第7話 閉じた心

 航の葬儀を執り行う柊家の親族。

麻耶は鈍くなった思考のまま流されている様に、ただそこに存在していた。

参列者の顔もお悔やみの言葉も何一つ入って来ない。

時間の経過が麻耶の感情を少しずつ薄め流れて行く。

葬儀が終わっても、ひと月程家に閉じこもる麻耶。

「麻耶、そろそろ学校に行かなきゃ」

女手一つで育ててきた息子を亡くし、焦燥しきった母が麻耶に言う。

「…………」

ベッドに横たわったままの麻耶。

「お願い、あなたを見ていると航が…ごめんなさい。学校には行ってね、あなたのためにも」

兄同様に愛情を込め育ててくれた認識はあるのだが、ドアを閉める母の目に胸の奥を刺すような圧がある様に思えてしまう。

事故の因果が例の噂に有る事を知り、原因は麻耶にあると思っているのかもしれない。

無言で制服に着替える麻耶。


 登校は午後からになってしまった。

教室に入ると麻耶に視線が集まる。

グループの一つに目を向けると相手は慌てて眼をそらす。

航の亡くなった状況が知れ渡っているらしかった。

自分たちは何もしていない、一人の人間の死になど関わっていない、今回の一連の事など無関係だと。

そんな周囲の者などどうでも良い、兄の遺影の有る家に居たくない。

ただそれだけだ。

数人、謝罪の気持ちがあるのか話しかけてくるが、無視をして教科書から眼を話さない。

そんな事がしばらく有ったが、そのうち麻耶に構うものは誰もいなくなった。

その方が居心地が良いとさえ感じる。

それからの麻耶はただ流れ作業の様に授業を受け、わざと時間を掛けて家に帰り、食事を摂り風呂に入って寝るだけの生活となった。

働いている母親との接点も少なくなっていた。

登校するようになり数日後、校門の所で綺麗な顔立ちの女生徒が麻耶を待っていた。

「麻耶さんね。これ、借りたままになっていたから」

それだけを言うと、黒色のWALKMANを渡し走って校内に戻る。

(なんか眼、赤かったな…ああ、あの人が由美さんなんだ。会うの初めてか…葬儀に来てたっけ?航兄いが言ってた通り美人だな。もっと早く紹介………)

黒色のWALKMANを胸の前で両手で握りしめ、こみ上げてくる感情を抑え込む。

家に帰った摩耶は、イヤフォンを渡されたiPodに差し電源を入れる。

再生ボタンを押し流れてくる曲を聴いた。

曲名を見るとBACK NUMBERの”思い出せなくなるその日まで”だった。

涙があふれ出す。

そのまま眼をつむり、リピートがかかっているその歌を何度も聴く。

由美もこの曲を聴いていたのだろうか。

そう考えると、ほんの少しだけ心が軽くなったような気がした。

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