第1話 絵本の真偽
黒翼国に昔から伝わる書物の中には、絵本のような物が何冊か存在した。
ほとんどは子供を楽しませるような本であるのに、1冊だけ異質な物が存在したのだ。
つまりは、小さな子供が喜ぶような内容では無いのだ。
まるで、大人達への戒めとして書かれた絵本ではないかと思うくらいの・・・。
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昔々、ある森に黒の魔法使いが住んでいました。
魔法使いは寂しくなって、村に友達になってくれる人を探しに行きました。
その姿は頭に2本のツノを持っていたので、怖がられないように、普通の村人に変身して村に現れました。
村人は変身した魔法使いと仲良くなり一緒に村で過ごす事を勧めました。
嬉しくなった魔法使いは森から出て、村人達と楽しく暮らしていました。
そんな時、真実の泉で本当の姿を村人に見られてしまいます。
その姿を見て怖がった村人たちは、魔法使いに村から出て行くようにと言うのです。
心が通じて仲間になったと思っていた魔法使いは、ショックを受けて森に戻ります。
見た目が違うからと言うだけで、ひどい仕打ちを受けたのです。
そして、悲しみと怒りで2本のツノはより大きく鋭くなり、魔法使いは恐ろしい風貌に変わってしまいました。
そして魔法を使って、村に病を流行らせたり、村の植物や動物、昆虫に至るまで巨大化させ、村を襲わせたりしたのです。
森に住んでいる黒の魔法使いの家は大きな城になっていて、その周りはイバラで囲まれていました。
村人は魔法使いに謝り、村を元に戻すようにお願いしに行ったのです。
黒の魔法使いは、命ある限り森に一緒に住んでくれる者がいれば元に戻すと言いました。
しかし、その申し出を受ける村人はいませんでした。
そんな中、白の魔法使いが村に立ち寄りました。
村人たちは黒の魔法使いを倒して欲しいと懇願します。
話を聞いた白の魔法使いは言いました。
「黒の魔法使いのように私は強くないので、倒すことは出来ません。
それに、悲しい思いをさせた村人達も報いは受けなければならないでしょう。
以前のような村に戻す事は出来ませんが、病を治しここから飛び立つことの出来る翼を授けます。
そして私が命ある限り、黒の魔法使いと一緒に住む者になりましょう。」
そう言って、白の魔法使いは森の中に消えて行きました。
その後、村人達は病にかかることは無くなりましたが、巨大化した植物や動物などは元に戻る事がありませんでした。
仕方なく、翼を授かった村人たちは自分達の故郷を捨て、巨大化した木々の上まで飛び、そこで新しい生活をすることにしたのでした。
その後も両方の魔法使いの姿を見た者はいませんでした。
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ブロムはその絵本を開いたときに、目に入ってきた挿絵にとても衝撃を覚えた。
それは少し前に、実際に見た風景や建物にそっくりだったのだ。
・・・偶然とは思えないのだ。
ただのおとぎ話かも知れないが、その中には真実も書かれているのかもしれない。
そう思うとあの地下の森にもう一度行かなくてはと思ったのだ。
そう考えていた時、弟のアルが騒がしく部屋に入ってきた。
「兄上、街中に蜂のような大群が現れたらしいと報告がありました。」
「蜂くらいで何を焦っているんだ?」
「それが、どうも地下の森からきた虫のようで・・・」
「・・・巨大なのだな?」
アルは黙って頷いた。
今になって私が遺跡を発見したり、地下の昆虫が上の世界まで来るなど、今までなかった事が起きている。
やはり、何かおかしい。
「わかった、すぐに行こう。
案内してくれ。」
私とアルは炎の剣を携え、街に向かったのだ。
私達が着いた時には、すでに黒翼国の兵士たちが巨大な蜂に応戦していた。
やはり炎には弱いようで、他の兵士たちも炎の剣を使い被害を抑えていた。
その蜂達は人と同じくらいの大きさの為、衝突されたり噛まれてしまうと、大きな怪我を負うかもしれないのだ。
私とアルも加わり炎の剣を数振りすると、ムチのようにしなりながら、炎が何重にも蜂達に向かっていった。
すると、羽が燃える事で飛行することが出来ず、下にバタバタと落下するのであった。
・・・しかし、数が多いのだ。
キリがなくどうしたのもかと思っていた時、上空に大きな炎の輪が浮かび上がったのだ。
その中心には見覚えのある人が左手を掲げて浮遊していたのだ。
「みんな、地上に降りて。
巻き込まれるよ。」
彼はそう言って、私を見てニコリとしたのだ。
私は兵士達に、言われた通り地上に降りるよう指示をした。
すると、彼を取り巻いていた炎のサークルが回転しながら段々と大きくなった。
彼が左手を勢いよく下ろすと、飛んでいる蜂達を囲むように炎のサークルも下がり、巨大な炎と衝撃波を放ったのだ。
その後、黒焦げになった蜂達がバタバタと落ちてきて、ほとんどの蜂は動かなかった。
炎の中心にいた彼も地上に降り立つと、後から来たドラゴンの翼を持つ仲間と一緒に私の前に歩いてきたのだ。
そして、ニコニコしながら話した。
「何だか、面白い事が起きているみたいだね。」
ああ、やっぱり彼らに協力を頼むべきだと思ったのだ。
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