目に見える成果

「まあ、悪くないね」


 お店を再開して一ヶ月。フィンがこの一ヶ月の収支をまとめて、店のカウンターに広げる。私とカイはそれを向かい側からのぞき込んだ。


「日によるけど、一ヶ月で見たら黒字だ」


「よかった」


「けど、最初の一ヶ月だからね。ここからそれを維持していかないといけない」


 フィンは真面目な顔で言う。


「今月は収入も多かったけど、その分出費も多かった。最初だからね。うちの親に借りてたぶんの返済とか、食材だってたぶん余分に買ってる分があっただろう。そういうところを来月以降は減らしていきたい」


 カイはうんうんと頷きつつ、ちょっと困った顔でこちらを見る。たぶんよくわかってないのだろう。


「なにか聞きたい事ある?」


 フィンが少し表情を崩してカイに聞く。


「すみません。初日からどんどんお客さんって減ってると思うんですけど、それって戻せるんですか」


「それは難しいね」


「え」


 ますます困ったような顔でカイは顔を上げた。


「やっぱり初日は初日だし、それを見込んで今月の返済額を多めに取ってある。そうだなあ。今週一週間くらいの出入りを維持できれば、大丈夫だよ」


「へーえ」


「食材については私の方で考える」


「よろしく。考えたら教えて」


「はい」


 ふと先日のアンとの会話を思い出した。たしかにフィンは愛想がいい。言い方は別に優しくないし、ジェシカ関連でなければかなりサバサバしていると思うけど、それでも表情が穏やかで、口調も優しいから感じよく見える。


(あ、エドワードさんとデイジーさんがそうなんだ)


 気づいてしまった。彼の父親のエドワードさんはさっぱりしたやや口調の荒い親方で、母親のデイジーさんはキビキビしつつ丁寧で穏やかな女将なのである。その中間を取るとこうなるんだ。

 フィンの兄であるライアンはかなりエドワードさんそっくりだけど、フィンは間を取ったんだな。


「なに?」


「なんでもないです」


 思わずフィンを見てニヤニヤしてしまい不審がられた。


(じゃあ、あの子は)


 自分の娘を思い出す。彼女は私と夫のどこを継いで、ああなったのか。もっと早くに考えるべきだった。もう、遅い。

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