第16話 精霊と白の存在

 舞達は城の扉を慎重に開けて中に入った。

 

 私はジルコンの腕に掴まり、辺りを見回したのだ。

 そこはとても綺麗な広間があったのだが、何だか暖かみに欠けるような気がしたのだ。

 そして、少しひんやりとした風が私の頰に触れたような気がした。

 中は静寂で包まれてはいたが、少なくとも心地よい雰囲気の場所には感じられなかった。

 精霊が言う通り、城全体が二重空間になっているのなら、すでにここに私達が来ている事はわかっているのだろう。

 そう思っていた時、城の奥からカツカツと靴音が響いてきた。

 アクアの目には、すでにそれが白の存在である事がわかっていたようだ。

 

「ブラック達はどこだ?

 二人を返してもらおう。

 初めから怪しい気がしていたが、黒翼人達を精神誘導したりブラック達を閉じ込めたり、何を企んでいるのだ。」


 アクアはそう言って私達の前に出たのだ。

 白の存在はフードを上げて真っ直ぐにこちらを見たのだ。

 その者は鋭いツノを頭から生やし、氷のように冷たく恐ろしい表情をしていたのだ。

 どうも、アクア達が前回会った時とはまるで違う風貌のようなのだ。


「それが本性か・・・

 我々を騙して城に招き入れ、ブラック達を捕らえた理由は何なのだ。」


 スピネルがそう言うと、その白い存在はニヤリと笑ったのだ。


「お前達のエネルギーをいただくだけの話だ。」


 そう言って私達に左手を向けたのだ。

 しかし、私達のエネルギーを吸い取ろうとしたのだろうが、何も起きなかったのだ。

 そして白の存在は予想していたのか、少し悔しそうではあったが淡々と話し出した。

 

「なるほど、全員が自然から生まれし者の加護下に入っていると言うわけか。

 さあ、どこにいる。

 ここにいることはわかっているのだ。」


 白の存在がそう叫ぶと私の胸元が輝き、胸ポケットから光の集合体が現れ、精霊の姿に変化したのだ。

 わかってはいたが、この空間では小さな姿では無く立派な凛々しい青年の姿になれるのだ。


「あなたがこの城に空間を作ったのですね。

 ですが、ここの全体の空間を作ったのは別の者ですね。

 それも、その者はかなり弱っている・・・

 だから、ブラック達のエネルギーが必要だった。

 違いますか?」


 私は精霊がそう話すのを聞いて不安になった。

 まさか二人はもう・・・

 私の不安な気持ちを察してか、精霊は私の耳元で囁いたのだ。


「大丈夫。

 二人は弱ってはいますが、生きてますよ。」


 そう言って、私を見て微笑んだのだ。

 精霊は私の事はなんでもお見通しのようだ。

 そして、白の存在に再度向き直り伝えたのだ。


「申し訳ないですが、あなたの気配は私が最も許せない者に似ていますね。

 標的に寄生しては、エネルギーを吸収し消滅に導く者。」


 精霊は白の存在を睨みながらそう言うと、どうも図星のようであった。

 無表情の冷酷な顔から、苛立ちが見え隠れし始めたのだ。


 すると、この空間の気配が一気に変わったのだ。

 それにいち早く気付いた魔人達は私や黒翼人のアルの前に出たのだ。

 精霊の存在により、自分の作った空間ではかえって有利にならない事がわかったようで、白の存在は自分の作った空間を消滅させるとすぐに左手をこちらに向けたのだ。

 私達のエネルギーを吸収しようとしたのだが、ジルコン達の強い結界の前では誰一人として侵食する事が出来なかったのだ。

 白の存在は益々苛立ちを募らせていき、叫んだのだ。


「お前達に手出しができなくても、あの二人は私の手の中だ。」


 そう言って白の存在はどこかに消えてしまったのだ。

 私はジルコンにブラック達の気配を探ってもらったのだ。

 しかし、この城の中に気配はあるのだが場所を特定できないと言うのだ。


「おかしいわね。

 なんで場所の特定が出来ないのかしら。」


 ジルコンが魔力探知を働かせても難しいらしい。


「多分、私が黒の集合体から逃げた時と同じだと思います。

 上手く見つからないように場所を変えてましたから。

 でも、大丈夫です。

 方法はありますから。

 ちょっと時間はかかりますが、追い詰める事は出来ます。

 ただ、もともとこの空間を作った者が沈黙を保っているのが気になります。

 弱ってはいますが、何も出来ないわけではありませんからね。

 そこが、不気味ですね。」


 精霊はみんなにそう伝えると、手のひらから太い植物の蔓を生み出したのだ。

 それはどんどんと長くなり、城中に伸びていったのだ。

 

「この蔓は私の目となり、きっとブラック達を探してくれるでしょう。

 あの者に隠された空間でも、わかるはずですから。」


 そう言って精霊はまた光の集合体になった後小さくなり、私の胸ポケットに収まったのだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る