第25話 出来る事

 舞の目の前にブラックが現れると、すぐにパラシスからの攻撃でブラックは倒れたのだ。

 まだ殆どの魔力が復活していないブラックにとっては、致命的な事であった。

 これ以上エネルギーを消失する事は、消滅に値したのだ。

 強い魔人であるため、核は残るだろうが復活する為には長い時間を要するはずなのだ・・・



 目の前で倒れたブラックを見て、私は声が出なかった。

 そして、段々とブラックの姿が透け始めるのがわかった。

 私は、一瞬周りの音という音が何も聞こえなくなり、倒れたブラックの姿しか見えない世界に入った気がしたのだ。

 そして次に聞こえてきたものは、自分の叫び声だった。


「いやっーー、どうして!!」


 私はブラックに触れようとしたのに、透けて触れる事が出来なかったのだ。

 そしてブラックの姿が透け始めた後は、あっという間に消えて無くなってしまったのだ。

 私は目の前で起こった事が理解できなかった。

 一部始終を見ていた森の主は、すぐにパラシスを引き寄せ動けなくしたのだ。

 パラシスは拘束されているにも関わらず、笑いながら言ったのだ。


「ハハハ。

 向こうから私にエネルギーを吸い取られに来たぞ。

 こんな弱い者の代わりに犠牲になるとは、あの魔人は何を考えていたのか。」


 私はそれを聞いた途端、私の中で何かが崩れたのだ。


 そうだ、こんな何もできない弱い人間のために、魔人の王が消滅するなんて、許される事では無いのだ。

 私なんかと違い、ブラックは沢山の人から必要とされる人なのだ。

 かつてそうだったように、これから何百年経っても必要な人なのだ。

 それなのに、私がみんなの意見を聞かずに行動した事が、結果としてブラックを消滅に導いてしまったのだ。


 全ては・・・私のせい・・・。

 私はブラックだけでなく、魔人の国の未来も狂わせてしまった。

 私がブラックに会わなければ、私がこの世界に来なければ・・・。

 おじいちゃん、ハナさん、私は何のためにここに来たのだろう。

 

 そう思っていた時、誰かが遠くで私の名を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 その時、私の身体に衝撃が走ったのだ。

 よく見ると、私の前にジルコンが座り込んでいて、怖い顔をして見ていたのだ。

 後からジーンと言う痛みが頬に感じてきたのだ。

 ジルコンが私の頬を叩いたようだが、きっとブラックを消滅させた私に怒りを感じているのだろうと思った。

 だが、違ったのだ。


「舞、しっかりしなさい。

 あなたのせいじゃ無いわ。

 そう言っても、あなたは自分を責めるかもしれないけど、今はそんな事を考える時じゃ無いわ。

 ブラックを助ける方法が、今ならまだあるかもしれないじゃ無い。

 舞、私たちがいる。

 一人じゃないのよ。

 今はみんなで何かできる事が無いか考える時間よ。」


 何か・・・そんな事があるのだろうか。

 もう、実体もないブラックには薬も使う事も出来ない。

 見上げると、アクアや精霊も私を心配そうに見ていたのだ。


 その時、誰かが私に囁いたのだ。

 それは自分の心の声かもしれないのだけど・・・


『いつもは誰かの為に使っていた薬だけど、今は自分のために使ってみたら?

 きっと落ち着いて、いい考えが出るはずよ・・・』


 そうだ、まずは落ち着こう。

 私はさっき森の主の本体にふりかけた薬を取り出し、カプセルを噛み砕いて、一気に飲み込んだのだ。

 私はすぐに金色の光に包まれると、立ち上がりジルコンを見たのだ。


「ありがとう、ジルコン。

 もう、大丈夫。

 嘆くのはまだ早いわね。

 まずは、パラシスをしっかりと結界の中に拘束させて。」


 私がそう言うと、ジルコンは強く頷いたのだ。


「申し訳ない・・・パラシスの事は私が責任を持って・・・」


 そう森の主が言うのを遮り、私は伝えたのだ。


「いえ、あなたが消滅してしまってはこちらが困るのよ。

 まずはあなたの力を回復させてあげるから、私たちに力を貸してちょうだい。

 パラシスの事はそれからよ。」


 そう、ここはこの森の主が作った空間なのだ。

 そうであれば、力を取り戻した森の主なら何か出来る事があるのではと思ったのだ。

 少なくとも、ブラックの核はこの空間に存在する事は確かなのだ。

 あの時の、森の精霊が行った時間の遡りとか・・・

 まずは、森の主の力を借りれるようにしたかったのだ。


 私は中庭に行き、森の主の本体である大きな薔薇の幹に完全回復の薬を振りかけたのだ。

 薔薇の幹が金色の光に包まれると、所々黒ずんでいた部分が綺麗な深い緑色に変わり新しい葉が増え、それまでなかった蕾が付き出したのだ。

 この薬が、どのくらいエネルギーを回復させてくれるかわからなかったが、何としても森の主の力を戻したかったのだ。

 

 

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