廃国の君へ

――異世界【イリーシア】には数多の迷宮が眠っている。
　不死の宝玉、焔が噴き出す紅の鉱石、万病を癒す治癒の水。神秘の宝庫たる迷宮には人がかつて夢想した絵空が、形を持って存在している。得れば万金など端金。富と名声を余るほど手に入れる事が出来る。
　だが幻想と夢を纏う迷宮は同時に死と恐怖をも孕んでいた。山をも越す巨人に不定形の獣、極寒の精霊と生き血を啜る吸血鬼。人知を超えた怪物達が迷宮に秘める宝物を守護しているのだ。
　だからこそ、人々は彼等を讃えるのだ。強大なる怪物を討ち倒し、奥に眠る秘宝を得ようとする者等を讃えるのだ。

———人々は尊敬と畏怖の念を込めて、彼等を冒険者と呼んだ。

　これはそんな冒険者に憧れる少年が未開の迷宮に落ちたお話。