第17話 乱闘

 由起也は中学校時代からの友人だ。

体型はスマートだが締まった体つきをしている。

切れ長の眼は少し威嚇しているような印象を受けるが、威張り散らすことは無い。

積極的に交友を図るより、来る者は拒まず去る者は追わずと言った感じだ。

最も醸し出す端厳な雰囲気の為、友人になろうと彼に話しかける生徒は見たことがない。

威も積極的に友人を作る気は無い。

放課後は習い事の為授業後はすぐに帰宅する事が殆どで、同じくすぐ帰宅する由起也との接点は無かった。

そんな由起也と気の置けない仲になったのは威が武道の練習後、帰宅する時偶然その場所に居合わせたからだったろう。

何やら見るからに素行の良く無さそうな連中が、見るからにおとなしそうな威と同年代の三人を取り囲んで声を荒げている。

どうやらそのおとなしそうな三人に、ガラの良くない連中が因縁を付けているようだった。

傍観している者もおり道幅の大部分を塞ぐ形になっているため、大抵の通行人は関わらないよう迂回したりそそくさとその脇を抜けていったりしていた。

威はあまり気持ちの良い状況で無いと感じていた。

武道の段持ちである威は警察にもその情報が登録されている。

近しいい人を守る時や、正当防衛以外の暴力沙汰は避けたい。

他人に関わることをしない自分が何故この状況を気にするのか不思議だった。

その事が足を止めたのかもしれない。

その時見覚えのある顔がその集団の中に入って行く。

「どうしたの?」

神崎由起也がおとなしそうな子達に問いかける。

「ああ?こいつらが俺たちにぶつかって来たんだよ。そんでこいつがこけてついた手を怪我したんだよ!」

ガラの悪い中の一人が言う。

すかさずおとなしそうな子が

「違います。僕らは避けようと道の端っこに行ったのに彼らが」

「ああん!俺が嘘言ったってのか」

被せるように先程の漢が言う。

それ以上状況を聞くまでも無くおとなしそうな彼らに因縁を付けどうにかするつもりなのは明白だ。

「それじゃ君たち彼らにごめんなさいして家に帰りな」

由起也がおとなしそうな子の頭を押しお辞儀をさせる。

そして押し駅の方へと背中を押す。

「何処行くんだ!」

逃げるように早足で歩き出す子の腕を掴もうとするその手を由起也が素早く掴む。

そのまま相手の肘を下にし腕を下げると相手はあうっと声を漏らし膝を地面につける。

「何しやがる」

ガラの悪そうな連中の一人が由起也に殴りかかる。

由起也は少し体を斜め前方にずらすと同時に相手に拳を押し当てる。

威にはただ押し当てたように見えたが推し当てられた相手はうめきながら地面に倒れ込む。

それが合図のようにガラの悪い連中七人が、この野郎!とかてめぇ!とかお決まりの言葉を発し由起也に向かって行く。

気がつくと威も由起也の方へ走っていた。

由起也の近場に居たガラの悪い連中三人の内、由起也の右側に居た一人のみぞおちにその勢いのまま前蹴りを押し出す。

蹴られた相手は腹を抱えて地面に倒れ込む。

「おっ、妹尾」

顔も向けず眼の端で認識したのかそう言うと向かってきた近場の残り二人の内一人に殴りかかってきた手を逸らしながら自分の体を押し当てると、相手は二人ともその勢いで派手に転ぶ。

すかさず由起也と威が転んだ男の顎を蹴りつける。

「やるじゃん、妹尾」

息の合ったコンビの様な連携に微笑んだ顔をちらっと威に向ける。

「サイドチェンジだ」

そう言うとすぐさま残った四人に向かってゆっくりと体を動かす由起也。

頷くと威もそれに合わせて動き出す。

その後の由起也の動きには威も驚いた。

複数相手の攻撃をわずかな動きで一対一になるよう絶えずコントロールし、急所への一撃であっという間に三人を悶絶させた。

由起也が二人目を倒すところで一人倒した威は由起也の動きを見ていた。

「ありがとな、妹尾。お前ここに居るとまずいだろ」

息も切らすこと無く何事も無かった様な顔で由起也が言う。

そう言われ自分が乱闘に参加していた事に気づいた様に苦笑いをし、軽く左手を上げ無言で駅に向かう威。

その背をしばらく見つめた由起也は倒れた八人の内、リーダーっぽい男の傍らでしゃがみ込む。

そして何か呟くとつい先程とは打って変わった、屈託の無い笑顔を見せた。

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