女も二日酔いで寝坊しているのだろうかと考えて、ここで二度寝するのが普段の自分だろうと思った。そして昼を過ぎて夕方に目覚める。そうすればあっという間に自動ピアノの演奏会となり、この島での他の思い出を余分に得ることなく、濃く大きく体験は残されるだろう。それでいいのかと女は自問した。せっかくやって来た島でいつもの自分がだらしなく過ごし、空白を黒墨に染めて喜べるだろうか。後悔するだろうとわかっていながら、部屋に入る明かりの優しさと二日酔いのだるさは身心の欲求を一致させているらしく、どうでもよい気持ちにさせる。ここで寝続けていたら中年女は途中で起こしにくるだろうか。十中八九放っておくと思われた。昨夕がそうで、昨晩の食卓の突き合わせでも親しく飲み交わすよりは、表面上は打ち解けたように柔和な態度を見せながら、たった一人やって来たツアー客の実体を観察するように目を光らせて、魂胆などないのにこちらの懐を探るような会話運びをしていた。そもそもああやって酒を飲ませたのも、コンサートまでの時間を相手にするのが面倒だから、飲ませて放ったらかしにしておこうというつもりだったのだろう。するとよくわからない地酒とイカの味がつっと思い出され、体内に残ったアルコールと気分の悪さが拒否を示すのではなく、むしろ回復の為にそれらを欲しがっているように反応した。そうなると食欲はないが朝食が気になった。用意されているのだろうか、もう朝は過ぎたから片づけられたのだろうか、それともまだ寝ている中年女は支度していないのだろうか。

 女は起きあがり、ベッドに尻をつけたまま体をドアに向けて奥を窺った。その隙間に薄い雑色のボール紙が挟まっているのに気づいた。すぐさま手に取ると。

 “朝ごはんを待っていたけど、起きる気配がなかったのでちょっと出かけてきます。ごはんは炊飯器にあります。おかずはテーブルの上と冷蔵庫の中にあるので電子レンジを使ってください。何か食べたい物があれば好きに調理してかまわないので。湯船はないけれどシャワーは自由に使えます。昼に戻るから外でランチしましょう。追伸、酒が欲しかったら好きに飲んでいいからね。”

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