第32話 支える者

 舞はジルコンや精霊達に今回の事を話しはじめた。


 指輪に宿し者達の事、そして私が森の主の力を借りて行った事をみんなに話したのだ。

 そして私はみんなの励ましや、みんなを信じる事でブラックを助ける事が出来たと話したのだ。

 

「私は舞が何度も過去に行っていた事を知っていました。

 一度消滅した私は、私の指輪に宿し者と一緒に見ていたのです。

 でも、私は何もする事が出来なかった。

 その者に再度会う事で全てを思い出したのです。

 すまない、私の為に一人で辛い思いをさせて・・・」


 ブラックはそう言い私を見たのだ。

 私は首を振り、続けて話した。


「誰が欠けても、上手くいかなかったのよ。

 私、ジルコンに怒られたのよ。

 今は考えるべき事があるはずと言われて、叩かれたのよ。

 どうしたらいいか分からなかった私を奮い立たせてくれたの。」


「え?私が舞を叩いたの?」


 ジルコンが恥ずかしそうに言うと、横でアクアが口を挟んだのだ。


「ジルコンがそうしているところが目に浮かぶな、イタッ!」


 アクアは笑いながら言うと、ジルコンに足を踏まれたようだった。


 そんな中、精霊が真面目な顔で聞いてきたのだ。


「舞はどうしてそのパラシスを助けたかったのですか?

 ブラックを消滅させた者だったのでしょう?」


 精霊は森の主とパラシスに目をやった後、私を見たのだ。

 パラシスは指輪に宿し者に能力を消滅させられると、人が変わったように静かに佇んでいたのだ。

 森の主はそんなパラシスに寄り添っていた。


「・・・何だか、あのドラゴンの事を思い出したの。

 きっと何もわからないだけなのかなって。

 森の主がパラシスを支える事が出来れば、きっとパラシスも森の主の支えになるんじゃないかって。

 きっと、今までも森の主にとっては大事な存在だったと思うの。

 だから、安易にパラシスを消滅させて悲しむ人がいるのであれば、それが正解とは言えないかなって。

 何が善で何が悪なのかは、立場によって違ってくると思って・・・。

 私は自分を含め、悲しむ者が少ない結果になればいいなって思っただけ。」


 私は精霊の問いに答えると、精霊は微笑んでまた小さな姿になり、わたしの胸ポケットに納まったのだ。


「相変わらず無茶をしますね。

 まあ、それが舞のいいところなんでしょうが・・・

 でも、もう心配させないでくださいね。」


 精霊はそう言って私を見上げたのだ。


 私は本当に精霊をいつも心配ばかりさせていると思った。

 そんな私を優しく見守ってくれている精霊は、ブラックと同じように私を支えてくれる大事な人なのだ。


「そう言えば、何か忘れている事があるような・・・」


 ブラックがそう言った時、二つの気配が広間に現れたのだ。

 スピネルがブロムを連れて瞬時に移動して来たのだ。

 

「ちょっとブラック、いつまで待ってても戻ってこないから来ちゃったよ。

 ブロム殿が目覚めたから一緒に連れて来たよ。」


 スピネルは不満そうにブラックを睨んで叫んだのだ。


「あ、兄上・・・無事で良かった。

 身体は大丈夫ですか?」


 アルはブロムにそう言いながら、駆け寄ったのだ。

 

「アル、すまなかった。

 迷惑をかけたな。」


 エネルギーを吸い取られて弱っていたようだが、人間と違い黒翼人も自己回復力が強いため、少しは回復したようなのだ。

 

「そうか、忘れていたのはスピネルの事だったのか。」


 ブラックが笑ってそう言うと、スピネルは呆れた顔で話したのだ。


「えーひどいなー。

 待っていても来ないはずだよね。

 あ、それで色々な事は解決したってことかな?」


「まあ、上の世界に戻ってから詳しく話しますよ。」


 ブラックはそう言いスピネルをなだめたのだ。

 私はと言えば、パラシスが静かすぎるのが少し心配であった。


「パラシスは大丈夫かしら?」


 森の主に声をかけると、微笑みながら頷いたのだ。


「指輪に宿し者が、パラシスの能力を消滅させたと同時に、記憶にも多少手が加えられたのかもしれません。

 しかし、私の事は認識していますから大丈夫ですよ。

 今の私ならパラシスを支える事が出来ますから。

 ・・・あなたの言った通り、昔から依存していたのは私の方だと思います。」

 

 そう言うと、森の主は城の中に新たなドアを作ったのだ。


「このドアから、この空間の外に出れますよ。

 巨大化した生き物を元に戻す事は出来ませんが、今までのように上の世界には行かないように私が見張っていますから、安心してください。

 さあ、行ってください。」


 森の主はそう言ってドアを開けたのだ。

 そして私達は来た時と同じ、暗い森に出たのだ。

 私は振り向いて、森の主に聞いてみた。


「また・・・会えますか?」


「もちろんですよ。

 普段は森に紛れて過ごすつもりですが、あなたが私を呼んでくれれば、いつでも扉は開きますよ。

 あなたは私の恩人ですからね。」


 そう言って森の主は微笑んでくれたのだ


 別れを告げるとドアがパタンと閉まり、あっという間に周辺の太いイバラが動き出し、ドアを囲んだのだ。

 そして私達はそのドアを見つけることが出来なくなってしまった。


 いつになるか分からないが、私は森の主とパラシスに会いに行くのが、楽しみになったのだ。

 

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