どうにかこうにか

 初日を盛況で終えて、一週間。二日目三日目には知り合いが顔を出してくれた。


「よお。フィンはちゃんと働いてるか」


 そう言って顔を出したのはアダムス一家だった。閉店間際にやってきて、フィンの父親であるエドワードさんが食後に厨房に顔を出してくれたのだ。


「はい、とても働き者で助けられてばかりです」


 そう応えるとエドワードさんは自慢げに笑った。


「ふふん。アダムスの名に恥じるようなことはしねえ息子だ。金物はどうだい」


「すごいです。焦げ付かないし、手になじんで使いやすい」


 銀枝亭の鍋やフライパン、それに包丁なんかまで、金属でできているものはすべてエドワードさん謹製である。どれもこれも驚くべき使いやすさで、銀枝亭の味の半分はエドワードさんのおかげだ。

 以前――ここに来るまではテフロン加工のフライパンやら鍋を使っていたけれど、鉄の良さに目覚めてしまう。もう戻れないわあ。


「そりゃよかった。困りごとがあればすぐ言いな」


「はい、ありがとうございます」


 エドワードさんはそこにいた精霊と少し話して去って行った。


「なに話してたの?」


「ちょうしはどう? ってきかれた」


「たのしー! っていっといた」


「そっか」


 またちょっと涙ぐみそうになったのを今度は堪えた。いろんな人が助けてくれる。ふと誰も助けてくれなかったことを思い出しそうになったけど、頭を振って誤魔化した。




 三日目にはカワード農場の人たちやウディ木材加工所の人たちが顔を出してくれた。

 カワードさんの跡継ぎであるアンが昼食時が落ち着いたタイミングで厨房を覗きにきた。


「フィンはさすがですね。いえしかし、わたしだってあれくらいは」


 と賞賛なんだかぼやきなんだかわからないことを呟く。どうやらアンはフィンをライバル視している?


「ライバルなの?」


「まさか。ただわたしの方が素早く正確に計算できる、それだけです」


 めっちゃライバル視してるじゃない。


「ただ」


「ん?」


「わたしは彼のように愛想よく振る舞えませんし、ジェシカのようにかわいらしくできません」


「――」


 やだ、かわいい。


「大丈夫。アンにはアンのかわいらしさがある」


「あなたは年下の割に偉そうですね」


 しまった。ついアラフォーおばちゃんのノリで発言してしまった。


「失礼しました。あ、これ試食して」


 むっとした顔のアンに焼き菓子を出す。二時から四時くらいのおやつ時か、夜のデザートに出そうと試作していたクッキーとマフィンである。


「こ、こんなもので機嫌をとろうだなんて甘いですよ」


「でもおしいでしょ」


「はい、とてもおいしいです」


 素直かな。お土産にクッキーを包んで渡したところで、父親であるローリーさんに呼ばれてアンは厨房から出て行った。




 四日目以降もそんな感じで私だけでなくフィンやアダムスさんたちの知り合いが顔を出してくれて、最初の一週間は盛況で終えることができた。

 次の週からはぼちぼち客足は落ち着いたものの、ケニールの町に出入りする行商人やアダムス金物店のお客さんたちがついでに寄ってくれるようになった。

 客足が落ち着いたことで、私の方にも余裕ができて昼時を過ぎた頃や閉店前にはホールに顔を出せるようになる。


「ありがとうございました」


「お口にあいましたか?」


「またお越しください」


 そう言ってお客さんを見送るのが幸せだった。それに対してお世辞かもしれなくても


「ごちそうさまでした」


「おいしかったよ」


「またくるね」


 そんな返事がもらえると、それだけで頑張ろうと思えるのだ。涙もろい私は、一週間経ってもまだ泣きそうになるけど、その度にカイがタオルを持ってすっ飛んできてくれる。

 恵まれてるなと思って余計に泣けてしまうのは、中身がおばちゃんだからなんだろう。きっとそうだ。

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