ちょっと特別なもの
「ボクスティは星の日のランチ限定メニューにしようと思う。その代わりテイクアウトもできるようにする。どうかな」
「いいんじゃないかな」
ある朝、フィンに案を伝えると彼はいつものように穏やかに頷いた。
「フィンは割と何でもいいって言うよね」
「僕はそういうの思いつく方じゃないからね。やれそうならいいって言う。ダメそうなら改善案を考える」
「フィンさんはオトナですね」
横でテーブルを拭いていたカイがニコニコしながら言った。
「俺、そこまで考えてないです」
「これでも実家の経理担当だったからね。お金が許すならやる。足りないなら足る方法を考える」
大人だなあ。中身はアラフォーだけど、元の世界でもどちらかと言えば技術畑だった私はカイと一緒に感心してしまう。
頭から否定されないのはそれだけで安心して相談できるし、技術屋としても考える甲斐があるってものだ。
「じゃあ経理担当者さんにご納得いただける品をご用意します」
「よろしく。テイクアウトにするならラッピングやサイズ、量のことも考えてね」
「が、がんばりますう」
優しいだけでない経理担当者の言葉に苦笑いしつつ、私は厨房に向かった。
「ちいさいねえ、ぼくのせたけくらい」
「こっちはおおきいよ。ぼくのばいくらい」
開店準備をしつつボクスティ――ジャガイモのパンケーキの試作をしていると精霊たちが大きさを比べつつ、あれこれ言っている。
「テイクアウトは小さめにして片手で食べられる方がいいかなって。店内で出す分は大きくして上にハムとかチーズとか乗せて豪華にしようかと」
「おいしい?」
「もちろん。あーでも乗せるより添える方がいいかなあ。添えるんだったら、こっちも小さく焼いてあるほうが盛り付けやすいし食べやすい?」
「たのしそうだねえ」
「おもしろいこと、どんどんやって」
「ぼくらの、かてになるから」
好き勝手言う精霊たちを尻目にシチューをかき混ぜ、何種類か焼いているボクスティをひっくり返す。
ん? かて? ――糧?
「糧?」
「うん。せいれいは、ほかのいきものの、こうきしんをたべる」
「むしゃむしゃ、もしゃもしゃ」
「ぬしのわくわくとか、たのしいは、おいしい」
「このあいだの、うたもよかった」
「あたらしいものは、おいしい」
「なれたあじも、おいしい」
そういうものなのか。あ、だから前に荷物を運んでもらったときにお話してって言ってたのか。あの時は桃太郎かなにかを話したけど、精霊の知らない新しい話だからおいしかった? というか知らない話を聞いたフィンやカイの好奇心を食べた?
「よくわかんないなあ」
「うふふ」
精霊たちは笑顔であたりを飛び回っている。まあいいか。
温まったシチューを火から下ろし、今度はサラダを用意する。一緒にパンケーキも盛り付けて並べる。これは後でフィンに味見をしてもらおう。
昼のお客さんが落ち着いた頃に、フィンが休憩にやってくる。
「お約束の品です」
そう言ってサラダと一緒に盛り付けたボクスティを出すと、フィンは少し目を丸くしてから、ありがとうと受け取った。
「いろいろ乗ってておいしそうだ」
「うん。前にフィンがチーズやハムと食べるといいって言ってたから、いろいろ乗せてみた。で、いろんな具材と一緒に食べるなら小さいのを何枚か盛るのが食べやすいかと思うんだけど、どうかな。テイクアウトするのにも」
小さい方が直径十センチくらい。大きい方はその倍よりちょっと小さいくらい。
「そうだね、小さい方が食べやすいかな。これシチューと一緒に食べてもおいしいんだよ」
「そうかも。シチューとのセットも用意する?」
どうするのがいいかなあ。フィンは考えながらも、もしゃもしゃとボクスティを食べている。
「ランチのお客様、全員お帰りです。あ、フィンさんいいもの食べてる!」
「カイのもあるよ」
ホールの片付けを終えたらしいカイが厨房にやってきた。そして目ざとくフィンの前の皿を見て目を輝かせた。
「はい。カイのは大きい方」
「おっきい!」
「シチューもつけちゃう。アイリッシュシチューとギネスシチューとどっちがいい?」
「難しいですけど、うーん、えー、あー、アイリッシュ――いえ、ギネスシチューでお願いします」
はいはいとシチューを出すとカイは満面の笑みで手を合わせてから食べ始める。
「うまいです!」
「大きい方もボリュームがあっておいしそうに見るんだよなあ。うーん」
フィンはまだ出し方を悩んでいる。
「決まったら教えて。悩むんならもうちょっと試作もするし。私は夜用の仕込みをしてるから」
「うん。せっかくおいしいんだから、喜んでもらえる出し方を考えるよ」
頬を膨らましながら食べる二人を見て、私はもうひと頑張りすることにした。
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