第10話 黒翼国の病

 舞は魔人の城で、アクアとスピネルからブラックが捕まったことを聞いた。

 胸騒ぎはこの事だったのかと、妙に納得出来たのだ。



「あの空間は精霊が作る空間と同じ感じだったよ。

 だから、森の精霊に協力をお願いしに行こうと思っている。

 その前に城に寄って状況を伝えに来たんだよ。

 まさか、舞がいるとは思わなかったけど。」


 スピネルはそう言って私を見たのだ。

 その時、胸元が暖かくなり優しく光ったのだ。

 首からぶら下げていた袋の中の種を見ると、一つの種が光っていたのだ。

 そしてその種を手のひらに取り出すと、小さな精霊に変わったのだ。


「まだ呼んでないのに来たって事は、話を聞いていたのね。」


 私は手のひらにいる精霊の顔を覗き込んで笑ったのだ。

 

「何やら舞の気持ちの変動が大きかったから、何かあったのかと様子を見てたのですよ。」


 精霊は拗ねたような、居心地悪そうな顔をしたのだ。

 最近は、私が呼ばなくても精霊の方から来てくれる時があるのだ。

 それだけ、心配していると言う事なのだろう。

 まあ、アクア達としても、精霊の元に行く予定だったので、都合が良かったようだ。

 アクアとスピネルはあの森の遺跡でのことを詳しく話したのだ。


「なるほど。

 そこにいた者が何者かはわかりませんが、同じような空間を作る事が出来るなら、自然から生まれし存在かもしれませんね。

 それも二重空間ともなると、元々その空間を作っていた者が弱っているのかもしれません。

 そうでなければ、他の者がその中に新たな空間を作る事は出来ないはずですから。

 それに、あの下の森の生き物が街まで上がって来たことも関係あるのだと思いますよ。

 今までは誰かの力で抑えていたが、その抑えが利かなくなったのか、もしくはそれを上回る力のある者が動かしているのか・・・。

 どちらにしても、厄介な者がいるのは確かですね。」


 私の手にいる小さな精霊は腕を組みながら、考えを話したのだ。


「ブラックが捕まるくらいなら、今回は私が一緒に行くわ。

 舞は城で待っていた方がいいんじゃない?

 今はブラックの保護も受けてない状態よ。」


 やはり、指輪の石の色が変わったことはそう言うことなのだろう。

 しかしジルコンはそう言ったが、もちろん私は待っている事が出来るわけが無かった。

 

「ブラックに何かあったのかと思って転移したのよ。

 皆んながダメと言っても勝手に行くつもりよ。」


 私が強い口調で話すと、精霊が優しく言ってくれたのだ。


「その空間の中なら私が舞を守るから大丈夫ですよ。

 一緒に行きましょう。」


 私は頷くと、マントの下に着ている薄水色の白衣の胸ポケットに精霊を入れたのだ。

 

「・・・わかったわ。

 その代わり、私の近くから絶対に離れないと約束して。

 何かあったらブラックに顔向けできないんだからね。」


 ジルコンはそう言って、私の腕を掴み顔を見てニヤリと笑ったのだ。

 私が頷くと、ジルコンはすぐにネフライトを呼んだのだ。

 ネフライトに事情を説明するととても心配そうであったが、トルマやユークレイスと共に留守をしっかりと守るようにとジルコンに窘められていた。

 そして私達四人プラス精霊は黒翼国へと向かったのだ。


 私はジルコンに掴まり、瞬時に湖の岩場に移動したのだ。

 そこから以前も通った下に向かうトンネルを抜けると、黒翼国に到着した。

 だが、着いた途端とても異様な雰囲気が漂っていたのだ。

 アクア達から下の森の生き物の襲撃があったとは聞いていたが、それだけでなく街全体が重たく暗いオーラのようなもので包まれているように感じたのだ。


「何これ?

 嫌な気配しか無いんだけど・・・

 舞、絶対に手を離さないでね。

 人間には厳しい気配よ。」


 ジルコンはそう言って顔をしかめたのだ。

 私はフードを深く被り、ジルコンの腕にしがみついたのだ。

 ジルコンに触れている限り、ジルコンの結界に守られているのだ。


「これはまずいですね・・・」


 白衣のポケットの中の精霊は周りをキョロキョロしながらつぶやいたのだ。

 すれ違う人たちはまるで病にかかっているかのように顔色も悪く、歩くこともままならないように見えたのだ。

 多分家の中にも具合が悪い人達が沢山いるのだろう。

 

「この前まではこんな感じではなかったよ。

 ブロム殿が言っていた古い絵本の中の話を思い出すな。

 確か、黒の魔法使いが植物や動物、昆虫までもを巨大化させ、村に病を流行らせたってね。」


 スピネルがそう言う通り、きっと誰かの仕業なのだろう。

 その者を突き止めない限り、この世界が元に戻る事が無いのかもしれない。

 私達は黒翼国の城に急いだのだ。


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