第10話 事故

 それは突然の出来事だった。

緩やかなカーブであったが右カーブのため、隣の追い越し車線で智也達の車を追い越し走るトラックの荷台が前方を見づらくした。

智也達の前を走る車両の後部窓ガラスが太陽光を反射し、少しまぶしさを感じた瞬間追い越し車線を走行していたトラックが智也達の目の前の走行車線に割り込み、急ブレーキを掛けた。

時速85kmで走行していた車両は、いくら智也の反応が早くともぶつかること無く停車することは物理的に不可能だった。

追い越し車線には後続車がいたため、回避を試み急ブレーキと共に美樹を守るよう路肩側にステアリングを切る。

相手がトラックである事と智也の車両が車高の低いスポーツタイプなのが災いした。

後続車にも追突されトラックの荷台の下に潜り込む形で衝突する。

衝突のショックで美樹の手に持っていたiPodが威に向かって飛んでくる。

その後威は目の前が真っ暗になりそこで記憶は途絶えた。


 目が覚めると病院のベットだった。

起き上がろうとしたが全く動かせない。

同時に体のあちこちに激痛が走る。

「ああ、先生。患者が…」

やってきた医師は威の眼に弱めのライト光を当て反応を見、確認するように尋ねる。

「私の声は聞こえますか」

ハイと答えようとすると胸がひどく痛む。

それでも声にはなったようだ。

察したように医師は

「質問に対し、イエスなら瞬きをしてくれますか」

と言われ、威は瞬きをする。

「自分が誰だか判りますか。名前は言えますか」

瞬きで答える。

「脳の方は大丈夫のようだな。痛み止めを少しだけ増量します。眠くなるようでしたら眠って下さい」

数分で眠りにつく威。

次に目覚めた時、全身に違和感を覚える。

「威」

父親である幸嗣(こうじ)の声がする。

「威ちゃん」

母親真由美の声もする。

だが声のする方向に顔を向けることが出来無い。

手足の感覚は有り指を動かすことは出来るが、他の部位を動かそうとすると痛みがある。

「無理に動くな。全身打撲と複数箇所骨折している…安静していろ」

医者らしい口調で幸嗣が言う。

痛み止めの所為か思考がはっきりしない。

すぐに眠気がして再び眠りにつく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る