ブレーキをかける
夜のメニューを考えたときに、本当は朝のこともちょっと考えていた。サンドイッチとサラダとか、そういう軽食をボックスに入れて売れないかなーって。でもやめた。だって、フィンとカイの顔色がやばい。
エールの取り扱いを始めて、メニューを考え直して、夜ごはんの時間帯も混むようになった。フィンとカイからお客さんの話を聞いたり、売れ行きをみて仕込みの量を調整をするようにしたから廃棄も減った。
というか、だ。ここひと月ちょっとやってみて気づいたのは、ケニールでは日本ほど厳密なメニューが求められていないということだ。
リゾットとかパスタの野菜やキノコが毎日違っても特になにも言われない。むしろ
「今日はニンジンが多くておいしかったなあ」
「今日はキノコがメインなのね」
「今日はトマトの方の具はなにかしら?」
なんて感じで、毎回違うことをお客さんの方が前提にしている気がする。
それをフィンに言うと、
「そもそもケニールにメニューって概念がなかったからね」
とあっさり言われた。
「その日その日で手に入ったものをイイ感じに料理して提供する。その日の内容によって料理も値段も変わる。僕らからすれば、食堂ってそういうものだ」
だから、今日はなにが食べられるのか確認するのが当たり前だと。決まったものが出てくる方が驚きなのだと言う。
そのおかげで私の方は割と気楽だとも言えた。サラダにしろ、夜のパスタとリゾット用のスープにしろ、なにが入っていてもいいのだ。豆が手に入ったらそれを入れる。大きなキャベツが手に入ったらしっかり焼いてサラダやスープにする。悪く言えば行き当たりばったりだけど、よく言えば柔軟なメニューを提供できる。
「うん。これは楽しいわ」
なにしろ私は外見はジェシカでも、中身はアラフォー母ちゃんなのである。その日あるものでささっと食事を提供するのは本分とも言えるのだ。
今まで培ってきたレパートリーをこれでもかと試せるのは楽しい。お客さんたちはおいしいって言ってくれて、それがなによりありがたい。
けど、困ったこともあった。
「姐さん、サラダを三つにサンドイッチを――」
「フライセットを二つ、それから――」
「あ、ご、ごめん。もう一回言って」
忙しいからか、私の気が抜けているのか。フィンとカイの声がうまく拾えないときがあった。
それに、精霊の声も小さい気がする。なんだろう。
それはよく考えたら当たり前のことなのに、忙しさと楽しさでハイになっていた私はすっかりすっぽ抜けていた。
人間、働いたら休まなくてはいけないのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます