第11話 二つの遺影

 目覚めてからほぼ全身の痛みに耐え、三週目が過ぎた。

内臓に損傷が無かったため、何とか動かせる右手で経口食が取れるようになった。

といっても流動食だが点滴より体力回復が良いように感じる。

ひと月半も経つと食事も通常食になっており体を動かしたいという衝動に駆られる。

ギプスを外された手足は見て判る程細くなっていた。

自分の体では無いような、思う様に動かない現実にショックを受ける。

床ずれもひどかったがベッドの上で強ばった筋肉、関節を徐々に動かして行く。

リハビリ療法士がマッサージをしてくれてはいるが、未だに一人ではベットから起き上がれ無い。

自分自身の現状を理解した威は、時々様子を見に来る母に智也と美樹のこと尋ねるが答えてくれなかった。

その事を尋ねると花の水を換えてくるとか、飲み物を買ってくると言って病室から出て行ってしまう。

その後ろ姿に感じるものは有ったが、それ以上追求は出来無かった。

智也と美樹の死を知らされたのは、リハビリが始まる少し前だった。

精神的な負担を与えたくないとの配慮のつもりだったようだが薄々感じてはいた。

事実を両親の口から聞かされると、自分一人生き残ってしまったというショックは小さくは無かった。

リハビリは結構きつく、他のことを考えずに済む。

智也と美樹の死というショックも現実を受け止めなければと変わってきた。

通常のリハビリに移行するのにさらに一ヶ月程要した。

退院してもしばらくリハビリの為通院することになるらしい。


 退院し自宅に帰ると智也の遺影があった。

美樹の遺影が並べて有るのを見ると又涙が溢れだしてしまう。

葬儀は二人合同で行われたらしい。

その時威は病院のベッドで、まだ目覚めてはいない為後で聞いた話だ。

ピンクのiPodが添えられてあった。

それを手に取り自室のベッドの上で電源を入れる。

イヤフォンを差し再生ボタンを押す。

RAD WIMPSの”Tummy”が流れている。

あの時二人が聴いていた曲だ。

そんな未来を二人は共有していたのだろう。

美樹の名字は遠くない未来、妹尾になっていた。

誰に聞かずともそう思えた。

出来る事なら死を入れ替えたい、それでも構わない。

その方が良かったとピンクのiPodを強く握りしめた。


 リハビリの為の通院は毎日している。

ピンクのiPodは威が使っている。

ピンクのiPodで曲を聴いていると兄と美樹、二人と会話をしているような気分になる。

それを使い続ける事が生き残ってしまった自分の生きていても良い理由に思えた。

複数のアーチストの曲が入っていたが、RAD WIMPSだけを聞いていた。

美樹が全曲聴いていないかもしれない。

代わりに自分が聞くのだと決めていた。

通院時には必ず聞いている。

それが習慣というか義務というかあるいは責務か、そうしなければ前に進むことが出来無いと言う思いに囚われていた。

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