第33話 魔人の国への帰還
森の主と別れた舞達は、アクアにドラゴンの姿になってもらい背中に乗った。
そしてこの暗い森を回転しながら上昇し、上の世界に戻ったのだ。
アルはブロムを支えながらアクアに続き、二人は自らの翼で飛び立ったのだ。
黒翼国の城の前に到着すると、私は辺りを見回したのだ。
そこは森に行く前のような、嫌な雰囲気は消え去っていた。
ブロムとアルを先頭に城に入ると、中にいた兵士が駆け寄って来たのだ。
「ブロム様、アル様、ご無事で何よりです。
お待ちしておりました。」
「ああ、遅くなってすまないね。
アルから状況を聞いたが、今はどうだ?」
ブロムは駆け寄って来た兵士に向かい、街や城の様子を確認したのだ。
「今のところ、下の森からの巨大な生き物の侵入もなく、街中に蔓延っていた病のような症状も落ち着いております。
一時は多くの者が吐き気やめまいなどの症状を訴えていたのですが、舞殿の薬で落ち着きその後も問題なく過ごしております。」
「そうか、皆が無事で何よりだ。」
ブロムはそう言うと私に向かい頭を下げたのだ。
「舞さん、本当にありがとう。」
私は首を振り、頭を上げるように言ったのだ。
「やめてよブロム。
私はほんの少しのお手伝いをしただけなのよ。
でも森の主も復活したことだし、もう巨大な生き物や病を心配する事は無いわね。
そうだ、ブロムこれを飲んで。」
私は鞄の中を探り、完全回復の薬では無いが、疲労回復や病後に使う漢方と水の鉱石を加えた薬をブロムに渡したのだ。
まだ、体力の低下が改善せず、アルに支えられながら立っているブロムが心配だった。
「これを飲めば、少し身体が楽になると思うわ。
ブラックも同じのを飲むといいわ。」
私はそう言い、ブラックにも同じ薬を飲んでもらったのだ。
ブロムほどでは無いが、ブラックもまだまだ回復しているとは言えなかった。
二人とも薬を飲むと、少しだけだが体力が戻ったようで私は安心したのだ。
そして兵士から話をよく聞くと、城を出発してから二週間以上経っている事がわかった。
やはり、さっきの空間とは時間の流れが違うようだ。
それに、私は何度も過去を繰り返す事で、時間の感覚がおかしくなっていた。
永遠に続くのでは無いかと思えた時間のループから抜け出せた事を、本当に感謝したのだ。
だから、二週間以上経っていたとしても、全く気にならなかったのだ。
私達はブロムの父である黒翼国の王に、地下の森についての報告を行ったのだ。
「ブロム、無事で良かった。
やはり、あの絵本の通りでは無かったようだな。」
「そうですね。
実はその森の主の城にあった本を1冊持って来てしまいました。
後日返しに行こうかと思いますが、我々のルーツがわかる事が書いてあるようなので。
また、面白い事が有れば、ご報告します。」
ブロムは嬉しそうにその本を眺めていたのだ。
森の主の日記のような物であるが、その時代の翼人の生活も垣間見れるらしい。
「魔人の方々、ブロムが世話になりました。
どうぞ、ゆっくりして行ってください。」
黒翼国の王はそう言い、私達にご馳走をふるまってくれたのだ。
私は今まで緊迫した状況が続いた為か、お腹が空いた感覚がなかった。
しかし、その美味しそうな匂いの食事を見ると、空腹であることに今更ながら気付いたのだ。
しばらく私達は寛がせてもらい、心も体も休める事が出来たのだ。
○
○
○
「ブロム、そろそろ私達は戻るわね。」
私は王に会釈した後、ブロムに声をかけた。
「もう行くのですね。
舞さん、また来てくださいね。
いつでも歓迎しますよ。」
私達は別れを告げ、魔人の国に繋がる暗いトンネルを上がり、湖の近くの岩場に抜けたのだ。
何だか、そこは久しぶりに見る風景に感じたのだ。
「さあ、城に戻りますよ。」
ブラックは私の手を取り、顔を覗き込んだ。
私は頷くと、一瞬で魔人の城の入り口に移動したのだ。
私達の気配を感じたのか、ネフライトが城の門から駆け出して来たのだ。
「ブラック様、ご無事で。
皆さんも揃って帰還されて何よりです。」
「ああ、すまなかったね。
だいぶ城を空けてしまったようだね。
ネフライト、みんなを集めてくれるかな。」
城の執務室に入ると、トルマとユークレイスがすでに待っていた。
ブラックはネフライトから自分が不在であった時の報告を受けると、黒翼国での事をみんなに伝えたのだ。
そして森の主や指輪に宿し者など、自然から生まれし存在の力は、魔人といえども対抗できないと感じた事をブラックは伝えたのだ。
「この国の森の精霊の助けや、人間である舞の思いがあったからこそ、みんな無事に帰れたのだよ・・・」
そして、魔人の持って生まれし力に傲ることが無いように、自分を含め、肝に銘じるように話したのだ。
その夜は魔人の城でも美味しい食事やお酒が準備された。
ブラックはカクやヨクに、今までの事を書き留めた手紙を出してくれて、舞はその日は城に滞在することにしたのだ。
ジルコンが私に似合うだろうと、素敵なドレスやアクセサリーを見繕っていた。
以前もそうだが、ジルコンの選ぶドレスは胸元や足など露出度の高い物が多かった。
スタイルの良いジルコンであれば問題ないのであるが、私には着こなす自信が無かった。
「ジルコン、私にはちょっと派手じゃ無いかしら?」
「舞、自分をわかってないわね。
まあ、私を信じて着てごらんなさいよ。
自分が思ってるより、あなたは素敵なのよ。
まあ、私には負けるかもしれないけどね。」
ジルコンが笑いながらそう言うので、支度をして鏡の前に立つと、自分が考えていたほど悪くは無いと思ったのだ。
ジルコンは私を見て、思った通りというように頷いたのだ。
「さあ、行きましょう。
舞を見たブラックを見るのが楽しみだわ。
それに・・・あの森の精霊も、舞を見てどう思うかしらね。
私、こう言う事は鋭いのよ。」
ジルコンの言っている意味がよく分からなかったが、そう言うと私の手を引っ張り、皆んながいる広間に連れ出したのだ。
バタンと扉を開けると、目の前にブラックが立っていたのだ。
私はブラックと目が合うととても恥ずかしく、顔が赤くなり心臓の鼓動が速まるのを感じたのだ。
ブラックは一瞬驚いた顔をしたが、いつものように紳士的な態度で私の手を取り微笑んだのだ。
「舞、素敵ですね。」
なんだ、いつもと同じ・・・。
あの時の言葉に浮かれていたのは、私だけだったのかとちょっと残念に思ったのだ。
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