第6話 孤立

 その後嫌がらせはあのメモ以外無かった。

無視して正解であったと思っていたがどうも違ったらしい。

クラスで一人同じバトン部に入部しており、たまに話をする子が声を掛けても無視をする。

他の子と話をしており、タイミングが悪かったのかなと数度は思っていたが何か変だ。

特に仲が良い訳でも無かったため、まあ良いかと半ばあきれていたが部活でも周囲の対応に変化が出ている。

リーダーがそれに気づき他の部員と話をしている様だ。

数日後、練習中にリーダーから話があると部室に呼ばれた。

「柊さん。その、言いにくいのだけれど、あなたお兄さんと兄妹以上の関係と」

「違います!兄妹仲が良いことは事実ですがそれ以上の関係って絶対ありません。兄の為にも否定します」

「そのお兄さんの彼女に嫌がらせをしていると陰口も。でもそれは由美の口から、ああ、由美とは友人だから直接確認して事実ではないことは知っているけど、心当たりはある?」

部長と由美の方から問題が解決することを願い心当たりがあると告げる。

それなら担任の教師に相談しなさいとアドバイスを受け、そのようにした。

だが担任の教師は

「お前がそう思っているだけじゃ無いのか」

と、面倒くさがり取り合ってくれない。

それが逆に相手側をヒートアップさせたようだ。

兄妹がラブホテルに入るところを見たとか、事実無根の噂を流されたようだ。

小中学校は同じ学区のため、周囲の者たちは幼い頃から二人を見ているから仲の良い兄妹と言う認識でいてくれていた。

しかし高校ともなれば違う街から通う子も多い。

良からぬ噂は尾ひれを付け広まってしまった。

当然そうなれば兄、航の耳にも入る。

夕食後、航から

「麻耶、大丈夫か?とんでもない事になっているな」

一番知られたくない兄から言われ、ショックを隠せない麻耶。

「ごめん、航兄いが同じ高校へ進学するの渋っていたのはこうなることが心配だったのよね」

それから航は由美と麻耶を会わせたがらなかった理由も話し始めた。

航が言うには転校してきた由美が自分たちを見た時、付き合っているカップルと思ったらしい。

しばらくして周囲の話から良すぎる位仲の良い兄妹と知り、同じ高校に入学しサッカー部員とマネジャー言うこともあって話をするようになり、付き合い始めしばらくしてその事を打ち明けたそうだ。

初めて周囲からはそう見られていたと気付いた航は麻耶と少し距離を置くように努めたとのこと。

自分と同じように高校に通うようになれば麻耶にも彼氏が出来るだろうと思っていて、麻耶に気付かれない様していたが予想外の形で火の手が上がった。

これまでどんな事も話してくれていた航がそうで無くなった事、由美とは共有していたことに少しだが不愉快に思った。

いじめにあって精神が不安定になっていたことも有ったのだろう。

自分に隠し事をしていたという気持ちが思考を鈍くさせる。

「どうして話してくれなかったの!」

そう叫ぶ自分自身に動揺し外に飛び出す麻耶。

道路に飛び出した麻耶を照らす明かりが急速に近づく。

「麻耶!」

航の声と共に手を引っ張られ、体が反転する。

反動で玄関に倒れ込む麻耶。

同時にドンという鈍い音。

近づいてきた時より急速に遠ざかるエンジン音。

緩いカーブに消えゆくテールランプのわずかな明かりが倒れている航のシルエットを揺らした。

「…いや!航兄い」

異様な音と麻耶の叫び声に近所の人達がやってくる。

「航!」

母親が横たわり動かない航に駆け寄る。

「だ、誰か救急車を!航、航!あああああ」

泣き叫ぶ母と横たわったまま動かない航を呆然と見ている麻耶。

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