第12話 BOY MEETS GIRL

 リハビリの帰りに地下鉄のホームでぶつかった少女がなぜだか気になる威だった。

整った顔立ちの美少女であったがどこか自分と同じ匂いを感じていた。

心のどこかを欠いてしまった人間にしか感じ取れない”匂い”

又会うことは多分無いだろうが会えたらどうしたいのか、何故そう思うのかも不思議と違和感が無い。

彼女の事を考える時間は威の世界線を変えてくれるような感覚があった。

「又会えるかな」

思わず出した声に少々驚く威だった。


 新学期から再び2年生として高校に通えるまで回復した威。

新しいクラスメートの中にあの少女がいた。

合い言葉のようなやりとり一言しかしていないが、彼女の方も自分を覚えていてくれたことになぜだか安心した。

何を期待しているのだろうと自問して見たが拒否反応しているかのようにそこで思考は止まる。

帰り際山下という女生徒に声を掛けられ、柊麻耶のことを知る。

あの”匂い”のことが少し判った。

先程まであった拒否反応は薄まりもう少し柊麻耶について知りたいという衝動に心が揺すぶられる。

経験したことの無い感覚を覚えながらピンクのiPodを鞄から取り出し見つめた。


 授業が終わるとすぐに帰宅する麻耶。

麻耶は威が気になり始めていた。

地下鉄のホームで出会った時に見せた妹尾威という少年の表情が今朝朝礼での雰囲気とリンクしていた。

あの鏡に映る自分を見ているかのような感覚。

WALKMANをBACK NUMBERの”水平線”を選曲し再生する。

聞きながら何故涙が流れるのか、自分の心に問いかけてみるが自分の中の何かが拒否する。

「航兄い、わかんないよ」

そう呟くとしばらく下を向いたまま歩いて行く。

バス停に着く頃には涙は止まっていた。

ほぼ時刻表通りに到着したバスに乗り椅子に座って窓から外を眺める麻耶。

窓ガラスに映る自分の顔を見ながら妹尾威の表情を思い出す。

威にあの表情をさせる理由を知りたいなと考えたがすぐに頭を左右に振り自分には関わりの無い人だと自身に言い聞かせる。

それでも明日、彼は声を掛けてくれるのかなと期待している自分がいる。

鞄から黒色のWALKMANを取り出しBACK NUMBERの”僕の名前を”を選曲する。

何故その曲を選んだのか、思考はせずただ聞いていた。

曲が終わると再生を止め、窓の外の流れて行く風景を見ていた。

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