第30話 新たな未来
ブラックと指輪に宿し者は、別の空間から舞の行動に注目していた。
私は何回も過去を繰り返している舞を見ているのが辛かった。
もう、私は舞が無事なだけで満足だったので、これ以上舞に大変な思いをさせたく無かった。
だが今回は、今まで繰り返していた様子と違い舞の行動が少し変わったのだ。
肩から掛けている鞄を確かめる様子を見て、不安がよぎったのだ。
もしかすると、自分を犠牲にするのではと思ったのだ。
もし舞が闇の薬を持っていたとしたらどうだろう。
舞は絶対に誰かに使う事は無いはず。
ドラゴンの時でさえ、その選択はしなかったのだ。
だが、自分自身には・・・
「まずい・・・もしかしたら私のために自分を犠牲にしようとしているのかも・・・」
私が呟くと、指輪に宿し者はため息をついたのだ。
「その選択をしたら、僕の分身はきっと助けてはくれないよ。
僕だったら感動してどうにかしてあげたいと思っちゃうんだけどねー。
実に残念だよ。
だが、その結果としてブラックが問題なく生存している世界に変わるのであれば、僕は満足だけどね。」
そんな事を言われても、私は満足する事は無いのだ。
どうにか舞が馬鹿な選択をしない事だけを願った。
「さあ、ここからは舞と僕の分身に任せよう。
どんな結果であれ、僕はブラックを助けるから安心していいからね。
一旦ここでの記憶は消えるけど、また会いに行くから。
じゃあ、その時まで。」
指輪に宿し者はそう言うと、私の前で微笑みながら指をパチンと鳴らしたのだ。
その途端、一気に辺りは真っ暗となり私の意識も無くなったのだ。
そして未来は変わったのだ。
○
○
○
「私の邪魔する者は消えるのだ!」
そう言ってパラシスが舞に左手を向けようとした時である。
舞は鞄から薬を取り出し、自分自身の身体に押し付けたのだ。
すると、舞は金色の優しい光に包まれるとその場に倒れたのだ。
その姿を見た森の主やパラシスは一瞬動きが止まった。
その時、ブラックが舞の元に瞬時に移動したのだ。
「舞・・・どうして・・・」
意識の無い舞を抱き寄せ悔しそうな顔をしたのだ。
「自分からまた戻ってくるとは馬鹿な魔人だ。
今ならお前のエネルギーをすべて吸い尽くしてくれよう。」
パラシスはそう言って左手をブラックに向けたのだ。
ブラックのエネルギーを吸い取ろうと力を込めた時、何かに跳ね返されたのだ。
ブラックの前に精霊の蔓で作られた大きな盾の様なものが現れたのだ。
そして同じようにその瞬間動いた者がいた。
パラシスがエネルギーを吸い取れず悔しい顔をした時、ジルコンが再度パラシスを結界の中に閉じ込めたのだ。
「信用していた森の主が可哀想ね。
今度はここから簡単には出さないわよ。」
ジルコンはそう言うと、ブラックが抱える舞を心配そうに見たのだ。
「大丈夫、舞は生きてるよ。
舞が薬を使い倒れた時は心配したが、あの色の光ならきっと目覚めるはずだよ。
もし、消滅に向かうような闇の薬なら黒煙が上がるはずだからね。
でも、何でこんな事を・・・」
その時ブラックと舞のはめている指輪が光ったのだ。
二つの指輪が光ると、その指輪から光の集合体が現れ、その光は二つのある存在に変わったのだ。
それを見た時に、ブラックの中にさっきまで無かったある記憶が追加されたのだ。
「そうだ・・・舞は私を助けるために薬を使ったのだ。
何度も過去に戻って・・・
一人でどれだけ大変だった事か・・・」
そう言って再度ブラックは舞を抱きしめたのだ。
「やあブラック、僕の事は覚えているかな?
舞は成功したみたいだね。
僕の分身にも気に入られたみたいでホッとしたよ。」
ブラックの指輪に宿し者はそう言い、ニヤリと笑ったのだ。
「舞を今目覚めさせるとしよう。
本来なら、薬の効果でまだまだ眠ったままであるが、舞から頼まれた事があるのだよ。」
舞の指輪に宿し者が付け加えたのだ。
ブラック以外の周りにいる誰もが、一体何が起きているかわからなかった。
しかし、指輪から出てきた存在が、強い力を持つ者である事はみんなすぐに理解出来たのであった。
舞の指輪から出てきた綺麗な女性を思わせる存在が、手を舞の頬に置くと舞が目覚めたのだ。
舞は目覚めると、目の前にずっと会いたかったブラックの顔を見る事が出来たのだ。
舞はホッとしてポロポロと涙を流して話したのだ。
「私、ブラックに話す事があってここに来たのよ。
それを伝える前にさよならになるのだけは絶対に嫌だったの。」
そんな舞を見たブラックも、何百年ぶりかに頬に涙がつたうのを感じたのだ。
「舞、たくさん大変な思いをしてまで、何を伝えたかったのかな?」
ブラックが優しく問いかけると、舞は嬉しそうに話したのだ。
「私ね、ずっとこっちの世界にいられる事になったの。
ちゃんとお父さんに話したの。
だから、私の短い命が尽きるまででいいの。
私にブラックの時間を少しだけ貰ってもいいかな?
ブラックの側にいてもいいかな?」
ブラックは予想もしていなかった言葉に声が出なかったのだ。
住む世界が違うとわかっていただけに、舞がそんな事を言ってくれるなんて、全く想像できなかったのだ。
「やっぱり、ダメだったかな・・・」
そう言って舞が顔を曇らせたのを見て、ブラックは慌てて言ったのだ。
「ずっと近くにいてほしい。
以前から思っていたのは私の方だよ。
舞を困らせると思って、言えなかったんだよ。」
ブラックはそう言って、舞を再度抱きしめたのだ。
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