第15話 二人の時は優しく重なる
麻耶の返事に確認をするように言う威。
「もし君が僕を巻き込んだと思っているならそれは違うよ。ああいったやつが大嫌いだからだよ」
威の気遣いが嬉しい麻耶、確かにそれも思ったから。
「ありがとう、あなたは私を友人と言ってくれた。友達のことを知りたいのは自然な気持ちよ」
威はやはり麻耶が聡明な女性だと感じた。
その一言で自分の事を話しやすくなった。
威は麻耶に自分には5歳離れた兄がいたこと、その兄と同い年で幼なじみの美樹という姉の様な存在がいたこと。
その二人が近い将来結婚するはずだったこと、そうなる前に事故で亡くなり同乗していた自分だけが助かったことを話した。
話を聞いた麻耶は威の話のニュアンスから、きっと美樹に憧れ以上の感情を持っていたのだろうと感じた。
その事が威の背負ってしまったものと関連しているのだろうとも。
威自身、具体的にそれが何か把握出来ていないのかもしれない。
漠然とした気持ち、それ故に重いものになってしまったのか。
威の事を聞いたあと、こみ上げる思いと共に麻耶も威に噂だけではわかり得ない自身の事を話す。
「こんな事、誰かに話せるなんて」
「ああ、少し気持ちが楽になった気がするよ」
少し間を置いて威が言う
「しばらく通学は待ち合わせてしよう、帰宅も。陰湿な嫌がらせは無視すれば良いけど、君が一人の時に何かされる懸念もある。二人ならそれなりの対応が出来るだろう」
山本達のこれからの出方を見て対応を検討した方が良いだろうと判断した。
ただし後手に回ることは避けたいが。
「そうね。…あの、iPodであなたの聞いている曲、私のWALKMANに入れること出来る?」
何故そう思ったのかは判らないが威と離れていても繋がる何かが欲しかった。
「RAD WIMPSだけど、MP4のファイルがあるから出来ると思う。僕も君の聴いている曲、BACK NUMBERだっけ。iPodに入れようかな」
威も自分と同じ気持ちなのかな、そうだと良いなと思う麻耶だった。
「それなら明日、家に来る?データとソフトを今日中に準備しておくから」
言ってすぐに
「あっ、邪な考えはしていないから。でもあいつらに都合の良い話題を与えてしまうかな?」
「事実無根な噂を立てられることは想定内。そうでしょ」
抗う事を決めた女性は強いなと再び美樹と重ね合わせる威。
不意に麻耶が
「そういえばここのシステム、知っていた?私は年会員だけど」
「僕もそうだから知ってるよ。良いシステムだよね」
ICTを導入したシステムだが、図書館の入り口でICチップ入りの会員証又は入館証をゲートに当て入館する。
受付まで通路になっており受付でもう一度装置に当てるとその隣にあるBOXが開く。
そこには携帯端末が充電出来るようになっており電波も遮断される。
携帯端末を持っていない場合は伝えなければならないが殆どの人が充電する。
BOXの扉を閉じ、開かないことを確認し書庫に行く。
退館時BOXに有る装置にICチップを当てると自分の携帯端末を入れたBOXが開くため取り出してBOXの扉を閉じる。
BOX内の携帯端末を取り忘れて退館しようとするとゲートが閉じアナウンスが流れるから忘れることも無い。
貸し出しを希望する場合は本と会員証を書庫に数台有る端末に当てるだけだ。
貸出期日の2日と前日に会員登録時一緒に登録したメールアドレスに案内が届く。
メールアドレスも3つまで登録出来る。
端末でスキャンせずに持ち出そうとすると出口ゲートが閉じアラームが鳴り警備員に確認を求められる。
返却は受付の司書に渡せば処理をしてくれる。
貸し出し中で希望する本が無い場合、返却されるとやはりメールで案内が届く。
管轄が同じ別の場所の図書館にしか無い蔵書は取り寄せてくれ、入庫時メールで案内が届く。
利便性の高さから利用者も結構いる。
公共性の高いシステムの設計者も良いなと将来の選択肢に入れていた威には興味深い。
麻耶は司書になることも有りかなと考えているらしくその事を話してくれた。
目的や興味が違っていても同じものに話題が重なるのは面白いなと、他愛ない会話に時が溶け込む感覚が威には新鮮だった。
それは麻耶にとっても楽しいものだった。
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