8stake 決別。そして……

 僕と花守くんのシーカーの結果がそぐわなかったゲーム。


 そして僕が絞っている数字の6であるはずのカード。


 それは――。


「なっ……!?」


 ツ、ツーサイド!?


 自分で捲り上げているそのカードを、僕は信じることができなかった。


 これはスリーサイドであって、つまりは6であるはずなのだ。


 それが僕のシーカーの結果なのだ。


 しかし現実は……。


「プレイヤーメイクファイブ。バンカーメイクフォー」


 ディーラーが結果を告げる。


 僕が開いたカードは6ではなく、4。


 そう、つまり僕のシーカーは読み間違えていて、花守くんの言う通り、クイーンの前に一枚、不明なカードがあったのだ。


 だから一枚ずれた、4を僕が絞った結果となった。


 つまり。


「僕の……シーカー……ミス……」


 僕は力なく、呟く。


 先程まであった花守くんを打ち負かしてやる、という気概など一瞬で吹き飛び、そして愚かな自分に嫌悪感を抱く。


 ああ、僕はなんて馬鹿だったんだろう。


 そもそも花守くんとの取り決めで二人の意見が割れたらベットを見合わせようと話していたのに。


 花守くんは自分のシーカーに、僕以上の自信があったからプレイヤーにオールインしたんだ。


 花守くんは、サブシーカーの席にいながら、メインシーカーの僕より正確なシーカーをこなして見せたんだ。


 そう思い、僕は悔しさと愚かさで頭が真っ白になっていた。


 すると、突然。


 ガタン! と、勢いよく花守くんが席を立った。


「……ぇ?」


 シーカーは花守くんの方が合っていた。花守くんのオールインこそ正しい。それなのに一体何が気に入らないのか……そう思っていると。


「……ぁ」


 僕は今の状況を見直した。そして、背筋にえもいわれぬ悪寒が走る。


『プレイヤー――』


 つい先ほど発せられたディーラーの言葉を思い出す。


 花守くんはすでに席を立ち、僕を置いていくように店から出て行ってしまった。


 ……そう、これは薄い可能性を引いていたのだ。


 一枚目の不明なカードが、その薄い可能性を実現していた。してしまっていた。


 今はプレイヤーは合計値5、バンカーは合計値4。


 そしてこのあと出るカードを僕は、僕らは知っていた。


「プレイヤー三枚目条件、引きます」


 この状態で次に来るカード。それは――。


「6は決まらずのカード、プレイヤーメイクワンです! バンカーフォーからワンモアになります……三枚目はエイト! バンカーメイクツーでバンカーウィン!」


 そう、読み通りの数字の6。そしてその後も読み通りの8。


 つまりプレイヤーの一枚目が運悪く5だったために、起きてしまった逆の奇跡。薄い可能性である5を引いてしまっていたために起きてしまった、逆の奇跡。


 5プラス6イコール1という結果が起きてしまった。


 ゆえに、結果的にバンカーへとオールインで賭けていた僕は勝ってしまった。


 プレイヤー1対バンカー2という奇跡の僅差で。


 しかしそれを知ってしまったからこそ、花守くんは何も言わずに席を立ち、店を出て行ってしまったのだ。


 僕からすれば勝負に負けて、試合に勝った。


 花守くんからすればまさにその逆。


 彼はプレイヤーメイクファイブを見た瞬間に、それら全てを察したのである。


「は、花守くん……!」


 僕は慌てて彼の後を追おうとするも、ここでもまた問題発生。


 僕はまだ今日のベットを始めてからワンシューターもプレイしていない。まだチップを換金できないのだ。


 しかしそんなことよりも店を出て行ってしまった花守くんの行方が気になる。


「す、すみません! 後で必ず続きやるので、チップ預かっといてください!」


 僕はキャッシャーにそう言い残して、花守くんの後を追う様に店の外へと飛び出した。


 エレベーターを呼び、急いで一階へのボタンを押して乗り込み、そして飛び出すように夜の繁華街へ向かった。


 だが、その日。


 繁華街の人混みの中、ついに花守くんを見つけることはできなかった――。




        ●○●○●




 花守くんと決別してしまったあの晩から、一週間ほどが過ぎた。


 あれから僕は花守くんと一切の連絡を取り合うことをしなかった。


 しかしこれは連絡を取り合うことをしないだけで、花守くんに会うことはあったのだ。


 ――バカラ屋内で。


 僕の致命的なシーカーミスと、神様のイタズラのようなカードの運により、僕たちの仲は裂かれた。


 それでも僕らはプロだった。


 だからバカラをやめるようなことはない。ゆえに、花守くんともバカラ屋で会うことにはなる。


 あれから三日後の夜、いつものバカラ屋で僕は花守くんを見つけた。


 そして当然彼も僕に気づいている。


 だが、花守くんは僕のことを見ようともせず、声を掛けてくるようなこともなかった。だから僕も同じような態度を取る。


 それから数日が経っても、お互いがまるで赤の他人のように振る舞っていた。


 ――そして今日も別テーブルで花守くんがいるのを確認しているが、あえて目も合わさずにいる。


「……ねぇキドケンさん、どうしちまったんすかね? 花守くんとベルさんは?」


「……わかんないんすよ。私も何も聞いてないんですわ」


 僕の横でユウシとキドケンさんがヒソヒソと囁き合っているのが聞こえる。


 あれから僕はユウシとキドケンさんの三人でつるむことがほとんどになった。


 こういうのもなんだが、二人は割と僕の方にくっついている。


 別に二人は花守くんを避けているわけではないのだが、僕がそういう態度を取るので合わせてくれているようだ。


「……ま、彼には彼の道があるんすよ」


 僕は二人にそう言った。


 あまり詳細を話せる内容でもないので、どうしても濁した言い方にはなってしまう。


 僕としては、出来ればまた四人でつるみたいのだが、彼がああいう態度をしているところに、僕から折れて行くのはなんだか筋が違うような気がしたのだ。


 もしかしたら、僕が最初に再開した日、そうしていればこんなにこじれることはなかったのかもしれない。


 だが、それは今となってはもうどうにもできないことなのだ。


「……何を意固地になっとんねん、花守くんは」


 僕は誰にも聞こえないように呟く。


 この思いは、向こうも同じなのだろう。


 彼が奇妙な態度を取らなければ、僕は快く関係を戻そうと思ったが、彼の態度が明らかに僕を拒絶しているのが見て取れるからこそ、今、こうなっているのだから。


 一度大きく割れてしまったモノは、簡単には元に戻らない。


 だが、こういうものなのかもしれない。


 人生とは出会いと別れの繰り返しだ。


 僕は花守くんには多大な感謝をしている。だがしかし、だからといって、彼に全てを捧げているわけではない。


 確かにあのシーカーの結果は、僕の実力不足だ。


 しかし運が良かったとはいえ僕は勝ってしまった。


 だが、あのシーカーはどちらにしても薄いとはいえ、運の要素があるゲームだったわけだ。


 運も実力のうち、と考えるのならあの時の僕の判断が、まるっきり悪いとは思っていない。


 もちろん運否天賦に身を任せてしまうことを正当化しているのではない。


 僕らのシーカーは完璧だったとしても、三枚目条件や前後に潜むカード次第によっては多少なりとも運の要素はある。


 その運は僕に味方したのだ。それを妬んで癇癪を起こしている花守くんの方がおかしいのではないか。


 僕はそう思うようにすらなっていた。


(だからこそ、お互いこんなんなってるんやろうな……)


 客観的に自分を見て、そう思う。


 僕は僕が頑固であることも充分にわかっていたりもする。


 だから、この決別は致し方ないことなのかもしれない。


 何も死に別れるわけじゃない。


 彼とは、少し歩む道が別れるだけに過ぎない。


「……キドケンさん、ユウシ。今日もガッツリ稼いで、飲みに行こう」


 僕は花守くんのことを吹っ切るように、彼らにそう言った。




        ●○●○●




 ――それから更に一ヶ月ほどの時が過ぎた。


 僕はキドケンさんとユウシの三人でつるみ、そしてバカラで稼ぐ日々を変わらず繰り返していた。


 一方、喧嘩別れのような形となってしまった花守くんはというと。


「最近、めっきり見なくなっちまいましたね、花守さん」


 キドケンさんが喫茶店『リノ』のアイスコーヒーを飲みながらそう呟く。


「なあベルさん、そろそろ花守くんと何があったか教えてくれても良くないっすか?」


 キドケンさんのその言葉を隣で聞いていたユウシが、僕へと向かってそう問いかけた。


 花守くんと仲違いしてから一ヶ月以上が経とうとしていた。


 一悶着のあった後の数日間は、彼と会話をすることは無くてもバカラ屋でちょくちょく見かけていたのだが、つい一週間ほど前から、バカラ屋でぱったりとその姿を見ることはなくなってしまった。


 というより、そもそもこの界隈で彼を見る者がいなくなったのである。


「……話せるような内容じゃないねん。あくまでこれは僕と花守くんだけの問題やから」


 僕はユウシやキドケンさんに対し、頑なに彼との間に起きた事の経緯を話すことはしなかった。


 それはシーカーズベットの秘匿性も去る事ながら、単純に自分の落ち度を認めたくもなかったのだろう。


「でも、忽然と姿を消してしまったんは、さすがにおかしくないですかねえ?」


 キドケンさんが訝しげに言った。


「……知らないっすよ。僕はなんも」


 僕は本当に知らない。


 彼があんなにも頑なに怒ってしまった理由など。


 そして彼が一体何を考え、どこへ行ってしまったのかなど。


「まさか死んでたり……」


 ユウシが神妙な面持ちで不吉な事を呟いた。


「え、ええ!? ま、まさか花守さん、死んでしもたんですか!?」


 キドケンさんが大袈裟に驚く。


「いやいや、なんで突然死ぬねん!! アホか!」


 それに僕が強めにツッコむ。


「いやぁ、もしかしたら多額の借金を苦に自殺! とか、かもしれないやないですか」


 ユウシが自らの首を絞めるようなジェスチャーをした。


 そんな馬鹿なこと、あるはずがない。


 彼はバカラで稼いだ貯金がそれなりにある。


 それで借金を苦に自殺なんてことは考えられない。


 むしろ考えられるとするならば、それは――。


「いや、引っ越しとかかもじゃないすか?」


 と僕は言った。


「あー……まぁそれも充分にありえるなぁ」


「引っ越し、ですかい」


 ユウシもキドケンさんも僕の言葉に頷く。


「でも何で急に? 花守さんって地元この辺りや言うてましたけど……」


 キドケンさんが僕に尋ねるように言った。


 そんなことを僕に聞かれたところで、わかるはずもない。


「……さあ。僕は花守くんやないですから、わかりませんよそんなこと」


 僕の冷たいその返しに、ユウシとキドケンさんは一瞬、押し黙った。


「……ねぇベルさん。ホンマはなんか重たいことがあったんすよね? それが原因で花守さんは消えてしまったとちゃいますか?」


 キドケンさんが図星をつくかのように、鋭く僕へと尋ねてくる。


「……だったらなんや言うんですか」


 僕はそう言いながらキドケンさんに目を合わさず、タバコを吹かしながら窓の外を見やる。


「このままでええんですか?」


「……」


 僕は返事をしなかった。


 このままで良いも何も、もはやいなくなってしまった花守くんにどうすることも出来やしない。


「……電話くらいかけてみたらどうなんすか?」


 まるで僕の心を見透かすかのようにキドケンさんが追い討ちしてくる。


「……」


 僕はそれにも返事をしない。


 そんな僕の態度を見て、キドケンさんとユウシのふたりは呆れたように溜め息をつく。


 もう遅いのだ。


 僕らの前から花守くんは消えてしまった。


 もちろん電話番号は携帯に登録されてるし、かけようと思えばかけることは出来る。


 だが、そんな無粋なことをして何になるというのだろう。


 僕が悪かったです。調子乗ってごめんなさい、とでも言えばいいのか?


「……アホくさ」


 ふたりに聞こえないように僕はひとりごちる。


 過ぎてしまったことは、どんなに謝罪をしようとそれが無かったことにはならないのだ。


 そして謝罪をしなければならないほど、僕は僕が悪いことをしたとも思っていない。


 花守くんを恨んでるわけじゃない。


 ただ、お互い歩むべき道が分かれただけに過ぎない。


 彼は僕とは別の道を選んだんだ。


 それならそれで放っておけばいいのだ。


 僕はそんな自分の考えを正当化し、頑なにそれを変えようとはしなかったのだった――。




        ●○●○●




 それから更に数週間後のこと。


「ベルくん。キミ、ホンマに麻雀強いね」


 昼間。僕が経営する雀荘にて。


 人数合わせのために僕が卓に混じっていた時、不意に常連客のひとりからそう声をかけられた。


「ベルくん、そんな若さでここのオーナーをしつつ、更に麻雀の腕もピカイチやなんて、ほんま、恐れ入るわ」


 ニカっと笑いながら卓の上の牌をジャラジャラと混ぜる。


「いやあ、僕なんてまだまだっすわ。森田さんの方こそ、めちゃめちゃ上手いと思いますよ。森田さんの捨て牌なんて迷彩バッチリ過ぎて、待ちが全然読めないですもん」


 この森田という男は僕よりも少し歳上で、数ヶ月前から僕の店にちょくちょく出入りするようになった常連客のひとりであり、普段は近くのキャバクラの店長をしているためか、金回りも悪くなさそうだった。


「いやいや、美作みまさかくんから話はよく聞いていたけど、ホンマにベルくんはプロ雀士さながらの強さやな!」


 風俗店の店長でもあり僕の麻雀の師でもある美作さんと、この森田さんはどうやら顔馴染みのようで、聞いたところによると美作さんの紹介で森田さんは僕の店に来るようになったのだという。


 そんな彼、森田さんは、いつもやや長めの黒髪をオールバックで固めており、黒いシャツに極太の金のネックレスをちらつかせ、加えてかなり筋肉質の、いかにも腕っぷしの強そうな男である。


 実は彼と一緒に麻雀を打つのは今日が初めてだったので、それからとめどない話に花を咲かせていた。


「そういやぁベルくんってバカラも打つって聞いたんやけど、そっちも強いんやって? 他の客からようそんな噂を聞くねん」


 僕が夜な夜な、闇カジノでバカラを打っていることはすでに常連客の中では有名な話だ。


 僕も特別隠していたりはしないが、当然シーカーズベットに関わるような情報は一切漏らしてはいない。


「いやぁ、運がええだけですよ」


 僕が照れ臭そうにそう答えると、


「運も実力のうちってなぁ。ベルくんは博打の才能に恵まれとるんやろな」


「ははは……」


 運も実力のうち。


 その言葉に僕は瞬間、苦いにがい思い出を甦らせる。


「バカラって言やぁ、ベルくんとよくつるんでたあの子、最近なんや偉い噂、聞きよったで」


 ふと、森田さんが妙なことを語り始める。


「え……?」


 僕は洗牌シーハイしていた手を止め、困惑した表情で森田さんの顔を見ると、

 

「なんでも隣町や他県の島で、カジノ荒らしっぽいことをやっとるっちゅー噂聞いとるで」


「ちょ、ちょっと待ってください森田さん。それって……」


 僕の頬を嫌な汗が伝う。


「せや、ベルくんと一緒によくここにおった花守くんって子やで」


 なんとも不可思議な感情が僕の心を襲った。


 それは、彼が無事だったことに内心安堵している自分と、花守くんらしからぬ行為の不審さの両方。


「彼、あっちこっちのカジノ出禁になっとるくらい暴れ回っとるって聞いとるで」


「あ、暴れ回るって……花守くん、一体何をしてるんすか?!」


「ん? なんやベルくん、知らんかったんかいな。彼は最近、コンビか何か知らんが、ふたり組みであちこちのバカラ屋荒らしまくってとるみたいやで」


 あまりに唐突な話を告げられ、僕は唖然としてしまった。


「ど、どういうことなのか、詳しく教えてください!」


 それなりに高額のレートで賭けていた麻雀などそっちのけで、僕は森田さんからそれらの詳細を聞き出す。


 その内容は、冷静でルールを遵守し、常に慎重な花守くんとはとても思えないような行為の数々だった。


 バカラでオールインをして大勝ちする。問題なのはそれを何度もその日に続けて行ない、たった一日で五十万から下手をすると百万近くまで一晩で稼ぎ上げてしまうのだそうだ。


 そして店側がもう来るなと言い渡しに来るまでその行為を何日も繰り返し、店から完全に出入り禁止を申し渡されたら今度は別のバカラ屋に行き、そこでも出入り禁止になるまで同じような行為を繰り返すのである。


 それを花守くんともうひとりの男が一緒に行なっているのだと言う。


 その稼ぎっぷりがあまりにも激しいので、闇カジノの客たちから有名になり始めているのだそうだ。


「しっかしすげぇなぁ。カジノから出禁になるまで稼げるなんて、花守くんも博才ばくさいなんやなあ」


 森田さんは感心したようにそう言うが、僕にはどうしても腑に落ちない。


 彼が稼げるのはシーカーズベットがあるのだから当然だとして、何故そんな、カジノに目をつけられて出禁になるような行為をしているのか。


 そんなことを続けていれば、近いうちにどのカジノからも出入り禁止にされてしまう。


 そうならない為に、シーカーズベットを考案した木村さんから様々なルールを徹底しろと言われていたはずなのに。


「……すんません、僕ちょっと今日はもう帰ります」


「え? ちょ、ベルくん!?」


 僕は麻雀などしている場合ではないと思い、この場をバイトの雀ボーイたちに任せ、店から出て行くのだった。




        ●○●○●




「そりゃマジかベルさん!?」


「花守さんがそんな事を……!?」


 喫茶店『リノ』で僕の言葉を受けたユウシとキドケンさんが目を丸くして声をあげる。


 僕はふたりに電話をして彼らを呼び出し、そして森田さんから聞き及んだ花守くんの状況を話した。


「おそらく本当、やと思います。森田さんはキャバの店長やられてはるし、情報網も広いんで……」


 自分でそう言っておいて何だが、実際のところ僕はまだ信じていない。


 いくら僕とあんな決別の仕方をしたとはいえ、こんな暴挙な稼ぎ方をしては自分の首を絞める一方だと僕は思うからだ。


「花守さん、一体誰とそんなことを……」


 不意にポツリとキドケンさんが呟く。


 言われてみればそうだ。


 一体花守くんは誰とそんな行為を繰り返しているのだろうか。


 シーカーズベットを知らない者と一緒に組んでやるとは到底思えない。


 そうなると組んでいる相手は限られる。


 だが僕は木村さんが考案したシーカーズベットを、一体何人の人間が伝授されているのかまでは知らない。


「……花守さんの例の技でバカラが稼げることに着目した輩が花守さんを脅してる、なんてことも考えられませんかね?」


 そんなキドケンさんの言葉を聞き、以前の水上静留の件を思い出す。


 もしそうならなんとかしてあげたい、とも思ったが、僕らには花守くんの居場所がわからない。


「ねぇベルさん。やっぱり花守さんに電話してみたらどうすかね?」


 キドケンさんの提案に、僕は少しだけ頭を悩ませたが、


「……いや、やめときましょ」


 やはりそれは頑なに拒否してしまった。


「ベルさん。なんでその話をわざわざ私らにしてくれはったんすか? ベルさんもこのままじゃ花守さんがヤバイと思ったからこうやって私らを呼び出して相談してたんちゃうんですか?」


 キドケンさんがしつこくそう諭す。


「そうやベルさん。俺も花守くんがバカラ屋で声を掛けてくれたからこそ、ベルさんたちと仲良うなれた。その花守くんが困ってるのにこのままでホンマにええんか? 花守くんは俺らのダチやないんか? 今からでも遅うないと思うから、電話ぐらいしてみたらどうや!?」


 ユウシもそれに便乗して僕へとそう告げてきた。


「……花守くん」


 ふと、彼との過ごした日々を思い返し、僕は彼の名を呟く。


 確かに僕自身もこのままで良いなんて本心では思っていない。


 しかし、やはりその提案は飲めない自分がいる。


 花守くんのことは気になる。


 しかしその原因を作ってしまったのはもしかしたら僕なのかもしれないと思うと、色々考えていく内に僕は彼へと連絡を取ることが恐ろしくなってしまったのだ。




「……いや、もう彼は……僕らの仲間やないんですから」




 僕のその言葉に、ユウシとキドケンさんは残念そうな顔をしつつも、それ以上花守くんについて何も言う事はなかった――。



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