第8話 兄と姉
威には五つ離れた智也(ともや)という兄がいた。
年が離れていたためか、とても可愛がってくれた。
近所に智也と同い年の美樹(みき)という少女と三人でいつも遊んでいた。
お互いの親が医者で親友同士でも有り、駅前の祖父が残してくれた土地に病院を建て、もう一人の友人とその知人と共にそれぞれ違う科の代表医師として開業していた。
内科、耳鼻科、眼科、歯科が有り一つの建物で複数の科にかかれることも有り、患者も多く経営は順調であった。
よくある話だが、親友同士お互いの子供の性別が違ったため、許嫁にしようとアルコールが入る度そんな話で盛り上がっていたそうだ。
智也も美樹も、ルックスは近所で評判になる程の美男美女で、性格も良くお互い惹かれ合っていたことを両親ともに気づいていたのだろう。
スポーツも万能で、二人とも複数の部に半ば強制的に登録されていた。
高校1年の時から3年間、ベストカップルに毎回選ばれる程、周囲からも羨望の眼差しを向けられていた。
同じ医大に進学し、将来の幸せな人生を約束されていると誰もが信じていた。
美樹は智也の家に遊びに来ていた。
ノックをして部屋に入ると智也はブルーのiPodを操作している。
「智也、何聞いてるの?」
美樹が智也に尋ねる。
「RAD WIMPS。聞いた事あるよね」
「映画やドラマの曲以外あまり聞いた事無いな」
「美樹が良く聞くのはONE OK ROCだっけ。ボーカルのTAKAさんとRADの洋次郎さんが仲が良いみたいでコラボした曲もあるよ」
「そうなんだ、じゃあ今度これにRAD WIMPS入れておいて」
智也にピンクのiPodを渡す美樹。
医者になる為医大に通う二人はスマートフォンに傾倒することを避けていた。
そのため気分転換等に気軽に利用出来る端末を欲していた。
昨年のクリスマス、お互いに購入しプレゼントとして交換した同機種のものだ。
「MACでMP4に編集したファイルがあるからすぐ出来るよ。無料サイトからダウンロードしたから音質が良くないものもあるけど、良い?」
美樹のiPodに曲を入れるのはいつも智也がしている。
「智也と同じものならそれで良いわ」
智也はMAC PCを立ち上げると15分程度で作業を終わらせ、ベッドに座っている美樹の隣に自分も座りiPodを渡す。
すぐに再生して聞き始める美樹。
「音質、悪くないよ」
そう言って片方のワイヤレスイヤフォンを智也の耳に付ける美樹。
自分の耳にある美樹の手に上から手を添える智也。
その手を美樹の腕を滑らすように背中まで回し引き寄せ、キスをする。
そのままベッドに横たわり上になった智也はキスを唇から美樹の首筋に移す。
両腕で智也を背中から包み込む様に優しく抱擁する美樹。
玄関ドアを解錠し、そういえば母さん今日から友人と旅行に行ってたっけと思い出す威。
玄関に女性の靴がきちんと揃えて置いてある。
兄の靴もある。
家デートなんて最近珍しいなと思いつつ自分の部屋のある2階へと階段を上りかけて途中で立ち止まる。
数秒立ち止まり踵を返して階段を降り、玄関のドアを静かに閉じ鍵を掛ける。
兄の部屋の窓を一瞬だけ見上げ、門から出て行く。
鞄からスマフォを取り出し中学時代からの友人で、高校が別になっても付き合いのある由起也に折り電を掛ける。
「あ、由起也。やっぱ俺も行くわ。いつものファミレス?ああ、15分位で行ける」
電話の向こうでさっきは来れないって言ってたじゃんと声が聞こえる。
電話を切り、スマフォは手に持ったまま自分の中にこみ上げてくる感情をかみ砕くように一歩一歩進む。
(兄貴なら美樹姉えを悲しませることは絶対無いよ)
以前、美樹に声に出して言おうとし辞めた言葉を自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます