第8話 舞の不安

 私はその夜、カクとヨクといつものように飲んで食べて、色々な話をした。

 急に来た私を、前と変わらずもてなしてくれたのだ。

 どうもカクが、私がいつ来てもいいように、少し前からご馳走を用意していたらしい。


 そして私はこの世界について自分の父に話した事を、二人に伝えたのだ。

 今回ちゃんとこの世界に来る事を話して転移した事で、私は今まで感じていた少しの罪悪感から解放されたのだ。

 悪い事をしていたわけでは無いが、父に嘘をついて来ていた事は確かなのだ。


「まあ、お父上の気持ちを考えたら、心配なのは仕方がない事なのだよ。

 私とて、舞が危険な行動をしていないか、いつも心配してるからのう。

 決して無理をしてはいけないのだよ。

 心配している人がいる事を忘れてはならないのだよ。」


「そうだよ。

 いつも心配でハラハラしてるんだよ。

 今回も何だか嫌な予感がするな・・・。」


 カクもヨクも本当に私を心配してくれるのが良くわかるのだ。


「二人ともありがとう。

 ちゃんと、肝に銘じます。

 ちょっと、ブラックの様子を見てくるだけだから。

 特にこっちの国に話が何もないなら、きっと問題ないと思うわ。」


 私はそう言ったが、胸騒ぎは消えなかった。

 心配している人がいる事は良くわかっていたけれど、それ以上にブラックが心配であったのだ。

 

 次の日、私は魔人の国に行く事にした。

 今回もカクの家にある鉱石を使い漢方薬と調合し、必要と思われる薬を何種類か作って鞄に入れたのだ。

 準備が終わると、カクが洞窟まで一緒に来てくれたのだ。


「舞、帰ってくるのを待っているからね。

 危ない事はしないでくれよ。」


 カクは私の手を取り、そう言ってなかなか放さなかった。


「わかってるから大丈夫よ。

 それにこれもあるから。」


 以前、カクがくれたマントを纏ったのだ。

 フードが付いたそのマントは風の鉱石から作られているので、盾のような働きもあり、ちょっとした攻撃からも身を守る事が出来るのだ。

 私はフードも深く被った。

 ブラックからもらった指輪の石の色を見ると、今はブラックの結界に守られていないと言う事なのだろう。

 そうであるなら、今まで以上に気を付けなければならないのだ。

 ちょっとした油断や気の緩みで、大怪我や命に関わる事があるかも知れない。

 心配してくれる人の為にも、細心の注意を払わなければならないと思った。


「持っていてくれたんだね。

 心配だからちゃんと羽織っていくんだよ。」


 カクは嬉しそうにそう言い、やっと手を放してくれたのだ。

 私はカクに手を振ると、早足に洞窟を抜けた。

 洞窟は以前と同じで、まだまだ一般市民が気軽に行き来できるほどにはなっていなかった。

 だが、人の行き来は前より増えているように感じたのだ。

 出口まで行くと、そこには見慣れた風景が広がっていた。

 以前と同じように、広い草原と岩山がつらなっていたのだ。

 そして優しい風が顔に当たり、戻って来た事を実感したのだ。


 しかし、私の不安や胸騒ぎは変わらなかった。

 私は城に向かう馬車に乗り、ブラックの元に急いだのだ。

 城に着くと、入り口でバタバタと忙しそうに指示を出しているネフライトと目があった。

 私はフードをとり、会釈したのだ。


「舞殿ではないですか?

 こちらにいらしてたのですね。

 今、ブラック様は外出しておりまして・・・

 まあ、詳しくは中で。」


 何やらそこでは言いづらそうな顔をしたのだ。

 ブラックの執務室に通されたのだが、そこにはジルコンが座っており、ブラックの代わりに色々な資料に目を通していたのだ。


「あら、舞じゃない?

 せっかく来てもらったのに、今ブラックはいないのよ。

 黒翼国に行っているのよ。

 でも、もう1ヶ月くらい経つのに戻ってこないのよ。

 ちょっと羽を伸ばしすぎよね。

 その間、私がどれだけ仕事をこなすことになったか・・・

 戻ってきたら文句言わなくちゃ。」


 相変わらずのジルコンで私はホッとしたのだ。

 ジルコンの話だと、アクアとスピネルと一緒に例の遺跡の探検に行ったようなのだ。

 2週間くらいで戻ってくると思っていたが、未だ帰ってこない為、ジルコンがブラックの代わりに王の仕事を行っていたのだった。

 私は指輪の異変があり、心配でこっちの世界に転移した事を話したのだ。

 そして指輪をジルコンに見せていた時である。

 ジルコンが何かを感じたようで、急に動きが止まったのだ。


「あ、あの子たち帰って来たわ。」


 そう言った途端、アクアとスピネルが勢いよくドアを開けて入って来たのだ。


「ジルコン大変だ。

 あ、舞・・・来ていたのか・・・。」


 アクアは私の顔を見て、何やら言いづらそうな顔をしたのだ。


「ちょっと、君たち遅かったじゃないの。

 ブラックがいないから私の仕事が増えたじゃない。

 ブラックはどうしたの?」


 ジルコンがブツブツと言いながら、二人に詰め寄ったのだ。


「ああ、実は・・・」


 アクアは私の顔を見て言葉が詰まったようで、それを見たスピネルが仕方なく話したのだ。


「ブラックが捕まったんだ。」


 私の不安は的中したのだった。

 

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