Last stake いつか見た夢の続きを

「こ、これはどういうこっちゃ!? あんたら一体何をしてんねん!?」


 僕は雀荘の中で声を荒げる。


「ちょ……お前ら、やめぇや! こん中のもん、どこへ持ってくっちゅーんや!?」


 雀荘の中にはいくつものダンボール箱が置いてあった。


 それを次々に運び出そうとしていく作業着の青年たちひとりの腕を掴んで僕は声をあげる。


「離してください! 作業の邪魔ですわ!」


 そう言って僕の手を強引に振り解き、その青年はすたこらとダンボール箱を外へと運び出してしまった。


 一体何が起きているのか、僕にはさっぱり理解ができない。


 そうだ、バイトたちはどこへ行った!?


 このテナントビルには僕の雀荘を二十四時間営業させる為に、住み込みで雇っているバイトたちがいたはずだ。


「……何をキョロキョロとしとるんかはわからへんけど、もしここにおった若いバイトどもを探しとるんやったら、もう帰らせたで」


 僕の考えを見透かす様なその言葉は、背後から投げかけられた。


「……ふ、深田……さん!?」


 そこに居たのは先日、バカラ屋で出会ってしまった親父の知人である深田さんであった。


「深田さん! これはどういう事なんすか!? 何が起こってるんか、説明してください!」


「……はあ。敬坊、おめぇはもうおしまいや」


 深田さんは深い溜め息を吐いて、僕にゆっくりと説明してくれた。


 先日、僕がバカラ屋を出入りしている事を知った深田さんは、あの後すぐに僕の親父へと連絡。


 当然、親父は烈火の如く激怒した。


 そして親父は問答無用で僕の雀荘を片付ける事を決意したのだとか。


 それは何故か?


 僕をこの街にいられなくさせる為だ。


 この雀荘の名義は僕の親父だ。


 つまり親父の権限で全て如何様にも出来てしまう。


 僕の親父は完全にぶちギレて、ここを処分し売り払う事に決めたのだそうだ。


 親父の勝手な権限で雀荘の中の物は全て処分し、そしてバイトたちも全員強制的にクビにしたらしい。


「そんな……そんな勝手な事を……!!」


 僕はあまりの理不尽な親父の行動に、体を震わせる。


「……来い、敬坊!」


「え!? ちょ、深田さん!?」


 そんな僕の事などお構いなしに、深田さんは僕の腕を掴み、ビルの外へと連れ出した。


 そして近くの駐車場まで強引に引っ張って行き、シルバーで高級そうなアウディの前まで連れて行くと、その助手席のドアを開けた深田さんに、


「乗れ!!」


 と指示された。


 僕は逆らう気力も無く、大人しく言われた通りそのアウディの助手席に乗り込む。


 そして深田さんは運転席に乗り込み、


「これからおめぇをダンナのところに連れていく」


「え!? ま、まさか親父のところですか!?」


「せや! おめぇはこんな街にいたら駄目んなっちまう!」


「ま、待ってくださいよ! 深田さんッ!!」


 深田さんは勢いよく車を発進させ、僕の言う事など全く耳を貸さず、どこかへと車を走らせて行くのだった。




        ●○●○●




 深田さんの車は繁華街を抜けた先にある、大通りのスターバックスの駐車場に辿り着いた。


 僕の親父は大のコーヒー好きで、このスターバックスコーヒーをこよなく愛している。


 なのでここで親父が待っている事はすぐに理解した。


「テラス席にいるはずや。行ってこいや」


 深田さんは車の中で僕とは目も合わせようとはせず、今もそれだけをぶっきらぼうに言い放った。


 僕は深田さんに言われた通りスタバの店内に入り、テラス席へと向かう。


 遠目からでもすぐにわかった。


 大柄なスキンヘッドの男が見える。それが僕の親父だ。


 テラス席の一角で、その身の丈とは不釣り合いなほど小さめなチェアーで大股を広げ、ふんぞり返る様に威風堂々として腕を組んでいた。


「……親父」


 僕が親父の近くまで歩み寄りそう呼び掛けると、親父は黙したままガタッ、と席から腰をあげ、上半身を少し捻った。


「……?」


 僕は一瞬だけ不思議そうな顔をしたその直後。


「ッ!!」


 バキィィイイイイッ! という強烈な音と共に、僕の左頬は親父のグーの拳でぶん殴られていた。


 そのあまりの凄まじさに、僕は身体ごとふっとばされ、後ろの誰もいないテラス席のテーブルをその身体で思いきりガッシャーンッ! とひっくり返してしまっていた。


 僕は痛みと突然の出来事に頭が混乱するばかりで、何も言葉を発する事は出来なかった。


「おはよう敬史たかふみ。目ぇ覚めたか?」


 尻もちをついて親父を見上げる僕を、ギロっと鋭い視線で見下す。


「お、お客様!? 一体何事でしょうか!?」


 当然店内の店員が慌てて僕らのいるテラス席へとやってくる。


「気にせんでください。俺ら親子ですんで、ただの親子喧嘩っすわ」


 親父は店員にドスの聞いた声でそう告げる。


「もう暴れたりはしねぇんで、安心してください。ただ、少しこの馬鹿息子に説教かますんで、ちっとばかりやかましいのだけご容赦してください」


 威圧したかと思いきや、今度はその店員さんへペコリ、と親父は一礼した。


 その有り様を僕は何も言えずに、ただ殴られた頬を押さえているだけであった。


「……おう、敬史たかふみ。おめぇ、俺が言った事、わすれちまったんやないやろな?」


 親父は仁王立ちで腕を組み、僕を見下ろしてそう尋ねる。


「っく……。わ、わかってるって。ギャンブルは身を滅ぼすってやつやろ!?」


 殴られた拍子に口の中を切ったようだ。頬の痛みと同時に口内に感じる鉄の味を噛み締めて、僕は親父をめ付ける。


「せや。わかっててなんでバカラ屋なんかに行きよったんや?」


「あ、あれは遊びなんかやなくて、ちゃんとした金稼ぎで……」


「この腐れど阿呆がぁッ!!!!」


 親父の怒声はまるでスタバ全体を揺らすのではないかと錯覚してしまう程の圧があった。


 僕は思わず言葉を飲んですくみあがる。


「金稼ぎ、やと? おめぇ、舐めとるんか!? ぁあ!?」


 親父は僕の胸ぐらを片手だけで掴み上げた。


 相変わらず恐ろしい怪力親父である。


「俺ぁよぉ、確かオメェに言ったよなぁ? ちゃんと理詰めで考えて、考えて、将来性を踏まえたプランニングがしっかりあって、それをだらけず遊ばずにきっちりやれるんなら、俺の名義を貸してやるって」


「そ、そうや。せやから僕はしっかりマーケティングもしてあの雀荘を……」


「雀荘は別にええ。けどなぁ……闇カジノはええわけないやろがぁ!? ふざけた所で遊んでんちゃうぞボケぇ!! ええゴラァ!?」


「い、いやいや、ちゃうねん! ホンマに冷静に聞いてくれ親父!」


「これが冷静でいられるかこのクソ馬鹿息子がぁ!!」


 親父は掴み上げていた胸ぐらを自身の眼前にまで引き寄せ、鬼の形相で僕を黙らせる。


「おめぇよぉ。せっかく入れた大企業を辞めて、そんで商売始めたんやろ? 遊ばへんでしっかりやるって俺に約束したんやろ!? それがなんで闇カジノにおるんや!? ぁあ!? 言うてみぃやぁ!!」


「せ、せやからさっきから聞いてくれと言うとるやん! 僕はちゃんと考えがあってやな、運任せにバカラやっとるわけやなくて、ちゃんと攻略したりして……」


「クソど阿呆がぁーーーーッッッ!! ギャンブルやるやつぁどいつもこいつも同じ言い訳するんじゃああ! こんくそボケぇええッッッ!!」


 親父はそう言って掴んでいた僕を勢いよく放り投げた。


 もはや親父は怒りの化身となってしまっていて、まともに僕の言葉など通りそうもない。


「……とにかくや! おめぇは俺との約束を破った。運否天賦のギャンブルで、しかも一番やっちゃあならねぇとされてるバカラなんぞにうつつを抜かしやがった。あれだけは手を出しちゃなんねぇっつーのにや」


 僕は何も言い返す気力もなくなり親父を見上げる事しか出来なかった。


「せやから、もうおしまいや! おめぇの独立は打ち切りや」


「……そ、それはどういう」


「おい、敬史。携帯出せ」


「え? な、なん……」


「ええから出せやッ!!」


 僕は渋々と携帯電話を手渡す。


 どこかに連絡するのか、はたまたバカラに関するデータや関係者の連絡先でも消すのだろうか。


 と、呑気に構えていると。


「……ッフン!!」


 と言って親父はバキンッ! と、僕のガラパゴス携帯電話をその折りたためる方向とは真逆に、真っ二つに叩き折った。


「なーッ!? ななな、何すんねん親父!?」


 僕が声を荒げるのも聞かず、親父は真っ二つに砕いた僕の携帯電話を地面へ叩きつけ、更に足でガシガシと踏み潰した。


「あ……あ……」


 そしてあっという間に僕の携帯電話は、ただの金属片とプラスティックの残骸へと姿を変えた。


「ふん! 行くで! 来いッ!!」


「い、いででで! は、離せや!」


 親父は問答無用で僕の腕を掴み、引き摺る様に駐車場へと連れて行く。


 そして今度は深田さんのアウディではなく、親父の愛用車である最近買い替えたばかりのシルバーのセダン、セルシオの所へと連れていかれ、


「乗れ!」


 と、僕の有無を言わせず強引に、その助手席へ蹴飛ばされる様に乗せられた。


 親父も足早に運転席に回り込み、車のエンジンをかける。


「ど、どこ行くねん……」


「この街を出る。敬史、おめぇはもうこれで見納めやからな? 最後に街の景色でもよぉく眺めとけこのアホんだら!」


「え!? ちょ、親父!?」


 それだけを言うと、親父はそれ以降運転中はひとことも発する事なく、車はこの街を出て行くのであった――。




        ●○●○●




 そして親父に街から連れ出され辿り着いたのは、懐かしい僕の実家がある町。


 そこで親父は、「俺が経営している会社で事務職をしろ」と僕に命令をした。


 僕が何を言おうともあの親父は一切の聞く耳を持つ事がないのは百も承知だ。


 故に、僕はもはや全てを諦め、親父の言う通り、親父の会社の平社員となって働かざるをえなくなった。


 脱サラした僕は、またサラリーマンへと強制的に戻されてしまったのだ。


 そして親父の言葉通り、僕が独り立ちしたあの街、あの繁華街での暮らしは、本当にあの親父の車の中から見た景色が最後の見納めとなってしまったのである。


 花守くん、キドケンさん、それに世話になったたくさんの人たち。


 その誰にも挨拶する事も出来ず、お別れとなってしまったのだ。


 彼らからすれば僕は忽然と街から消えた様な形になってしまったわけだった。


 彼らも僕の身を案じてるに違いないだろうとは思うが、僕にはもはや彼らに連絡する手段の一切が無くなってしまったのである。


 まず携帯電話を親父に破壊されてから、僕は携帯電話の類いを持つ事を禁じられてしまい、実家の固定電話しか使えなくなった。


 僕も今時の青年だ。携帯電話に登録されていた電話番号などほとんど暗記出来ていない。


 友人たちの中で唯一思い出せるのは花守くんの携帯番号。


 あの繁華街での暮らしで、彼との付き合いが一番深かったからである。


 当然僕はこの実家に戻されて、親父たちの目を盗んですぐに花守くんに電話を掛けた。


 が、案の定彼は電話には出てくれなかった。


 半分予測していたのだが、花守くんは基本的に見知らぬ電話番号からの電話には一切出ないし、掛け直す事もしない。


 彼は水上静留の件から様々な事に警戒する様になってしまい、怪しい電話には出ない様にしているのだと以前、僕に話していたのを覚えている。


 それならまた日を置いて電話をするかと思ったのだが、僕がどこかに電話していた様子を実家の母に見つかっていて、親父に報告されてからは、僕は実家の電話すらも使用不可にされてしまい、結局花守くんに電話を掛けられたのはこの日だけとなってしまった。


 更に僕は常時親父の関係者に見張られ、朝から晩まで事務所で缶詰め状態。夜は親父のお抱えドライバーに送り迎えをさせられてしまい、すぐに実家へと帰らされ、そして母が作ってくれた手料理で夕食を摂り、夜の十時には就寝する、というまさに絵に描いた様な規則正しい生活をさせられた。


 当然、僕の車などとっくに処分されていた。


 つまり完全に僕は親父に軟禁状態にされてしまっていたのだった。

 

 足も無ければ連絡手段も無い。自由に動ける時間すらも無く、僕はかつてのサラリーマン時代よりも更に窮屈な生活を余儀なくされてしまったのである。


 僕はまさに読んで字が如くの、箱入り息子になってしまったのだった。




        ●○●○●




 ――実家へと強制帰宅させられ、自由の一切を奪われてから気づけばひと月近くもの時が過ぎていた。


 あの親父には下手に逆らってもロクな目に合わない事はよく知っている為、大人しく仕事に精を出していた。


 その勤務態度に加え、僕が家から抜け出したり、妙な事をしていない様子を確認していく内に、少しずつ親父の怒りも落ち着きを取り戻した頃。


 僕は親父の会社の事務仕事が終わって、車で家まで送迎してもらい帰宅した後に、少しだけ自由時間が出来る様になった。


 前までは家の中でも母が僕を見張っていた(おそらく親父に言われたのだろう)のだが、最近はそれも緩くなってきた。


 そこで僕はまた最近、懲りずに何度も何度も花守くんに電話をかける事をここ最近の日課にしていた。


 この実家からの電話には一切出ない花守くんだったが、こうして毎日掛けていれば、いつか出るのではないかと思ったのだ。


 そして、それを始めてから三日目の今日。


「……どちらさま?」


 と、ついに花守くんが電話に出てくれたのである。


「花守くん、やっと出てくれた! 僕っす! ベルですよ!」


「え!? ベ、ベルさん!? 本当にベルさんですか!?」


「はい! すんません花守くん、突然消えてしまう形でいなくなってしもて……」


「一体何があったんですか!? 誰も何も事情を知らなくて……」


 僕はこれまでの経緯と積もる話を、彼と交わした。


 親父に雀荘を処分させられた事。


 親父に携帯電話を破壊された事。


 親父に強制的に連れて行かれ、僕はもうその街には帰れそうにない事。


 それら全てを彼に話した。


「そんな事が……。いや、でもやはり……。おかしいと思ったんです」


 すると花守くんが奇妙な事を言い出した。


「おかしい? ってなんすか?」


「いえね、まさかベルさんともあろう人が、借金を苦に夜逃げした、なんてありえないと思っていたので」


「は!? なんすかソレは!?」


 花守くんの説明によると、あの繁華街や界隈で僕はバカラ屋で負けが込みすぎた為、突然夜逃げした、と言う事になってしまっているらしい。


 そしてその原因はなんと、


「な、ななな、なんやて!? 広山のおっさんが!?」


 バカラ屋で僕としばらくの間、一悶着のあった、あの広山である。


 僕と花守くんがちょうど『麻野組』に追われていた為、バカラ屋に姿を見せなくなった頃。


 広山はなんと、僕の名前を使ってバカラ屋の中にいる『金貸し』に金を借りていたのである。


 僕は雀荘経営をしていた時、名刺を持っていて、それを広山はどこかで手に入れ、それを使いバカラ屋内の『金貸し』に金を借りていたのだった。


「ひゃ、ひゃくまん!?」


 そして広山が僕の名義で借りた金額はなんと百万円。


「じゃ、じゃあなんすか!? 僕はバカラ屋に金を借りて夜逃げしたっちゅーんすか!?」


「そういう事になっています。せやからこっちでは今、バカラ屋の内部の人間がベルさんを躍起になって探してる様です」


 なんという事だ。


 広山の奴めはおそらく、まだ僕の事を逆恨みしていたのだ。


 以前の酒の席にて和解した様に見せかけていたのは、柿沼さんが居たからだったのだろう。


「それを少し後で知ったボクとキドケンさんは、流石にこれは看過できないと思い、広山さんに詰め寄ったんですが、彼は、自分はベルくんと話が出来ているからええんや、と身勝手な事を言うてたんです」


「ぐ、ぐぐ……あのクソボケ広山は、やっぱりとんでもない大嘘つき野郎やな!」


「彼はそれだけじゃ飽き足らず、他の闇カジノの『金貸し』にもベルさんの名前を使って借りようとしていたので、ボクはそれを柿沼さんと一緒に止めました。柿沼さんに言われてようやく広山も言う事を聞いてくれたのは幸いでしたが……」


「せやったんすか……花守くん、ホンマにありがとうございます!」


「いえ……でも最初に広山が借りてしまった百万円は、どうにもならない様です」


「……つまり名義上僕が返さなアカン言うことっすよね」


「はい。そうしないと、どんどん利息が膨らみ、もしいつかベルさんの身元が割れた時、とんでもない額になってしまいそうです」


 僕は利息の事を失念していた。


「……となると、僕の名義のその百万円は返済金額が百万円ではないんやないですか!?」


「……はい、おそらく現段階で百六十万円程に膨れ上がってる様です」


 百六十万、という金額を聞き、僕は広山を殴り飛ばしたい程に頭に血が昇りそうになった。


 ひとまず花守くんの話では柿沼さんのおかげで広山も大人しくなっているのでこれ以上の心配は無さそうだが、『金貸し』に借りてしまっている身に覚えのない百六十万円はどうにかしないと、ど偉い事になりかねない。


「……はあ。しゃあない。その百六十万はすぐに払いますわ。ただ厚かましいのは重々承知でお願いなんすけど、花守くん、ひとまずそれを代わりに払っておいてもろてもええですか? 僕は今すぐにそちらへ向かう手段がないんで……」


 花守くんはすぐに二つ返事でその返済の肩代わりを引き受けてくれた。


 そして後日、花守くんの方から僕の実家に直接来てくれると言ってくれたのでその時にお金を渡すと約束した。


 もちろん花守くんを疑うわけではないが、念の為その『金貸し』の借用書も持ってきて貰う事もお願いした。


 正直今回、花守くんと運良く電話が繋がってくれて助かった。


 闇カジノの胴元はだいたいがヤクザ者だ。なので『金貸し』の類いのトラブルは放っておけば相当に面倒な事になりかねないからである。


 そして僕の事情の全てを知ってもらった花守くんには、僕の事を仲間や雀荘の元バイトたちに伝えておいてほしいと頼んでおいた。


 あとはお互いささやかな積もる話を交わし、その日は電話を終えた。


 電話の最後の方に花守くんは、「ベルさん、ボクは夢を諦めません。例えこの先バカラが出来なくなったとしても、ギャンブルという世界に必ず身を置いて、そして勝ち続けます」と、言い切った。


 だから僕もその言葉で自分の気持ちを取り戻したかのように、


「僕も必ずまた返り咲いてみせる。ただの社畜なんかで終わらない」


 と、まるで決意表明の様に告げた。


 お互いの目標はなんであれ、僕らは確かにプロだった。


 バカラだけで食っていけるほどに、僕らは稼げていた。


 運否天賦ではなく、勝つべくして勝ち続けていたのだ。


 これをプロと呼ばずして、何をプロと呼ぶのか。


 そんな僕のバカラプロ時代は、親父の手によって強制的に終わりにされてしまったが、僕はまだ諦めていない。


 僕が諦めていないのはただギャンブルがしたい、という事では決して、ない。


 どんな世界においても『運ではなく勝つ』という事をだ。


 今は親父の会社の社畜だ。ここで勝つには親父の敷いたレールを超え続けなければならない。


 そうではなく、僕は僕自身が決めた土俵で、そしていわゆる一般人以上のチカラ、財力、知識を持てる様になりたいのだ。


 それが今はなんなのかは僕にはまだわからない。


 けれど、花守くんと最後に交わした約束。

 

 僕が僕の決意表明を彼に聞かせたのちに彼が言った約束。


 それは、


「お互い、どんなジャンルであろうと、将来必ず讃え合い、自慢し合える関係でいよう」


 というものだった。


 そしてその約束を交わした後、一番最後にポツリ、と花守くんが僕に残した言葉がある。


 それは前々から花守くんがちょくちょく言葉の端にしていた単語。


 僕の狂気じみた学習能力、記憶力、好奇心を揶揄して、こう言った。




 その飽くなき精神力はまさしく『狂気』そのもの。


 バカラも麻雀も、まさに尊敬の念を込めた『狂人』。


 その力でぜひ大物になってほしい。


 狂人ベルさん、こと、






 ――BERSERKベルセルクによろしく。




 と。


 

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