第16話 悪友(しんゆう)
図書館を退館後、その日は少し遅くなってしまったため威は麻耶を送ることにした。
美樹以外の女性とこれ程長時間過ごした経験が無く、少し照れくさくも有りどのような会話をすれば良いか戸惑っていた。
明日からのことも考えなければいけない。
以前美樹に言われたことを思い出す。
「彼らが間違っていてあなたが正しいと判断出来るのは何かと比較しているからでしょ。その比較するものは多い方が良いよね。…多様性は必要よ、正義なんて100人いたら100通り有る。それを否定する事はどうかな?コミュニティ独自の正義では無いけど規律があったからこそ色々な時代に様々な文明、文化が発達したのでは無いかしら。その事を理解して許容する事も大事だわ。その中で流されずいることも、もちろん大事よ」
智也が威に落としどころを促す。
「思考を狭めたら”知る”楽しみも少なくなるだろう。そんな人生、面白くも無いとは思わないか?多様性を享受する、そう言う感覚、思考を持てって言うことだ」
美樹と智也の思考、感性はほぼ共有されているのだろう。
それ故反発してしまったのだがそれも二人の想定内のことだったとも理解していた。
だが今回のことはあの時とは違いすぎる。
気の合わない子供同士の諍いでは無いのだ。
山本達は留まるべき一線からはみ出した。
それに何かおぞましささえ感じる。
突然声を掛けられる。
「おい、退院したなら俺んとこ挨拶に来いよ」
端厳な雰囲気を纏った男が近づいてくる。
麻耶がさっと威の後ろに隠れる。
「悪い、色々あってさ。ああ、見舞いに来てくれてありがとな。えっと、こいつ神崎由起也。由起也、彼女柊麻耶さん。由起也こんな見た目だが良いやつなんだ」
すかさず由起也が言う。
「こんな見た目って何だよ。優しそうな顔してるでしょ?麻耶さん」
それには答えず曖昧な笑顔で答える麻耶。
そんな麻耶をフォローするように威が
「まあお前の周りにいる方々の中ではそうかもな。俺はお前のこと、漢として良い顔してると思うよ」
神崎由起也は威がヤンチャするきっかけとなった友人だ。
由起也の父親は警備会社を経営している。
父親とは一回りほど年下の母親との間に出来た一人息子だ。
父親の経営している警備会社は少し特殊だ。
外国の要人護衛の窓口もしており、むしろそちらの方がメインのようだ。
社員は元傭兵が多い。
父親自身も元傭兵でチームリーダーをしていたらしい。
メンバーの数人が結婚や子供が出来たことをきっかけに傭兵を辞めることにしたのだが、その後の就職先が少なかったりろくでもなかったりしたことと、傭兵をしていた頃の逆恨み等で家族が危険な状況にあると相談されたことをきっかけに、日本で彼らの受け皿を設立するため戻った時に、老舗任侠組織の娘で女子高生であった母親がさらわれそうになった現場に居合わせ阻止した時に一目惚れされ、母親からの猛烈アタックで彼女が高校卒業後結婚したとのことだ。
彼女は結婚後も有名大学に通い卒業している。
警備会社の経営は彼女が主軸となっている。
拠点を父親の母国である日本にしたのは、元メンバーとその家族が世界一安全に暮らせるのが日本と判断したらしい。
そんな環境で育った由起也は子供の頃から”色々と学んできた”らしい。
身についた格闘技は実戦向きだった。
威が由起也と知り合ったきっかけも由起也の正義感から起きた乱闘に巻き込まれた事だった。
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