第37話 決意

 舞はカクとヨクに頭を下げたのだ。

 

 私はこのお屋敷に住まわせてもらい、この世界や薬師について勉強をさせてもらいたかったのだ。


「え?舞、ずっとこっちにいるって事?

 本当に?」


 カクは私の言葉に驚いて声を上げると、ヨクが笑いながら私の肩に手をおいたのだ。


「まあまあ、頭を上げなさい。

 まずはお茶を飲んで、ゆっくりと話を聞かせておくれ。」


 ヨクはそう言って、椅子に腰掛けるように促したのだ。

 

 私はカクとヨクに今の自分の気持ちをを伝えたのだ。

 こっちの世界を知りたいだけでなく、いずれはこの世界で生きていけるだけの力をつけたいと思ったのだ。

 誰かに守られるだけでなく、自分の力でここにいられる強さが欲しかったのだ。

 少なくとも、今の自分では無理なのもわかっている。

 ここではカクやヨクを頼ってなければ生きてはいけないのだ。

 わかっているからこそ、生きていくすべを身につけたかった。

 そして、この世界で頑張る事が出来れば、きっと魔人の友人達にも恥ずかしくない姿を見せる事が出来ると思ったのだ。

 私が今まで誰かを助ける事が出来たのも、ハナさんが作った薬があったからであり、私の力では無いのだ。

 そんな事は初めからわかっていたのだ。

 ハナさんの足元にも及ばない・・・。

 そんな自分が情けなかった。

 私は、私だから出来る事を探す為の勉強をしたいと思ったのだ。

 私はそう自分の思いを伝えたのだ。


「舞の気持ちはわかったが、それにはある程度の覚悟が必要なのだよ。

 お父上の了解が得られたとしても・・・舞、この世界と舞の世界では時間の流れが違うと言っておったな?」


 浮かれていたカクもヨクのその言葉を聞き、真面目な顔になり黙って私を見たのだ。

 ヨクがそう言うのはわかっていた。

 ずっとこっちの世界にいると言う事は、父より三倍くらい早く歳をとるということ。

 二度と父に会わないのであれば、気にすることでも無い。

 だがそうで無いのなら、いずれ父は自身の歳と同じくらいの娘に会う事になるかもしれないのだ。

 後で元の世界に戻りたいと思っても、私の中の時間は世間より三倍進んでいるのだ。

 ・・・それでも、今の私は自分の生まれた世界よりこの世界での居心地の良さを知ってしまったのだ。

 先のことはわからないが、今は純粋にこっちに居たかったのだ。


「・・・父にもわかってもらいます。」


 私は真っ直ぐにヨクを見て頷いて答えた。

 ヨクは目を閉じて何か考えているようだったが、目を開けると私を見てため息をつき笑ったのだ。


「ふーん、舞には困ったものだ。

 ・・・では、ちゃんとお父上と話し、こちらに来る準備が出来たら手紙を書いておくれ。」


 その答えを聞いて、それまで黙っていたカクが叫んだのだ。


「やった!

 舞、ずっと一緒にいられるんだね。

 夢みたいだよ。

 じゃあ、今日はご馳走だね。

 今、頼んでくるからね。

 あーそれに舞の必要なものも色々揃えないとね。

 早く買い物に行かないと。

 あ、薬師の服は前に準備したのがあるからね。

 それと・・・」


「カク、気が早いわよ。

 一度父の所に戻ってくるから、まだ時間はあるから。」


 私より喜んでいるカクを見て、私は安心したのだ。

 ここにはもう一つの家族がある。

 私はカクとヨクを見て、心から感謝したのだ。


 その夜はいつものように三人で沢山飲んで食べて遅くまで色々語り合った。

 私はこの世界で知りたい事、勉強したい事を話し、二人からそれについて色々な話を聞く事が出来たのだ。

 そして、この世界には薬師になる為の学校の様なものがあるらしく、カクがたまに講師として授業をしているというのだ。

 カクが?と思ったが、そう言えばカクは七人しかいない王室付きの薬師で肩書きはすごいのだった。

 ヨクがそこの聴講生となれるように取り計らってくれるというので、私はとても楽しみで仕方なかった。

 この世界の医療は舞の住んでいる世界ほど進んではいなかったので、何とか理解できるのではと思った。

 そして、この世界にある魔法道具についても色々知りたかった。

 色々な鉱石がその道具や武器に関わっていることはヨクから聞いてはいたが、もっと詳しく知っておきたかったのだ。

 その上で、私しか出来ない何かを見つけたかったのだ。



 私はいつの間にか眠ってしまったようだ。

 記憶が曖昧だが、ちゃんと着替えてベッドに入っていたのだ。

 外はすでに明るくなっていて、私は喉が渇いたので飲み物を取りに部屋を出たのだ。

 一階に降りていくと何やら来客のようで、話し声が聞こえた。

 そっとドアを少しだけ開けて覗くと、そこにはブラックがいてヨクと話をしていたのだ。


「何でブラックがいるの?」


 私は驚いてドアをバタンと開けると、振り向いたブラックは笑いながら立ち上がったのだ。


「舞、起きましたか?

 昨夜は遅くまで起きていたと聞いたので、起こさなくて良いと言ったのですよ。」


 私はふと自分がスッピンでパジャマ姿である事に気付き、恥ずかしくなったのだ。

 

「すぐ、着替えてくるわね。」


「着替えは後でもいいですが、大事な話があるので部屋に行ってもいいですか?」


 私は一瞬どうしようかと思ったが、真面目な顔になったブラックを見て断る事は出来なかった。

 仮住まいの部屋のため特に汚いわけでも無かったし、下にはヨクもいたので、無防備に私はブラックを部屋に入れたのだ。

 しかし、ドアを締めるとブラックはすぐにその部屋に結界を張ったようで、外から隔絶した空間を作ったのだ。


「さて、これなら誰からも邪魔されませんね。」


 そう言ってブラックは微笑みながら私を見つめたのだ。

 私はこの状況に、何だか自分の心臓の音がブラックに聞こえるのではないかと思うくらいドキドキとしていたのだ。



 

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