第7話 父との約束

 舞はいつもの日常を取り戻していたが、考えている事は魔人の国やカク達のいる異世界のことであった。


 私は早くみんなの元に戻りたかった。

 今までは、旅行や友人に会いに行くと言って、どうにか誤魔化してきたが、許される限りあの世界にいたかったのだ。

 そう思っていた時に、ブラックからもらった約束の指輪の石に異変が起きたのだ。

 輝きが消えて濁った色となり、私は胸騒ぎがしたのだ。

 私とブラックを繋ぐ唯一の物・・・

 きっとブラックに何かが起きている。

 私は急いでカクに手紙を書いて、光の鉱石を送ってもらう事にしたのだ。

 秘密の扉に手紙を入れると、次の日には自分が書いた手紙は消えて、新しい手紙と小さな小袋が入っていたのだ。

 カクの事だから、毎日のように扉を開けていたのだろう。

 こちらの1日は向こうの世界では3日くらい経っているのだ。

 ブラックの様子がとても気になったが、やはりカクの手紙からでは魔人の国での状況を知る事は出来なかった。

 直接行かなくては・・・。

 

 異世界に転移する準備は整ったが、後は父になんて言おうかと考えていた。

 ブラックが心配で私はすぐにでも転移したかった。

 カクから光の鉱石が送られて来た夜、私は思い切って父に真実を話す事に決めたのだ。

 きっと信じてもらえないだろうし、家を出る事自体反対されると思ったが、それでも私の気持ちは揺らがない自信があったのだ。


 夕食を終えた後、私は父に大事な話があると告げたのだ。

 父はいつになく真面目に話す私と、横に置いたスーツケースに目を置き、只事では無いと感じたのか、黙って私の話を聞いてくれたのだ。

 すると意外な事を話してくれたのだ。


「舞・・・別の世界があるって話は、実は今回初めて聞いたわけでは無いんだよ。

 舞の母さんと結婚する前に、母さんから聞いた事があるんだ。

 この家には代々伝わっている書物もあるってね。

 もちろん、母さんも行ったことは無いし、本当かどうかもわからないと言っていたよ。

 でも、おじいちゃんに昔話のように、子供の頃から話を聞いていたらしいよ。

 おじいちゃんには内緒だと言われていたけど、私に教えてくれたんだよ。」


 そう言って、父は懐かしい目をしたのだ。

 きっとその頃の母を思い出しているのだろう。

 父は何も知らないと思っていたので、私の方が逆に驚いてしまったのだ。


「だから、舞が今真剣に話している事が嘘だとも思わないし、別の世界の友人を助けたいと言う気持ちも、すごい事だと思うよ。

 もう・・・行くのは決めたのだね。」


 スーツケースを見て、私の顔を見たのだ。

 私は黙って頷いたのだ。


「わかった。

 こっちの事はなんとかなるから大丈夫だよ。

 ただ、約束してくれ。

 落ち着いたら、必ず戻ってくる事を。

 私は舞の父親だからな。

 心配するのは当たり前だろう。」


 そう言って優しく笑ってくれたのだ。

 私は今まで黙っていた事を謝り、落ち着いたらちゃんと戻ってくると約束したのだ。

 

 私は今回も使えそうな漢方薬や医薬品を色々持っていく事にしたのだ。

 そして、スーツケースにそれを詰め込むと、以前と同じように自分の部屋にある魔法陣の中に立ったのだ。

 そして今回は、父の見守る中で転移するのだ。


「舞、その姿で行くのか?」


 私はいつものように、薄水色の白衣を着てスニーカーを履き、黒い長い髪を一纏めにしたのだ。


「うん。

 私にとっては、誰かのために何かを行う事は、いつもの仕事の延長だから。

 この方が落ち着くんだ。

 じゃあ、行ってくるね。」


 私はそう言うと、自分の頭上に光の鉱石の粉末を投げたのだ。

 その綺麗な粉は魔法陣の中心へと引き寄せられ、私を包むように集まり、魔法陣の中のものは全て消え去ったのである。


「すごいな・・・母さんにも見せたかったな。」


 父はそうつぶやいて、舞の消えた魔法陣からしばらく目が離せなかった。


            ○


            ○


            ○



 光の霧が消えると、私は暗い薬草庫の中にいたのだ。

 そこは生薬に似た匂いで充満していた。

 前に来た時よりも薬草の種類も増え、昔の薬草庫に戻っているようだった。

 いつもは昼間に転移していたためか、こちらの時間も昼間だった。

 しかし今回は夜の転移のため、予想通り外は星がとても綺麗な夜だった。

 私はお屋敷に移動して、扉をノックしようとした時、勢いよく扉が開いたのだ。


「舞、おかえり。」


 そこにはいつものカクの笑顔があったのだ。

 

「え?なんで来たのわかったの?」


「光の鉱石を送ってからずっと薬草庫を見張ってたんだよ。

 舞がいつ来るかなってね。」


 さすがなのだ。

 そう言う事にはいつも一生懸命で、嬉しい限りなのだが・・・。


「おお、舞、おかえり。

 待っていたよ。」


 奥からヨクが嬉しそうに笑いながら出て来た。

 私はヨクの元気そうな姿が見れてホッとしたのだ。


「ただいまー。」


 私はここに来れた事が本当に嬉しかった。


 

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