第5話 蠢動

 入学後、クラスの女子に同じ中学校の出身者はいなかった。

黒板に席と名が書かれた紙が貼ってある。

まあ、これからゆっくりと相手を知り、気の合いそうな子と友達になれれば良いかと紙に書かれた名前と顔を一致させるよう周囲を見渡していると、いきなり男子から声を掛けられた。

「俺、山本直人。君は」

「柊麻耶です」

礼儀として答えただけのつもりだったが

「俺たち付き合わない?」

と言われ何を言っているのかすぐに理解出来なかった。

ぱっと見、よさげな顔立ちで女子からも人気のありそうな男子だった。

ただそれだけだ。

惹かれる様な何かは感じられなかった。

初見でいきなりそのような事を言う思考に嫌悪さえ覚える。

「ごめんなさい」

それ以上の言葉を口にするのも不快だ。

「え、何で?」

返答を理解出来ないのかと思わせる程その後も自画自賛とも言えるアピールをし、執拗に言い寄ってくるが無視をする。

周囲の皆もあきれていると思ったが、そうでは無く面白がっているようだ。

担任の教師が入室するとやっと自分の席に戻ってくれた。

初日は授業はなく、出席の確認を兼ねた紹介と教科書の確認やら施設の案内、説明等で終わりだ。

部活動を推奨しており、見学の時間も与えられた。

その時間山本直人がつきまとってきた。

サッカー部の自主練に来ているだろう兄の航に助け船を求めようと練習場に向かう。

「航兄い」

声を掛けると航は麻耶の方に顔を向け、部員に指示をすると麻耶の所に来てくれた。

「どうした、サッカー部のマネージャーはやらないって言ってたろう」

部活動の見学だと判っている航が言う。

ちらっと山本を見

「うん、ちょっとね」

と言うと察して航が山本に

「君はサッカー部入部希望?」

と尋ねる。

「何だ、もう男いるのかよ」

そう言うと舌打ちをして去って行く。

「ありがと、助かり。しつこくて。今日は由美さんは?」

「入部届を取りに行っているかな」

少し困惑とも動揺ともとれるリアクションだ。

「残念、会えるかなって思ったのにな。まだ見学したいところがあるから」

ほっとしたかのように

「ああ、決まったら教えろよ」

そう言うと部員のところに走って戻る。

少し違和感があったがこれ以上時間を無駄にしたくない為、当初より決めていた部活動を見学しに向かう。

バトン部の練習や先輩方の様子に興味は深まるが、入部届は後日にする事とした。

数日後バトン部に入部届を出し、練習に参加を始めた。

気の合いそうな同学年の女子と雑談をするようにもなった。

ある日教室に入ると視線が麻耶に集まる。

それが好意的なものとは様子が違う。

訳が判らず席に着くと、机の上に畳まれたメモが於いてあり”ブラコン”と書いてあった。

程度の低い嫌がらせだ。

犯人の見当もすぐに付く。

美穗がいれば上手く導いてくれたのだろうが、残念ながら高校は別になってしまった。

騒がず無視すれば問題ないと思い込んでしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る