第9話 巨大な生き物
アクアとスピネルが魔人の国に戻ったのは出発してから、1ヶ月以上経ってからであった。
そこには大きな時間のズレがあったのだ。
あの地下の森にあった遺跡の結界の中と外では時間の流れが違ったのだ。
つまりあの空間では半日も経っていないのに、元の世界では1ヶ月という時間が過ぎていたのだ。
あの時二人は、ブラックから黒翼人を連れて出るように指示を受け、瞬時にその空間の入り口に移動したのだ。
そして、入った時と同じように魔法陣に黒翼人の兵士の手をかざすと扉が開いたのだ。
二人はブラックもブロムを連れて出て来る事を期待したが、やはり無理だったのだ。
アクアとスピネルは黒翼人の兵士たちに状況を伝えた。
何者かがすぐにこの空間から出るようにと囁いてきた事。
その後、あの部屋にブラックとブロムが閉じ込められて出る事が出来なかった事。
あの空間ではその支配者がいる限り何も出来ない事を説明したのだ。
そして今から、その空間に問題なく入れる者に助けを求めに行くので、黒翼人の兵士には王様に状況を伝えるように話したのだ。
そんな話をしている時に、二人は嫌な気配を感じたのだ。
この場所に来る時にも感じた気配だが、今回は監視しているだけではなく近づいて来るのがわかったのだ。
多分、ブラックがいないからなのだろう。
「嫌だな・・・またイモムシかそれともトカゲか。
二度とあの気持ち悪い思いはしたくないぞ。」
アクアはゲンナリした顔をして以前の事を思い出したのだ。
だが、今回近付いて来たのは今まで以上に気持ちが悪い物であった。
カサカサという音が近づいて来ると、アクアの目にはその正体がすでに見えており、言葉が無くなったのだ。
巨大なそれは8本の太い脚を動かし、身体は短い毛のような物に包まれ、口からは鋭い牙が見えたのだ。
そう、巨大な蜘蛛の大群だったのだ。
「なんでいつも何匹もで現れるのだ・・・
こんなのにかまっている暇はないから、早く上にあがろう。」
アクアはそう言って飛び立とうとしたのをスピネルが止めたのだ。
「アクア、上をみて。」
上を見るとすでに大きな蜘蛛が木々の隙間から見え隠れして、あっという間に蜘蛛の巣を作っていたのだ。
「やつらは蜘蛛の巣に我らを引っ掛けて、捕まえて食べるつもりなのか?
あんな物、全て炎で焼き尽くしてやる。」
アクアはそう言うと、口から炎を出そうと力を込めたのだ。
「アクア、ダメだよ。
森が火事になったら上の世界へも影響があるのだから。」
スピネルがそう言うと、横で聞いていた黒翼人の兵士が口を開いた。
「あの、この武器を使うのはどうでしょうか?
これは氷結の弓矢なのです。
矢に当たったある程度の範囲を、凍らせる事が出来るのです。
蜘蛛だけでなく蜘蛛の巣も凍るのでその後破壊すれば、糸に引っかかる事は無いと思います。」
「あの弓矢、どこかで見た事があるな・・・
思い出せないが、それを使う事にしよう。」
アクアはあまり思い出せていなかったが、それは以前アクアがドラゴンの姿の時に、黒翼人の兵士たちから向けられた矢と同じであった。
スピネルはすぐにわかったが、あえて言うのをやめたのだ。
黒翼人の兵士たちは四方を見上げ、氷結の矢を放ったのだ。
矢が蜘蛛や糸に当たると、そこを中心にある程度の範囲があっという間に白く氷化していったのだ。
蜘蛛の動きが止まり、蜘蛛の糸も凍りつき周り一帯の温度が急激に下がったのだ。
その後アクアはドラゴンの姿になると、その凍った蜘蛛の巣を突き破るように上昇した。
そしてバリバリと言う音を立てて上に向かう通路を作ったのだ。
その後黒翼人達も続き上の世界に問題なく着いたのだが、黒翼人の国が大変なことになっていたのだ。
そこでは、下の森を棲家とする大きな昆虫のような生き物が何匹か街中に現れており、黒翼人の兵士達が懸命に対応していたのだ。
その生き物達はまるで何かの抑えが無くなったかのように、暴れまわっているようであった。
兵士達の中に黒翼国の王子であるアルも他の兵士たちと一緒に巨大な虫達と戦っていた。
そんな中、ドラゴンの姿のアクアは勢いよく下の森から上昇し、アル達の戦いの場に舞い降りたのだ。
その時に、アクアの足元で何かが潰れたグシャッという音がしたのだ。
「ああ、また何かを踏んづけてしまったよ。
これ以上気持ち悪い思いはしたくないのに・・・」
そう言いながらアクアは人型に戻り、ため息をついたのだ。
「やっと戻って来たのですね。
助かりました。
ちょうどムカデのような大きな虫が下から這い上がって来たのですよ。
それで、兄上はどこにいますか?」
アルはアクアやスピネル、他の探検に行った兵士たちを見て尋ねたのだ。
スピネルが下の森の遺跡での事を話しながら、近づいて来る大きなムカデに左手を出し、炎のリングで捕らえ丸焦げにしたのだ。
現在、ブラックとアルの兄であるブロムが捕らえられている事を話すと、驚きながらもこの街の状況を話してくれた。
それを聞いて、スピネル達は違和感を感じたのだ。
アルは何日か前から森の生き物が上に這い上がって来たと言うが、スピネル達にとっては城を出てから1日も経っていない
はずだった。
よくよく聞くと、すでにスピネル達が出発して1ヶ月近く経っており、城でも心配をしていたところだったと。
だが、下の森から巨大な生物が上がって来た事で、探検隊を捜索する暇がなくなってしまったようなのだ。
この時、あの空間の時間の流れが違う事に気づいたのだ。
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