第9話 久しぶりのドライブ

 威が高校1年の夏休み。

その日は久しぶりに兄の智也と美樹、そして威の3人で遊びに行くことになっていた。

あの日以来美樹が威に話しかける時、実の弟に話している様な感じがしその事に距離感を覚える自分に戸惑っていた。

美樹から一緒に行こうと誘われ、戸惑いながらも断ることが出来無かった。

兄のスポーツタイプ車でレジャー施設に向かっていた。

智也は通学にも車を使っていて、中学生の頃から高校2年生になるまでレーシングカートにハマっていた時期も有り運転は上手かった。

カートの練習には威もたまに同行したが、ラップタイムで智也に勝てたことは無かった。

智也は複数の部活をしていたため、それほど頻繁には練習コースに来ることは出来無かったが、それでも送り迎えをしてくれる友人の父親でカートショップの店長から、月毎のレースに参戦すれば1回は優勝出来るかもと言われていた程だ。

カートを辞めたのは美樹を気遣ったためだ。

初めて智也が参戦したレースで終盤に事故が起きた。

上位を競っていた智也は巻き込まれることは無かったが、中位グループの1台がコーナーで他車と接触しコースアウトした。

それを避けようとした後続車の後輪にその後ろの車両の前輪が接触し、車両が浮き上がりバランスを崩し横転した。

横転したドライバーは意識は有るものの、大怪我をしたようだ。

レースはイエローフラッグのまま周回を終えゴールとなった。

智也の応援に来ていた美樹はその事故と大怪我をしたドライバーを目の前で見てショックを受けたようだった。

戻って来た智也の両腕を掴み、その場で泣き崩れてしまった。

3位入賞をした智也だったが表彰式には出ず、店長の知人の車で美樹と威の3人とも帰宅をした。

店長は息子が優勝した事とレース後の処理もあり途中で抜けられない為、知人に3人を送るよう手配してくれた。

帰宅する車中、智也の隣に座る美樹は智也の手を握ったまま少し震えていた。

大怪我をしたドライバーと智也を重ねてしまったようだ。

それ以降智也はレーシングカートの練習に行かなくなった。

美樹が運転免許を取得しないのはその事も理由の一つだったのだろう。

父親の運転する車よりも智也の運転する車の方が安心していられると、美樹が父親である四宮一樹(しのみやかずき)に言ったとかで智也が一樹に髪の毛をくしゃくしゃにされたことがあったようだ。

家族ぐるみの付き合いで、親公認の二人であるが故のエピソードだろう。

実のところ、今でもコンバーチブル車を見ると緊張する美樹の手を智也は優しく握る。

そして美樹が同乗する時は、決して窓を開けて運転しない。


 市街地を抜け、高速道路に入っていた。

盆休み明け平日のためかそれほど混んでいない。

威は友人から大学の夏休みは長いと聞いていたが、医学生にとってはほぼ無いと言って良いようだ。

盆休み明けに何とか二人合わせて取れた休みだった。

当然二人で過ごすと思っていたところ美樹から誘われ、智也からも誘われ半ば強制的に同行することとなった威だった。

三人の時、威は美樹の後ろに座る。

美樹が智也だけに見せる顔があると気付いてしまった。

そんな表情を見たくない自分がいた。


 威に何かを隠している二人に薄々気がついてはいたが、それが何かは判らずにいた。

流れる風景がに緑色が増えてきていた。

美樹が聞いていたiPodのワイヤレスイヤフォンの左側を外し、智也の左耳に入れる。

二人して顔を見合わせ微笑んでいる。

走行車線を走っている智也達の車両を追い越し車線側からやや早めの速度で1台追い越して行く。

その後ろをトラックが引き続き追い越して行く。

緩やかな下りカーブにさしかかった。

それは突然の出来事だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る